ブラジルカイマン (学名:Paleosuchus trigonatus )はコビトカイマン属 に分類されるワニ の一種。別名シュナイダームカシカイマン [ 4] 。南アメリカ のアマゾン川 とオリノコ川 流域に分布する。アリゲーター科の中では同属のコビトカイマン に次いで小さい。成体は通常全長約1.2-1.6m、体重9-20kgである。大型の雄は全長2.3m、体重36kgに達する。
名称
属名はギリシア語 で「古代のワニ」を意味し、約3000万年前に他のカイマンから分岐した系統に属することに由来する[ 4] 。種小名はギリシア語で「3つの角を持つ」を意味し、三角形の頭に由来する[ 5] 。
分類
1801 年にドイツ の博物学者 であるヨハン・ゴットロープ・テアエヌス・シュナイダー によって記載された。本種とコビトカイマンの2種でコビトカイマン属を構成する。同属は眼窩間の隆起が無く、前上顎部に4本の歯があり、他のカイマンでは5本である[ 5] 。現生のカイマン亜科の関係は、分子系統学的研究に基づき、以下の系統樹 で示される[ 6] 。
形態
頭部はメガネカイマン と似るが、目の間に隆起が無い。頸鱗板と尾の鱗板は大きく鋭い三角形で、背側と腹側の両面は頑丈な皮骨で覆われる。尾は比較的短く、基部は広く縦扁する。尾櫛は横に突出し、尾は比較的頑丈である。体は暗い灰褐色で、目は茶色である。頭部が黄褐色で、水中の落ち葉への擬態 になると考えられている[ 7] [ 8] 。雄は全長約1.7-2.3mで、最大全長2.6mの記録がある。雌は1.4mを超えることは珍しい。体格の割に力強く、首を上に向けて頭を高く上げる傾向がある[ 5] [ 9] 。
分布と生息地
南米 のアマゾン川 とオリノコ川 流域に分布し、ボリビア 、ブラジル 、コロンビア 、エクアドル 、フランス領ギアナ 、ガイアナ 、ペルー 、スリナム 、ベネズエラ から知られる[ 7] [ 8] [ 2] 。森林 内の細流に生息する[ 7] 。主に身を潜めた生活を送るため、自然下では日光浴 を行わない[ 7] [ 8] [ 9] [ 10] 。
生態と行動
幼体
水中の巣穴や、水から100mほど離れた深い下草の中、丸太の中、倒木の下に身を潜めており、日中に観察されることは珍しい[ 8] [ 9] 。雄は縄張り意識が強く、雌の行動圏は狭い[ 10] 。成体は半水生であり、主にヤマアラシ 、パカ 、ヘビ 、鳥 、トカゲ などの動物を捕食し、魚 や軟体動物 はほとんど食べない。幼体は孵化後数週間は主に昆虫 やその他の節足動物 を食べ、成長するにつれて小魚、鳥、爬虫類など、より大きな獲物を食べるようになる[ 9] [ 11] 。成体の死亡率は低いが、ジャガー などの大型肉食動物に捕食されることもある[ 5] 。
雌は約11歳、雄は約20歳で性成熟 する[ 10] 。雌は乾季 の終わりに落ち葉と土で大きな塚状の巣を作るが、既存の巣を使うこともある。古巣の上に新しく産卵巣を作ることで、古巣が地面との間で断熱材の効果をすると考えられている[ 8] 。10-15個の卵を産み、上から植物で覆う。植物の腐敗によって熱が発生するため、巣内に熱を供給する。巣はシロアリ の蟻塚 の側面に作られることが多く、シロアリの熱によって巣内温度が31-32℃に保たれる[ 4] [ 9] 。抱卵期間は約115日で、雌は少なくとも抱卵期間の前半は巣の近くに留まり、捕食者から卵を守る。その間にシロアリの塚が拡大し、土が卵を固めてしまうことがある。そのため、孵化の際に幼体が巣から脱出できるように親の助けが必要である。孵化したばかりの幼体を運んだ後、雌は幼体が独立するまで数週間世話をする。雌が再び繁殖するまで数年かかることもある[ 4] [ 9] 。
人との関わり
皮は頑丈に骨化しており、革目的の狩猟の対象とならない。ガイアナではペット目的で捕獲されている。森林伐採と、金の採掘活動による環境汚染が脅威である。野生個体数は100万頭以上と推定されており[ 5] 、IUCN のレッドリスト では低危険種 とされている。乱獲を制限するため、ワシントン条約 の付属書IIに掲載されている[ 2] 。
出典
^ Rio, J. P. & Mannion, P. D. (2021). “Phylogenetic analysis of a new morphological dataset elucidates the evolutionary history of Crocodylia and resolves the long-standing gharial problem” . PeerJ 9 : e12094. doi :10.7717/peerj.12094 . PMC 8428266 . PMID 34567843 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8428266/ .
^ a b c Campos, Z.; Magnusson, W.E.; Muniz, F. (2019). “Paleosuchus trigonatus ” . IUCN Red List of Threatened Species 2019 : e.T46588A3010035. doi :10.2305/IUCN.UK.2019-1.RLTS.T46588A3010035.en . https://www.iucnredlist.org/species/46588/3010035 2024年11月27日 閲覧。 .
^ “Appendices CITES ”. cites.org . 2024年11月27日 閲覧。
^ a b c d 中井穂瑞嶺『ディスカバリー 生き物再発見 ワニ大図鑑』誠文堂新光社、2023年4月15日、147頁。ISBN 978-4-416-52371-1 。
^ a b c d e Britton, Adam (2009年1月1日). “Paleosuchus palpebrosus (Schneider, 1807) ”. Crocodilian species list . 2023年1月28日時点のオリジナル よりアーカイブ。2013年11月4日 閲覧。
^ Bittencourt, Pedro Senna; Campos, Zilca; Muniz, Fabio de Lima; Marioni, Boris; Souza, Bruno Campos; Da Silveira, Ronis; de Thoisy, Benoit; Hrbek, Tomas et al. (22 March 2019). “Evidence of cryptic lineages within a small South American crocodilian: the Schneider's dwarf caiman Paleosuchus trigonatus (Alligatoridae: Caimaninae)” . PeerJ 7 : e6580. doi :10.7717/peerj.6580 . PMC 6433001 . PMID 30931177 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6433001/ .
^ a b c d 千石正一 監修 長坂拓也編著 『爬虫類・両生類800種図鑑 第3版』、ピーシーズ、2002年 、154頁。
^ a b c d e 『動物たちの地球 101 両生類・爬虫類5 リクガメ・ワニほか』、朝日新聞社、1993年 、141頁。
^ a b c d e f Ross, Charles A., ed (1992). Crocodiles and Alligators . Blitz. pp. 62, 121–124. ISBN 9781853910920
^ a b c Magnusson, William E.; Lima, Albertina P. (1991). “The ecology of a cryptic predator, Paleosuchus tigonatus , in a tropical rainforest”. Journal of Herpetology 25 (1): 41–48. doi :10.2307/1564793 . JSTOR 1564793 .
^ “Paleosuchus trigonatus (Schneider's smooth-fronted caiman, Cachirre, Jacaré coroa.) ”. Animal Diversity Web . 2024年11月28日 閲覧。
外部リンク