『顔』(かお)は、松本清張が1956年10月に出版した短編集。松本清張による初めての推理小説短編集として、1956年10月、講談社ロマン・ブックスより刊行された。第10回(1957年)日本探偵作家クラブ賞受賞作。
及び当該短編集に収録された表題作の短編小説。
収録作品
- 顔(初出:『小説新潮』1956年8月号)
- 殺意(初出:『小説新潮』1956年4月号)
- なぜ「星図」が開いていたか(初出:『週刊新潮』1956年8月20日号)
- 反射(初出:『小説新潮』1956年9月号)
- 市長死す(初出:『別冊小説新潮』1956年10月号)
- 張込み(『小説新潮』1955年12月号)
評価
- 本短編集により1957年3月、第10回日本探偵作家クラブ賞を受賞した。
- クラブ賞選考決定会は、同年2月24日に江戸川乱歩邸で行われ、日本探偵作家クラブ会長・木々高太郎は、清張の作品のいずれを選ぶか種々意見は分かれいろいろ議論された結果、『顔』その他として、圧倒的な支持により全会一致で受賞が決定した旨を述べた、という[1]。
- 江戸川乱歩は、同年8月に『宝石』に掲載された座談会で「この間、探偵作家クラブ賞というのを松本さんに上げたんです。あれだけの量を書いておられるし、従来の推理小説よりも味があるんだから、非常に敬服しましてね」と発言している[2]。
書誌情報
小説「顔」
「顔」(かお)は、松本清張の短編小説。『小説新潮』1956年8月号に掲載、1956年10月短編集『顔』に収録された。
またはそれを原作とする映画、テレビドラマ。
あらすじ
東京の劇団で役者として活動する井野良吉に、映画出演の話が舞い込んだ。しかし良吉には、全国的に顔が売れることを恐れる理由があった。良吉は9年前に、妊娠したからと結婚を迫るガールフレンドの山田ミヤ子を殺していたのだ。
9年前、温泉旅行を口実にミヤ子を連れ出した良吉は、殺害の前に、ミヤ子の知り合いである石岡貞三郎に顔を見られていた。この9年間、良吉は興信所を使って、貞三郎の動向を調べ続けていた。これまでは、島根県に住む貞三郎と顔を合わせる心配はなかったのだ。
良吉は、ミヤ子の親戚を装って、貞三郎を京都に呼び出した。ミヤ子の殺害犯を見つけたので面通しをして欲しいという口実で、貞三郎を殺すことが目的だった。しかし、貞三郎は途中で偶然に出会った良吉の顔に気づかなかった。貞三郎は犯人の顔を覚えていない。安堵した良吉は殺害計画を中止し、映画スターとして脚光を浴び始めた。
その映画を見た貞三郎は、良吉の些細な仕草から、自分が目撃した殺人犯が良吉であることを思い出すのだった。
登場人物
- 井野良吉
- 東京の劇団「白楊座」所属の俳優。北九州からの上京前、島根県大国村の山中にミヤ子を連れ出し殺害した過去を持つ。
- 石岡貞三郎
- 現在は八幡市のY電機黒崎工場勤務。郷里は島根県で、9年前に山陰本線の列車内でミヤ子から声をかけられる。
- 山田ミヤ子
- 八幡市の大衆酒場「初花酒場」の女給。井野良吉の子を妊娠したと告げ出産を訴える。
- 田村
- 刑事部長。9年前のミヤ子殺害事件の当時の捜査主任。石岡貞三郎の相談を受け「梅宮利一」という男の手紙に不審を持つ。
エピソード
- 著者は本作について「人間が出世するには地道に、辛抱強い長い時間が必要である。それでも出世できる者は幸運である。だが、もっと仕合わせなのは、きわめて短い時間に本人も予想しなかった出世に遇うことであろう。突然変異的に出世するという職業はなんであろうか。いろいろ考えたが、やはり映画俳優の世界が適切のようだ。他の芸術の世界にも無くはないが、それには当人にそれまでの蓄積がなければならない。本人でさえ思いがけなかった出世となると、映画で急激に人気を博す職業のほうが似合いのようだ。そこでこれには『顔』という題をつけた。意味は二通りある。彼はその銀幕の顔によって出世を獲得したが、もう一つの顔は暗い過去をもっていた」と記している[3]。
書誌情報(小説「顔」)
関連項目
- いもぼう - 小説では、いもぼうを食べようと京都の「円山公園の傍にある料理屋」に入った先での会話がハイライトとなる。松本清張作品では後に『球形の荒野』『混声の森』にも登場する。
映画
1957年1月22日に松竹系にて公開された。松本清張原作の初映画化作品。現在はDVD化されている。主役は新進のファッションモデル・水原秋子となっている。
ストーリー
東海道線の夜行列車から、男が転落死する事件が起きた。男は、闇で堕胎手術を請け負う飯島という無免許医だった。当初は事故と判断されたが、病院の死体置き場に未知の女性から花束が届けられた。刑事の長谷川は、これは殺人ではとの疑念を深めた。
匿名で花束を送ったのはファッションモデルの水原秋子だった。夜行列車から飯島が転落したのは、秋子との口論が原因だったのだ。秋子は少女の頃から一人ぼっちで苦労し、水商売から人気モデルにまで成り上がった女だった。
そんな秋子の前に、石岡三郎が現れた。石岡は秋子と飯島が夜行列車で言い争う現場を目撃していたのだ。目撃情報を警察に売り、見覚えのある顔だからと、刑事と共にファッションモデルのいる会場を巡る石岡。しかし、秋子を見つけ出しても、石岡は刑事に事実を告げなかった。
警察は抜きで、秋子に接近する石岡。石岡の殺害を決意する秋子。しかし、手を下す前に石岡はトラックに轢かれて死亡した。安堵して恋人の江波の家に戻る秋子。だが、事前に石岡の訪問を受けていた江波は、もはや秋子を信じることが出来なくなっていた。
刑事の長谷川は、堕胎手術の関係者の線から捜査を進め、秋子に辿り着いていた。行き場を失い、モデル会場で立ち尽くす秋子の元へ、刑事たちが到着した。
キャスト(映画)
他
スタッフ(映画)
エピソード
- 『顔』の映画化権は『張込み』と同時に買われている。このうち『張込み』の映画化は大船調を志向する城戸四郎が難色を示したために遅れたが、本映画は、東宝から松竹への移籍を控えた岡田茉莉子を主演とするため、主人公を女性に変更、このため『張込み』より早く城戸のゴーサインが得られ、ひと足早い公開となった[4]。
- 公開前の岡田の誕生日(1月11日)には、大雪の降る中、松本清張が岡田のもとを訪れ、伊万里焼のつぼを贈った。岡田はその後も清張原作の映像作品に出演したが、松本から「何が一番気に入っている?」と聞かれ、「みんな好きだけどやはり最初の作品の『顔』でしょうか」と答えている[5]。
テレビドラマ
1958年版
1958年7月29日に日本テレビ系列の「山一名作劇場」枠(20時 - 20時30分)にて放送された。
- キャスト(1958年版)
- スタッフ(1958年版)
1959年版
1959年8月27日にフジテレビ系列の「木曜観劇会」枠(20時 - 21時45分)にて放送された。
- キャスト(1959年版)
- スタッフ(1959年版)
1960年版
1960年11月7日と11月14日(20時30分 - 21時)にKRテレビ(現:TBS)系列の「ナショナル ゴールデン・アワー」枠、「松本清張シリーズ・黒い断層」の一作として2回にわたり放送された。
- キャスト(1960年版)
- スタッフ(1960年版)
1962年版
1962年10月25日と10月26日(22時15分 - 22時45分)にNHKの「松本清張シリーズ・黒の組曲」の1作として2回にわたり放送された。
- キャスト(1962年版)
- スタッフ(1962年版)
1963年版
1963年9月15日にNET(現・テレビ朝日)系列の「シオノギ日本映画名作ドラマ」枠(22時 - 23時)にて放送された。主演は映画と同じ大木実(ただし別の役)。
- キャスト(1963年版)
- スタッフ(1963年版)
1966年版
1966年3月29日に関西テレビ制作・フジテレビ系列(FNS)の「松本清張シリーズ」枠(21時 - 21時30分)にて放送された。
- キャスト(1966年版)
- スタッフ(1966年版)
1978年版・1
『松本清張おんなシリーズ・心の影』のタイトルで、1978年6月4日にTBS系列の「東芝日曜劇場」枠にて放送された。視聴率19.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。新劇の女優・良枝を主人公としている。
- キャスト(1978年版・1)
- スタッフ(1978年版・1)
TBS系列 東芝日曜劇場 |
前番組 |
番組名 |
次番組 |
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松本清張おんなシリーズ3 心の影 (1978年6月4日)
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1978年版・2
『松本清張の「顔」・死の断崖』のタイトルで、1978年11月18日にテレビ朝日系列の「土曜ワイド劇場」枠にて放送された。視聴率14.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。
- キャスト(1978年版・2)
- スタッフ(1978年版・2)
1982年版
『松本清張の「顔」』のタイトルで、1982年9月3日から9月24日まで、TBS系列の「金曜ミステリー劇場」枠にて連続ドラマとして放送された。平均視聴率18.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。ライブハウスの人気歌手・夏川ケイを主人公に設定している。
- キャスト(1982年版)
- スタッフ(1982年版)
TBS系列 金曜ミステリー劇場 |
前番組 |
番組名 |
次番組 |
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松本清張の「顔」 (1982年9月3日 - 24日)
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(終了)
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TBS系列 金曜21時枠 |
過去のない女たち (1982年7月30日 - 8月27日)
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松本清張の「顔」 (1982年9月3日 - 24日)
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1964年10月 - 1982年5月 (第1期) |
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1982年6月 - 同年9月 (金曜ミステリー劇場) |
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1985年10月 - 2001年9月 (第2期) |
1985年 - 1989年 |
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1990年 - 1994年 |
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1995年 - 1999年 |
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2000年 - 2001年 |
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参考・30分枠ドラマ 1961年 - 1972年 |
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関連項目 | |
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1999年版
『松本清張特別企画・顔』のタイトルで、1999年10月7日の21時 - 22時54分にTBS系列にて放送された。視聴率15.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。女優を目指す井野良子を主人公に設定している。
- キャスト(1999年版)
- スタッフ(1999年版)
2009年版
松本清張生誕100年を機に「松本清張ドラマスペシャル」としてテレビドラマ化され、NHK総合にて2009年12月29日の21時から22時13分に放送された[6]。主演は谷原章介[7][8]。時代設定は原作同様に昭和31年とその9年前となっている。DVD化されている。
- キャスト(2009年版)
- スタッフ(2009年版)
2013年版
『松本清張スペシャル 顔』のタイトルで、2013年10月3日の21時 - 23時14分にフジテレビ開局55周年特別番組として放送された[9]。主演は松雪泰子[9]。
時代設定は原作同様に昭和22年とその9年後としている[10]。
- キャスト(2013年版)
- スタッフ(2013年版)
2024年版
『テレビ朝日開局65周年記念 松本清張 二夜連続ドラマプレミアム』の第一夜として、2024年1月3日にテレビ朝日系列で放送された[11]。主演は後藤久美子と武井咲[12]。後藤は1994年放送のドラマ「誰よりも君のこと」以来30年ぶりかつ女優復帰後初のテレビドラマ出演となった。
今回は舞台を「現代・歌手」に置き換え、武井が人気アーティスト役として、2011年発表のシングル曲「恋スルキモチ」以降久々の歌唱に臨んだ。終盤の歌番組での歌唱シーンの演出は「ミュージックステーション」のチームが協力した。
- キャスト(2024年版)
- 主要人物
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- 井野聖良(いの せいら)
- 演 - 武井咲
- 覆面で活動する人気アーティスト。過去に殺人を犯している。
- 石岡弓子(いしおか ゆみこ)
- 演 - 後藤久美子
- 弁護士。聖良の姿を犯行現場で目撃している。
- 周辺人物
-
- 進藤薫
- 演 - 上川隆也[13]
- 山梨県警刑事。
- 大西彰
- 演 - 陣内孝則[13]
- 聖良がかつて所属していた芸能事務所の社長。
- 岩城昌義
- 演 - 緒形直人[13]
- ネットニュースの情報屋。暴露系の動画サイト「イワッキーチャンネル」の配信者。
- 高木信介
- 演 - 平岡祐太[13]
- 「ルペライトミュージック」の音楽プロデューサー。
- 石岡紗由美
- 演 - 吉柳咲良[13]
- 弓子の娘。
- 伊藤左希
- 演 - 川瀬莉子[13]
- 亘のマネージャー。
- 森尾亘
- 演 - 前田拳太郎(劇団EXILE)[14]
- 聖良の“元カレ”で同じ事務所に所属していた俳優。
- 和田友彦
- 演 - 駒木根葵汰[14]
- 不良グループのリーダー。石岡親子を脅す。
- 朝永弘
- 演 - 若林時英[15]
- 山梨県警刑事。進藤薫の部下。
- 三浦広志
- 演 - 川崎麻世[16]
- 高木信介の上司。
- 柴田健二
- 演 - 長岩健人[17]
- 高木信介と三浦広志の部下。
- 相沢進、相沢晴美
- 演 - 平泉成[16]、小柳友貴美
- 酒屋を営む夫婦。北杜峠を女性連れで登山していた森尾亘のことを憶えていた。
- 店員
- 演 - 信川清順[18]
- 進藤と朝永が訪れた蕎麦屋の店員。
- 相川冬美
- 演 - しゅはまはるみ[19]
- ラジオパーソナリティ。ゲストに迎えた弓子のことが気に入っている。
- 渡辺康子、矢野彰、漆原ミカ
- 演 - 西尾まり[16]、ゆうたろう、花守香音
- 石岡法律事務所・事務員。
- 検視官
- 演 - 大重わたる[21]
- 森尾亘の遺体発見現場に臨場する。
- 永井治、田所省吾
- 演 - 佐戸井けん太[16]、坪倉由幸
- 紗由美が通う高校の校長と担任教師。
- 笹本ひかり
- 演 - 小池唯[22]
- 女優。昔の彼氏の森尾亘とのSEX動画がネットに流出した。
- 刑事
- 演 - 島崎義久[23][注 1]
- 和田友彦を売春ほう助の疑いで逮捕する。
- 若者たち[注 2]
- 演 - 佐藤峻輔[24]、牧野裕夢[25]、高野渚[26]、前田莉瑚[27]
- 聖良と弓子がネットに上げた岩城昌義の恥ずかしい写真と音声についてカフェで語らう。
- アナウンサー
- 演 - 林美沙希(テレビ朝日アナウンサー)
- 森尾亘が死亡したニュースを伝える。
- スタッフ(2024年版)
- 歌唱パート
脚注
書誌出典
注釈
- ^ EDテロップでは島崎義之と誤記。
- ^ 正式名称不明。
出典
外部リンク
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堺(堺市) - 八尾(八尾市) - 総合開発センター・天理(天理市) - 亀山第一・第二(亀山市) - 三重・第二・第三(多気町) - 広島(東広島市) - 福山(福山市) - 三原(三原市) - 栃木(矢板市)
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グループ会社 | |
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人物 | |
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主な一社提供番組 (全て過去) |
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業務提携会社 |
パイオニア(2014年8月業務提携解消) - マキタ - シャープタカヤ電子工業(タカヤと共同出資、2020年出資解消)
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