チェンソーマン (アニメ)
『チェンソーマン』(Chain saw Man)は、藤本タツキによる同名の漫画を原作としたアニメ作品。テレビアニメは2022年10月から12月までテレビ東京系列ほかにて放送された[2][3]。 テレビアニメの続編となる『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』が制作予定となっている[4]。 製作に当たっては製作委員会方式を用いず、MAPPA一社のみの出資で行われている[5]。 登場人物→詳細は「チェンソーマン § 登場人物」を参照
スタッフ
制作企画経緯・スタッフィング本作は製作委員会方式ではなく、制作会社のMAPPAが全額出資する形で製作された[9]。アニメーションプロデューサーを務めるMAPPAの瀬下恵介は、このような体制を取った理由について、「『チェンソーマン』をよりよい形で映像化したい」という前提の下でどのようなスタッフィングがよいか話し合った結果、複数の会社の幹部が集まって様々な思想が錯綜する製作委員会方式よりも、自社ですべて制作費を出した方が、表現面においてもビジネス面においても自由度が高いと判断したと語っている[9]。 スタッフィングにあたって瀬下は、原作がジャンプ作品における異色であることから演出や表現の決まった型を持たない新人に託すことで面白くなるだろうと考え、自身が入社した時からアニメーターとしての才能を見せていた中山竜を監督として起用した[10]。中山はMAPPAの別作品『呪術廻戦』の第19話「黒閃」の演出・絵コンテなどを手掛けた実績がある[11][12]ものの、テレビシリーズの監督は本作が初めてである[10]。 また、原作者である藤本から「良い映像を見たいためにできることは全てやる」と提案されたことを踏まえて、キャラクターデザインやキャスティング、絵コンテのチェックから映像表現に至るまで逐一藤本から意見を求めた[13]。 セッティング・演出アニメは漫画と違いリアルな時間軸で表現する必要があることから、映像化に当たっては「原作の忠実な再現」というよりはむしろ、「原作を映像化した際により忠実に見えるようにする」という方針がとられ[13]、画面構成については写実的または映画的にするという方針が立てられた[14]。 シリーズ構成・脚本を担当した瀬古はインタビューの中で、原作を読んだ際に「映画的な漫画」だと強く感じ、シナリオを執筆している際も原作の熱量を下げることがないように意識していたと話している[15]。構成にあたってはまず原作のどこまでを映像化するかを決め、そこからそれぞれの話数に割り振るという作業が行われたが、この割り振りにおいて瀬古は各エピソードにテーマがあるかと最後の引きをどうするかを重要視し、これは海外ドラマの影響であるという[15]。テレビアニメ版独自の場面を追加する際も、原作の魅力を損なったり、齟齬が生じることがないように細心の注意が払われた[15]。 また原作は過激な描写が多いが、監督の中山は「作品内で起きたことはちゃんと描写する」という方針を立てており、描写を抑制したら『チェンソーマン』ではなくなってしまうと語っている[16]。これらの描写はテレビ局の考査や協議の上で問題ないことを確認して描かれているが、許容されている要因として中山は斬られる相手が人間ではなく悪魔やゾンビであることを挙げている[16]。ただし、漫画の表現をそのまま映像にすると必要以上に生々しくなってしまうため、『チェンソーマン』らしい映像化には表現の調整は大切だとしている[16]。 美術本作においては、手書きのアニメーションと3DCGが併用されている[16][17]。本作の3DCGモデルディレクターを務めた横川和政は、今まで培ったMAPPAの様式を引き継ぎつつも、3Dモデルに質感を入れる新しい手法も挑戦していると述べている[18]。MAPPAのCGチームは、チェンソーマンやサムライソードに加え、カースらモデリングの難しい悪魔も手掛けているほか、作画参考用としてデンジら主要人物のレイアウトモデルも作成した[18]。このうち、チェンソーマンとサムライソードは中山の要望により、部位の一部に特殊効果を撮影時ではなく3Dモデル作成の時点で付与するというMAPPAにしては珍しい手法がとられた[18]。これにより、作画キャラクターともなじむ、2D調でありながらリッチな質感に仕上がり、特殊効果を入れる箇所やモデルを制限することで、より印象的に見せることができた[18]。横川は特にチェーンソーマンの動きにこだわりがあり、じっくり協議をしながらセットアップを行ったといい、実際のチェンソーマンの首のチェーン一つ一つだけでなく、スニーカーの組みひもにリグが仕込まれるなど、細やかな設計がなされている[18]。最初、中山や杉山が3DCGに不慣れであり、以降のリテイクに時間がかかることから、たたき台としてチェンソーマンの3Dモデルの初稿が出された[18]。これをもとに杉山がキャラクター設定を仕上げ、そこからさらにモデルのブラッシュアップが行われた[18]。それから数週間後に出来上がった完成稿は大まかな造形の変更ではなく、質感や色味などが補強された[18]。加えて、初稿では水平だった歯茎の角度は、実際の人間の歯茎に従って2、3度の傾斜をつけることで造形のバランスが整った[18]。また、衣装やダメージの差分も作られた[18]。一方、チェンソーの刃が回転する場面はテクスチャやアニメーションだと正面から見た際にチェンソーの厚みがなくなってしまうため、こちらも3Dモデルによる表現が採用された[18]。戦闘シーンではチェンソーを振り回すことから、あらゆる角度から見ても破綻がなく、かっこいい動きを実現するため、横川と杉山の間で話し合いが行われ、試行錯誤が重ねられた[18]。 本作に登場する悪魔のうち、幽霊の悪魔のウェーブした髪を3Dモデルで表現するのには時間がかかった[18]。最終的には大きなウェーブをZBrushでモデリングし、細かなウェーブをテクスチャで表現する手法がとられた[18]。また、幽霊の悪魔はたくさんの腕や髪の毛の揺れだけでなく、花同士のめり込み防止にいたるまで複雑なリグが求められた[18]。 撮影監督を務めた伊藤哲平は、色や雰囲気を大切にしてほしいという要望が寄せられたため、どうすれば雰囲気が良くなるかをつねに念頭に置いていたと話している[19]。本作の撮影工程は、コンテ撮、レイアウト撮、タイミング撮、本撮という一般的なフローの次に色彩的な効果を用いたフィルタ処理という工程がある[19]。これにより、場所や時期だけでなく、登場人物の感情を含んだ雰囲気ができるようになった[19]。 本作は全体的に青みがかった色調を特徴としており、ライターのアナイス(ANAIS)はリアルサウンドに寄せた記事の中で、『呪術廻戦』の第2クールのオープニングを思わせると指摘している[12]。 演技・キャスティングキャスティングにあたっては、既存作品からイメージを作るのではなく、「デンジはデンジの声」という考えから、演者の普段の発声が意識された[10]。また、選考はテープオーディションや立ち合いオーディションなど、複数の方法を用いて、時間をかけて行われた[10]。 主人公のデンジ役には新人声優の戸谷菊之介が選ばれた[20]。戸谷本人は本作が初めての主演作となることへのプレッシャーがあったものの、音響監督の小泉紀介から作品の方向性について丁寧な説明を受けたりするなど、安心して収録に臨めたと語っている[7]。その一方で、戸谷は2022年9月19日に行われたワールドプレミアにて、デンジの気持ちを細かく分析すると共感できる部分が多く、その気持ちを演技にのせたと述べている[21][22]。 マキマ役には、戸谷と同じ事務所の先輩にあたる楠木ともりが起用された[7]。楠木はワールドプレミアにて、デンジとの距離感を意識しながら演技をしていると述べている[22]。楠木は当初はマキマの謎めいた雰囲気を演技に含ませようとしたものの、監督からそのニュアンスは不要であると指摘が寄せられたと、戸谷との対談の中で明かしている。楠木は指示の意図について、序盤ではデンジから見たマキマが多く描かれているためであると推測しており、フラットなテンションかつつかみどころがないが、たまにかわいらしさが少しのぞけば良しと思って演じているとも話している[23]。また、物語ではデンジとマキマが行動を共にする場面が多いものの、お互いがどう出るのか知らない方がよいという観点から、特に打ち合わせなどはしていないと楠木は述べており、互いの演技で感じたことを受けて、それぞれの役で出した方が監督の求めるリアリティに近いと話している[23]。 デンジの仲間の一人となる早川アキ役には坂田将吾が起用された[24]。早川も中山から「坂田くんは[中略]声をつくらなくてもアキだから、お芝居をしようとしなくていい」と言われており、そこから作品の世界観をつかめたと感じたと語っている[24]。また、ある回ではアキの気持ちに焦点が当てられていたため、集中するために台本を見ずに収録に臨んだと坂田は述べており、「裏を返せば、それほど役を理解できたということで、僕にとって初めての経験でした。」と振り返っている[24]。以上のことから、坂田はアキが心のうちに秘めたやさしさを描けることにつながったと推測している[24]。 姫野役には伊瀬茉莉也が起用されており、楠木によると伊瀬が「公安対魔特異4課ノート」を用意して共演者にアフレコの感想を書いてもらい、直接会えない者とも交流ができるようにしたとされている[25]。 パワー役にはファイルーズあいが起用されており、戸谷はファイルーズが場を盛り上げてくれるため、皆が仲良くなれたと話している[26]。 本作の収録に当たっては、キャスト全員に対して監督から「抑揚をつけすぎず、通常の会話と同じような感覚で演技してほしい」という指示が出された[7]。このため、戸谷はアニメ的なイントネーションや抑揚を控え、現実に近いアプローチで芝居に臨んだという[26]。楠木も原作を読んでいるとこのようなアプローチをしたいという考えがたくさん出るものの、基本的にはそれを排し、抑揚を抑えた演技になったとワールドプレミアにて述べている[22]。 音楽エンディング・テーマは12組のアーティストが週替わりで務め、エンディング映像も毎週異なる映像になっているなど、アニメ制作における挑戦的な姿勢と強いこだわりが注目された[9]。週替わりのエンディングテーマは監督の中山からの提案[注釈 1]であり、自社出資だからこそ実現できたアイデアの一つである[9]。また、回ごとにエンディングの演出を変える必要があり、現場にそれだけの余力があるのかという懸念があったが、関係者から承諾が得られたため、実現できた[9]。 主題歌エンディングテーマは全12話全て異なり、週替わりで使用された[27]。第3話エンディングテーマ「刃渡り2億センチ」は挿入歌としても使用された。
反響・評価反響2022年に行われ、150人が投票に参加した「期待度が高い2022年秋アニメランキングベスト13」では3位を獲得した[34]。 オープニングテーマである米津玄師「KICK BACK」はアニメ放送終了後まで続くロングヒットを記録し、Billboard Japan Hot AnimationではLiSA「紅蓮華」を抜き、歴代最長となる17週連続での首位(週間1位)を獲得した[35]。また、2024年1月11日に本作のノンクレジットオープニング映像がYouTubeにて1億回再生を突破した[36]。 本作に携わったアニメーターたちが自身のSNS上に担当したカットを掲載していることについて、映画コラムニスト・編集者のアナイス(ANAIS)はリアルサウンドに寄せた第4話批評の中で、「細かな分担が可視化されることで個人の労働と功績が称賛しやすくなるだけでなく、アニメの制作過程を一般的に周知させる意義が感じられる」と述べており、原画の写真の掲載許可があることも大きいとみている[37]。 評価アナイスはリアルサウンドに寄せた第1話の批評の中で、本編は全体に渡ってそれ以上の質が保たれていると評価する一方、漫画だからこその表現が損なわれていると指摘しており、あらためて漫画というフォーマット独自の強さ(そして原作漫画の凄さ)を実感させられたと述べている[12]。第4話の批評では回を追うごとにアクションシーンがよくなっていくように感じたと述べている[37]。 アナイスはアニメオリジナルの演出のうち、第2話で筋肉の悪魔のエピソードのカットに伴う表現が原作から変更されたことについて、MAPPAの英断だと評価している[38]。また、第2話から第3話におけるアキとマキマのやりとりにアニメ独自の表現が追加されたことで彼の内面がよく表現されたと評価している[39]。アナイスはその最たる例としてアキの日常シーンをあげており、その中では彼の人となりだけでなく、デンジとの生活の進展が表現されていると評価している[39]。 『日経産業新聞』は2023年2月22日付記事にて、同年1月27日に発売されたチェンソーマンのBlu-ray、DVDの売上が想定を大幅に下回る2,000枚程度と低迷していることを指摘。MAPPAの定評ある作画力は評価に値するとした一方、原作から改変された部分やエピソードの取捨選択、アニメオリジナルのシーンに原作ファンが不満を持っているとし、製作委員会主導ではない画期的取組みを否定するのではなく、失敗を踏まえて次に活かすことが望まれると論じた[40]。 一方、MAPPAの大塚学は本作について「収支において完全に成功」であると述べ[41]、原作者の藤本もアニメの制作陣に対して感謝の意を示している[42]。 受賞クランチロール・アニメアワード2024において「最優秀新シリーズ賞」を受賞した[43]。 各話リスト
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劇場アニメテレビアニメの続編となる『劇場版 チェンソーマン レゼ篇』が制作予定となっている[54]。 脚注注釈出典
外部リンク
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