パラグアイカイマン (学名 :Caiman yacare )は、 アリゲーター科 に分類されるワニ の一種。パラグアイメガネカイマン とも呼ばれる[ 5] 。英名はjacare caiman、Paraguayan caiman、piranha caiman、red caiman[ 6] 、southern spectacled caiman[ 7] 。アルゼンチン 、ボリビア 、ブラジル 、パラグアイ に分布する。体色は茶色で暗い斑点があり、雄は全長2-3m、体重約40-50kgに達し、雌は全長1.4m、体重約15-20kgに達する[ 8] 。湖 、川 、湿地 に生息する。主に巻貝 などの水生生物を捕食するが、時々陸生の脊椎動物 も捕食する。交尾は雨期 に行われ、卵は3月に孵化し、幼体は孵化後すぐに自力で生活する。1980年代にはワニ革を目的に大量に狩猟され、個体数が大幅に減少した。しかしその後の取引規制により、個体数は増加している。パンタナール の個体数は約1,000万頭で、IUCN のレッドリスト では低危険種 とされている。
分類
1802年、フランソワ・マリー・ドゥダン (英語版 ) によって Crocodilus yacare として初めて記載された[ 9] :7 。 種小名や英名の由来となった「yacare」は、トゥピ語 の「jacaré (ワニを意味)」に由来し、その後ポルトガル語 となった[ 7] 。
現生種ではメガネカイマン とクチビロカイマン とともにカイマン属を構成する。カイマン属には絶滅した化石種も8種ほど知られている。現存する6種のカイマンのうちの1種である。
2010年時点では近縁種との関係は不明瞭で複雑である。明確な結論は出ておらず、メガネカイマンの亜種とされることもあり、その場合学名は Caiman crocodilus yacare となる。この2種は形態学的には同一であるが、地理的な違いにより別種とみなされている[ 10] :24 。メガネカイマンおよび他の現存するカイマンとの関係は、DNAを用いた系統発生研究に基づく以下の系統樹 で表される[ 11] 。
2亜種が知られている。亜種名は中井(2023)に従う[ 5] 。
ボリビアカイマン Caiman yacare medemi Donoso-Barros, 1974
ミナミカイマン (基亜種) Caiman yacare yacare (Daudin, 1802)
分布
その分布域は北はアルゼンチン 、ボリビア から、南はブラジル 、パラグアイ まで及ぶ[ 12] 。クチビロカイマンは本種よりも東に、メガネカイマンは北に分布する。パラグアイカイマンは南米大陸で最も一般的な種の一つである[ 13] 。
形態
頭部
カイマンの中では中型で、体色は茶色である[ 6] 。雄は全長2-3m、体重は最大58kgに達する。雌ははるかに小さく、成体でも全長1.4m、体重14-23kgである[ 9] :7 [ 12] 。孵化直後の幼体の平均体長は、雌で12.49cm、雄で12.84cmである[ 8] 。ナショナル ジオグラフィック は、若い個体を「ブラジルの奥地のラグーンの岸の葦の間に浮かぶ、風に吹かれた小さな種子に見える」と説明している[ 14] 。1987年から2013年にかけてパンタナールで行われた成長の研究によると、雌雄ともに5歳時点の体長 は約50cmであり、15歳までに成長はほぼ終了し、体長は雌で約80cm、雄で100cmを超える。また、個体によって成長率に大きなばらつきがあることも判明した[ 8] 。
体全体に黒い斑点が散らばっており、最も目立つのは下顎にある3-5個の斑点である。吻部は幅広く中程度の長さで、表面は滑らかである。まぶたには突起があり、目の間には湾曲した隆起がある[ 9] :7 。メガネカイマンと同様に、 鱗には皮骨板 がある。歯は平均74本で、内訳は前上顎歯が5本、上顎歯が14-15本、下顎歯が17-21本である[ 7] 。口を閉じた際に下顎の歯が上顎の穴から見えることもある。この目立つ湾曲した歯により「piranha caiman (ピラニア のカイマン)」という通称が生まれた[ 6] 。また肉がピラニアと似た味がするためや、下顎が突き出た姿がピラニアに似るからという見解もある[ 5] 。
生態
本種は生態学的にもメガネカイマンに似ている[ 10] :23 。湖 、川 、湿地 などの半陸上環境に生息するが[ 7] 、様々な生息地に適応することができる。生息地が攪乱されると、群れ で別の場所に移動することがある[ 10] :24 。獲物は主に巻貝や魚などの水生生物だが、時にはヘビ も捕食する[ 7] 。またカピバラ を食べることも知られている[ 14] 。巻貝を捕食する際は、水に浮かぶ植物を探し、顎を使って殻を砕く[ 6] 。1986年7月のボリビアでの観察では、胃の内容物は多くが泥で、カイマンのものと思われる卵の殻の欠片も見つかった。一般的なワニは幼体が孵化した後、その卵の殻を食べることがある[ 15] 。
繁殖は通常、雨期 の12月から2月に行われる[ 7] 。雌が泥や腐った植物を使って塚の形の巣を作る[ 6] 。産卵数は一般的には22-35個、最大44個だが、正確な数は生息地の種類によって異なる[ 10] :24 。 他のいくつかのワニよりも複数父性の割合が高い[ 13] 。雌は抱卵中に巣を守るが、人間の狩猟圧が高いときは保護が少なくなり、最終的に孵化率が低下する[ 10] :24 。 卵は3月に孵化する[ 7] 。幼体は親からの世話をほとんど受けず、自分で成長する[ 6] 。サギ やコウノトリ が幼体を食べることがあるため、日中は草に隠れている[ 14] 。雌は10-15歳で性成熟 する[ 8] 。近縁種は約50歳まで生き、これがパラグアイカイマンの寿命の推定値として使われているが、正確な寿命は不明である[ 6] 。
人との関わり
マットグロッソ州の群れ
1980年代には皮を目的とした狩猟が頻繁に行われ、個体数は減少していた[ 14] 。ハンターはしばしば水場へ行き、大量のパラグアイカイマンを射殺した。皮はワニ革に利用され、死骸の他の部分は水場に残された[ 14] 。皮には骨が多いため、以前は革のために狩猟されることはまれであったが、骨の少ない部分がいくつかあり、その部分はワニ革に利用できる[ 9] :582 。この狩猟により 、パラグアイカイマンの個体数は数百万頭減少した。1992年、ブラジルでワニ革の取引を禁止する禁止令が出された。その結果個体数は大幅に増加し、2013年現在、パンタナールだけで約1000万匹が生息している[ 14] 。現在は森林伐採、観光、ダムや港の建設、違法な狩猟などが脅威となっている[ 14] 。繁殖が早いため、狩猟の影響を受けにくくなっている[ 7] 。
IUCNは1996年にパラグアイカイマンを低危険種に指定した[ 2] 。1970年6月2日以降「endangered (絶滅の危機に瀕している種)」に指定されていたが、2000年6月5日には合衆国魚類野生生物局 によって「threatened (絶滅の恐れがある種)」に指定された[ 16] 。ワシントン条約 の附属書IIに掲載されている[ 10] :23 。
画像
脚注
出典
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参考文献
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Daudin FM (1802). Histoire Naturelle, Générale et Particulière des Reptiles; Ouvrage faisant suite à l'Histoire Naturelle générale et particulière, composée par Leclerc de Buffon; et rédigée par C.S. Sonnini, membre de plusieurs sociétés savantes. Tome second. Paris: F. Dufart. 432 pp. (Crocodilus yacare , new species, p. 407). (in French and Latin).
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