金
金(きん、英: gold、羅: aurum)は、原子番号79の元素。元素記号はAu。第11族元素に属する金属元素。常温常圧下の単体では人類が古くから知る固体金属である。和語ではこがね、くがねといい、おうごんとも(黄金)。 見かけは光沢のあるオレンジがかった黄色すなわち金色に輝く。金属としては重く、軟らかく、可鍛性がある。展性と延性に富み、非常に薄く延ばしたり、広げたりすることができる。金属のなかで3番目に電気を通しやすい。同族の銅と銀が比較的反応性に富むこととは対照的に、標準酸化還元電位に基くイオン化傾向は全金属中で最小であり、反応性が低い。金を溶解する水溶液としては、王水(塩化ニトロシル)、セレン酸(熱濃セレン酸)、ヨードチンキ、酸素存在下でのシアン化物の水溶液がある。 宇宙ではキロノヴァ(中性子星合体)などで生み出される[1][2]。地球ではマントルで生成されるとする説もある[3]。宇宙で生み出された金は隕石として降り注ぎ地球で採掘される金となった[4]。熱水鉱床として鉱床が生成され、そのまま採掘されるか、風化の結果として生まれた金塊や沖積鉱床(砂金)として採集される。 これらの性質から、金は多くの時代と地域で貴金属として価値を認められてきた。化合物ではなく単体で産出されるため精錬の必要がなく、装飾品として人類に利用された最古の金属で、美術工芸品にも多く用いられた。銀や銅と共に交換・貨幣用金属の一つであり、現代に至るまで蓄財や投資の対象となったり、金貨として加工・使用されたりしている。ISO通貨コードでは XAU と表す[5]。また、医療やエレクトロニクスなどの分野で利用されている。 名称元素記号Auは、ラテン語で金を意味する aurum に由来する[6]。大和言葉で「こがね/くがね(黄金: 黄色い金属)」とも呼ばれる。 日本語では、金を「かね」と読めば通貨・貨幣・金銭と同義(すなわちお金)である。金属としての金は「黄金」(おうごん)とも呼ばれ、「黄金時代」は物事の全盛期の比喩表現として使われる。「金属」や「金物」(かなもの)といった単語に金の字が含まれるように、古くから金属全体を代表する物質として見られた。 性質原子番号は79であり、貴金属としては最も大きい[注釈 1]。 金は単体では金色と呼ばれる光沢のあるオレンジがかった黄色の金属であるが、非常に細かい粒子状(金コロイド)にすると黒やルビー色に見える場合があり、時には紫色になる。これらの色は金のプラズモン周波数によるもので、主に黄色と赤色を反射して、青色を吸収する。このため、薄い金箔を光にかざすと、反射と吸収の谷間にあたる緑色に見える。化合率が低めだが、合金が多く、頻繁に色が変わってしまう。 展延性展性・延性に優れ、最も薄く延ばすことができる金属である。1グラムあれば数平方メートルまで広げることができ、長さでは約3000メートルまで延ばすことができる。平面状に延ばしたものを「金箔」(きんぱく)、金箔を和紙に貼って細く切るなど糸状に装飾しやすくしたものを「金糸」(きんし)と呼ぶ。華美な衣装を作るために、金糸は綿や絹など一般的な繊維素材と併用される。逆に大きな展延性が精密加工時や加工後の製品では、耐久性が悪いという弱点にもなる。かつてよく行われていた金メダルを噛むという行為は、歯型が付くほどの展延性を持つ金であることを確かめる行為だったことに由来する(現代の金メダルは純金ではないので歯型は付かない)。 合金金は柔らかく、宝飾品などの工業製品とするには加工がしにくいため、合金にする。合金にすれば硬度を上げることができ、イエローゴールドやピンクゴールドなどといった、変化に富んだ色調を生み出すことができる。 ちなみに、合金を作る際に混ぜる金属は、割り金と呼ばれ、例えば銅を混ぜると赤っぽくなるほか、鉄は緑、アルミニウムは紫になる。他にも、ガリウムやインジウムは青、パラジウムやニッケルは白、ビスマスと銀が混ざった物では黒味を帯びた色調になるなど、色の変化に富む。 自然に存在する金には通常、10%程度の銀が含まれており、銀の含有率が20%を超える物はエレクトラム、青金または琥珀金と呼ばれる。さらに銀の量を増やしていくと、色は次第に銀白色になり、比重はそれにつれて下がる。 なお、金合金における金の含有率を品位といい、千分率もしくはカラット(K)で表される。 →詳細は「金 § カラーゴールド」を参照
熱伝導、電気伝導、反応性金は熱伝導、電気伝導ともに優れた性質を持ち、空気では浸食されない。熱、湿気、酸素、その他ほとんどの化学的腐食(通常の酸やアルカリ)に対して非常に強い。そのため、貨幣の材料や装飾品として古くから用いられてきた。 一方、金はある特殊な条件下で化合物を生成する。
金化合物の性質化合物中での金の安定な原子価は+1, +3であり、化合物あるいは水溶液中において Au3+ など単純な水和イオンは安定でなく、 および など主に錯体として存在する。AuCl など1価の金化合物はシアノ錯体を除いて一般的に水溶液中で不安定であり、不均化しやすい。 金化合物は一般的に熱力学的に不安定であり、光の作用により分解し、単体の金を遊離しやすい。合金中において金はイオン化したとしても直ちに他の金属によって還元され、添加された金属は酸化される。このことも「金は安定的」と言われる所以になっている。 利用の歴史金は、美しい光沢を含めて有用な性質を多く持つ。また精錬の必要がない単体の金そのままで自然界に存在しているため、精錬が必要な鉄などよりも早く人類が利用していた金属とされる。しかし産出は非常に限られていたため、有史以前から貴重な金属、貴金属として知られていた。また、そのままでは金として利用できない金鉱石であっても、アマルガム法や灰吹法などの冶金法によって取り出すことができた[7]。 長い年月を経ても変化しない金の性質は神秘性を産み、不老不死との関連としても研究された。占星術においては、中心に点が描かれた円の記号は太陽を表すと同時に金も表し、これは古代エジプトのヒエログリフにも見られる。このように、金は歴史とともに利用価値の高さゆえの豊かさと富の象徴であり、金そのものや鉱山(金鉱や金山)の所有、採掘の権利などを巡る争奪・紛争が、個人間から国家間の規模に至るまでしばしば引き起こされた。 紀元前金は紀元前3000年代に使われ始めた。最古の金属貨幣は紀元前7 - 6世紀(紀元前670年ごろ)にリディアでアリュアッテス2世王により造られたエレクトロン貨で、天然の金銀合金に動物や人物を打刻している。金は中国で商時代に已に装飾品として使われ、春秋戦国時代には貨幣や象嵌材料として使用された。 古代エジプトのヒエログリフでは、紀元前2600年ごろから金についての記述が見られる。ミタンニの王トゥシュラッタが、通常は粒として請求をしている。エジプトとヌビアは、史上でも有数の金産出地域である。『旧約聖書』でも、金について多く触れられている。黒海の南西部は、金の産出地として名高い。金を利用した物としては、ミダスの時代にまで遡ると言われている[誰によって?]。この金は、前述のリディアでの世界で初めての貨幣成立(エレクトロン貨)に大きく影響をおよぼしたと言われている。 日本日本での古代の金製品は福岡県志賀島にて発見された漢委奴国王印などがある。古墳時代には奈良県東大寺山古墳出土の「中平」銘鉄剣や埼玉県稲荷山古墳出土の「辛亥」銘鉄剣など、鉄地に線を彫って金線を埋め込んだ金象嵌があった。 奈良時代までの日本は金を産出せず、供給は朝鮮半島の新羅や高句麗からの輸入に頼っていたことから、東大寺盧舎那仏像の建立に合わせ、鍍金のために全国で探索が行われていた。天平21年(749年)に涌谷で金が採掘され陸奥国守の百済王敬福が鍍金料として金900両(約13kg)を献上すると[8]、聖武天皇は神仏の奇跡であるとして天平から天平感宝へ改元した。これ以降は状況が一変し、8世紀後半からは逆に渤海、新羅などへ輸出され、遣唐使の滞在費用として砂金が持ち込まれることで、後の「黄金の国」のイメージの原型が形作られた。 平安時代後期には金の産地となっていた奥州を掌握した奥州藤原氏によって、産金による経済力を背景に、平泉が平安京に次ぐ日本第二の都市にまで発展した。砂金は平安京や北宋・沿海州などとの貿易に使用された。奥州産の金をふんだんに使用した中尊寺金色堂は、マルコ・ポーロが『東方見聞録』で 紹介した黄金の国ジパングのモデルになったともされる。 豊臣政権や江戸幕府は金山への支配を強め、金を含有した大判や小判を発行した。 1937年(昭和12年)日中戦争が始まると戦時経済体制の強化が進められる中で、国民の金献納運動が行われた。さらに同年12月には九金(金の品位1000分中376)以上の大部分の金製品は原則製造禁止に、さらに翌1938年(昭和13年)8月20日からは対象を品位を問わず全ての金製品に拡大。金製品を製造する場合には大蔵大臣の許可が要することとされた[9]。 世界コロンブスのアメリカ州到達以来、探検家や征服者(コンキスタドール)によって行われたアメリカ原住民(インカ帝国など)からの金の強奪は膨大な量に上った。特に中央アメリカや南米大陸のペルー、コロンビアを原産とする物が多い。それらは金と銅の合金で作られており、スペイン人たちはTumbagaと呼んでいた。金への欲望を募らせたヨーロッパ人は、金鉱あるいは採掘済みの金があると信じたエル・ドラード(黄金郷)を探し求めて南米奥地に分け入ったが、現在に至るまで該当する土地は見つかっていない。 大航海時代以降には、日本近くにあると信じられた金銀島も探索の対象となった。 1848年、アメリカ合衆国では、ゴールドラッシュと呼ばれる、金採掘を目的としたカリフォルニア州への大規模移民が起きた。同様の現象は、現在までにアメリカ国外を含めてしばしば発生している。 1899年から1901年まで南アフリカで起きたボーア戦争は、イギリスとボーアの鉱山労働者の権利や金の所有権に関する争いである。 資産価値と金本位制歴史上の評価を総括するならば、金は最も価値のある金属と考えられてきた。また純粋、価値、特権階級の象徴としてもとらえられてきた。これは、金が他の金属と比較して年代を経ても基本的な性質を損なわず、価値を保存する性質に優れていたことが大きな理由である。したがって、その後発展した多くの通貨制度においても、金は最も上位に位置する基準とされてきた(金本位制)。 ほとんどの国が管理通貨制度に移行した現代でも、多くの中央銀行や政府が、財務的な信用力を確保するため資産の一部を地金として保有している[10]。 また金の先物取引などは、個人からヘッジファンドなどのトレーダーに至るまで投資の一手段とされている。さらに資産の一部を金地金や金貨、金装飾品で保有する個人もいる[11]。 2004年11月、ロンドン金価格に連動するETF(上場投資信託)が誕生し、一般投資家が金地金の現物を購入・保管する手間やコストなく投資可能となったことで需要が増大した。 金は「安全資産」と看做されており、世界経済や国際情勢への不安感が増したり、金利が低下して、金利を生まない金を保有するデメリットが薄れたりすると金価格は上昇する傾向がある。金の国際相場最高値は、2011年に1トロイオンス1900ドルを超え、2020年に新型コロナウイルス感染症の影響で2000ドルを突破。日本国内では新型コロナウイルス感染症の影響で2020年4月13日、1グラム6513円と従来の最高値(消費税導入前の1980年1月に付けた6495円)を超えた[12]。 金の採掘は比較的容易であり、1910年からこれまでに、究極可採埋蔵量のうち75%ほどの金が産出されてきたと考えられている。地質学的に、地球上にある採掘可能な金の埋蔵量は、一辺が20 mの立方体に収まる程度と考えられている。 →詳細は「金 § 金鉱山」を参照
金と錬金術・科学こうして金が財力として価値が見いだされると、新たに金を採掘するよりも容易に金が得られる技術の開発が試みられた。金そのものの性質を調べることに加え、それまでの冶金術を元に、身近な金属や物質から金を作り出す研究が盛んに行われ、これは錬金術として確立した。占星術からの引用で太陽を表す記号で金も表し、金を生み出すことができるとされた物質には賢者の石の名を与えた。錬金術師達により賢者の石を作ることに多くの努力がなされ、その試みの全ては失敗に終わったが、得られた多くの成果はその後の化学や物理学の基礎となった。 現代では原子核物理学と宇宙物理学の発展により、鉄(原子番号26)より重い元素核種は、中性子捕獲とベータ崩壊によって作られることがわかっている。この過程を解明するための再現実験で、金よりも原子番号が一つ大きい水銀(原子番号80)の安定核種に中性子線を照射すると放射性同位体が生成され、これがベータ崩壊することで金の同位体が得られる。ただし、これらは安定核種ではない(放射能を持つ)上に、実用に耐えうる十分な量の金を求めるのなら長い年月と膨大なエネルギーが必要であり、得られる金の時価と比べると現実的でない。 自然界での金の生成金を含むあらゆる元素は、宇宙の進化とともに生成されてきた。特に鉄よりも重い金のような元素は、星の爆発などの凄まじい天文現象で生成された。 宇宙で金を含むこのような重元素が作られるプロセスは、これまで漸近巨星分枝と呼ばれる赤色巨星内で合成される過程(s過程)と、そのような巨大な恒星が寿命を終え超新星爆発を起こす過程(r過程)の両方で合成されると考えられていた。しかし、これらの過程では、前者は中性子束が低いため反応断面積が小さくて重元素は生成できず、後者は爆発の際に発生したニュートリノが中性子を陽子に変えてしまうため、やはり重元素は生成しにくいことがわかってきた。最新の研究では、強い重力によって中性子の密度が非常に高くなった中性子星が合体する過程で、白金や希土類(レアアース)といった元素とともに金も大量に合成される可能性が高いことが判明した[13]。 用途金は前述のような耐食性、導電性、低い電気抵抗などの優れた特性を持つため、20世紀になってからは工業金属として様々な分野で使用されているが金単体では金属加工用途としては軟らかすぎるため、通常は銅や銀、その他の金属と鍛錬されて、合金として用いられる。 金とその他の金属の合金は、その見栄えの良さや化学的特性を利用して指輪などの装飾品として、また美術工芸品や宗教用具(仏像や神像など)の材料として利用されてきた。さらに貨幣、または貨幣的物品を代替する品物として用いられてきた。 金は古くから利用されていた金属であるが、構造材としては強度が小さく重いことや、そもそも高価なことから武具の材料としては使われなかったが、装飾としては多く利用された。 工業用品としての利用工学
化学
生物学・医学
通貨・投資対象としての利用
明治時代になっても、金は銀行が発行する紙幣との交換(兌換)が可能で、その価値が保証されていた。1971年にアメリカが金本位制を廃止して以後、ほとんどの主要国で兌換は出来ない。キロバー(質量1キログラムの地金)の購入の場合は、地金商や鉱山会社などの貴金属専門業者等で購入するよりも商品取引員で購入するほうが、東京商品取引所の金先物市場の期近を活用しているため、東京商品取引所の受渡供用品であり、そして、受渡供用品の商号または商標の指定は出来ないが、中間マージンが低い分安いコストで購入できる。逆にキロバーを鋳造する地金商からの購入の場合は、自社で溶解し自社ブランドの刻印を刻んで販売するため、その分コストを上乗せされ販売されている。 芸術や装飾品としての用途
金は通常錆びることがなく、アクセサリーとして手入れしやすく、安心して身につけられることも人気の理由となっている。ただし、一部に金属アレルギーに関する懸念がある。 →詳細は「金 § 毒性」を参照
純金は軟らかく、そのままでは装飾品として機能しづらい。従ってほとんどの場合、別の金属(割り金)を添加した合金を用いて装飾品を作る(純度に関しては当該項目を参照)。国内の装飾品では K18 や K14 が一般的であるが、欧米ではK9やK8も市場に多い。 金を使った装飾品は、特にインドや中華人民共和国で需要が高い[17]。また、日本製の金装飾品は品質が高く、アジアからの観光客に人気がある[17]。現在は貴金属を使わないコスチュームジュエリーなどが伸びてきており、金装飾品の需要を減らしている[17]。 食用としての利用厚生労働省では既存添加物89番、E番号では着色料E175として分類される。インドなどでは、バーク(サンスクリット: वरक)と呼ばれ食されている。ヨーロッパでは16世紀から食されており、元々は薬用として摂取されていた。最も有名な例としては、1598年以前から生産されている金粉を添加した薬用酒「ゴールドワッサー」などがある。
カラーゴールド→「en:Colored gold」も参照
金合金は、割り金の銅、パラジウム等の配合によって様々な色調を示す。これらを総称してカラーゴールドと呼ぶ。 カラーゴールドの代表的なものをあげる。
このほか、黒味がかったブラック・ゴールドや、柔らかな金茶色のベージュ・ゴールドなどもある。 純度合金の主成分の含有率を純度、または品位という。金の品位は、24分率で表される習慣がある。その場合、純金は24金、24カラット (米国:karat、英仏:carat)、あるいは、K24(この語順でも読みは 24 karat)、24K、24kt、24ctと表す。そして、金の含有率に従い数値を変える。例えば、18金は金の含有率が18/24、すなわち750‰であることを表し、装飾品に750と刻印される。なお、このカラットは宝石の重量を表すカラット (carat、1ct=0.2g) とは異なるものである。
金鉱床
酸化をほとんど受けない金は、自然金(しぜんきん、native gold、金の単体)として得られることがほとんどである。また金は、火成岩中にも極微量に含まれる。ただし、採算が取れるほど固まって産出されるのは稀である。一方、低品質の金鉱床では、含金珪酸鉱と呼ばれて出荷される場合もある。これは銅の精製過程に融剤として珪酸分が用いられ、この副産物(不純物)として金が得られるというものである。 金鉱山として金を産出する場合は、金の鉱脈、あるいは鉱染を受けた岩体に沿って掘っていく。その他に、金を含む鉱石が風化した、砂状のものをパンニング皿(側面に一定間隔で凹凸の刻みが入れてある皿)などの道具によってより分ける砂金掘りの方法もある。 通常、石英、炭酸塩、まれに硫化物の鉱脈(英:vein)の中に自然金として存在する。硫化物では黄鉄鉱、黄銅鉱、方鉛鉱、閃亜鉛鉱、硫砒鉄鉱、輝安鉱、磁硫鉄鉱などの鉱床に含まれていることが多い。非常に稀であるがペッツ鉱、カラベラス鉱、シルバニア鉱、ムスマン鉱、ナギヤグ鉱、クレンネル鉱などの鉱脈に含まれていることもある。また、金は鉱化流体として存在していることが多く、間隙の多い岩体を金を含む熱水が通過した場合は鉱染状に金が産出する。この場合、鉱石単位量当たりの金含有量は少ないものの、総量が多くなることがある。 熱水鉱床は変成岩と火成岩のなかに生成する。このような海中で見つかる火山性(成)塊状硫化物鉱床(VMS鉱床、Volcanogenic Massive Sulfide. Deposits)、堆積岩内亜鉛・鉛鉱床では、ほとんどが(鉛、亜鉛、銅)であるが、貴金属も多く含む。 そのほかに、カーリン型金鉱床、酸化鉄型銅金鉱床(IOCG、Iron Oxide-hosted Copper-Gold Deposits)や斑岩銅鉱床。 鉱床は風化や浸食されていることもあり、その場合、金は砂金として小河などに流されるが比重が大きいために沈殿しやすく、重い鉱物の漂砂鉱床や砂鉱床に集まっている。もう一つ重要な鉱床は堆積頁岩または石灰岩の鉱脈で、これはまばらに単体の金が白金などの金属とともに散在する形で存在する。 金は地球全体の地殻内に広く分布して存在しており、存在比は0.003 g/1000 kg程度 (0.003 ppm) である。 公害金鉱床は銀、銅や水銀、硫化鉄、テルルなどのレアメタル、砒素を同時に産出することが多い。銀やレアメタルは鉱山の収益を補えるが、脈石となる水銀や砒素はそのまま廃棄されると公害の原因になり、公害対策や公害処理の費用のために逆に収益に影響をおよぼすことがある。 金鉱床と直接の関係は無いが、金の製錬の際にはアマルガム法(水銀)や青化法(シアン化合物)といった有毒物質を使用する場合が多く、金の生産に付随して排出される鉱滓や排水、廃液を適切に処理しないと周辺地域の環境汚染につながる場合がある。 金鉱山経済的に金鉱山と言える物は、平均して1000 kgあたり0.5 gの金を産出する必要がある。典型的な鉱山では、露天掘りで1 - 5 g/1000 kg (1 - 5 ppm)、通常の鉱山で3 g/1000 kg (3 ppm) 程度である。人間の目で見て金と分るには、鉱脈型の鉱床で少なくとも30 g/1000 kg (30 ppm) 程度の濃度が必要で、それ以下の金鉱石では、鉱石内に金があることを人間の目で見分けることは出来ない。 沖積層の鉱床では砂鉱床採掘が用いられ、堅い岩の鉱脈では金属抽出が用いられる。金の精製を完了するには、塩素処理または電解精錬を用いる。 日本の鉱山日本ではかつて、比較的多く金が産出された。マルコ・ポーロ『東方見聞録』などで「黄金の国」と呼ばれていたのも、日本産の金が出回っていたからである。 戦国期には甲斐国(現在の山梨県)において黒川金山や湯之奥金山が稼業し、金山衆により採掘された金鉱石を粉成、精錬し金生産を行なっていたと考えられている。また、戦国期から江戸期のはじめにかけて陸奥国でも玉山金山や朴木金山、白根金山が莫大な産金で栄えた。しかし、寛永年間以降には国内の金山は徐々に衰え始め、有名な佐渡金山も既に採掘をやめ、現在は観光地化している。大正・昭和初期のころには「東洋一の金山」と言われた北海道の鴻之舞金山は採算ベースに乗る金を全て掘り尽くして1973年(昭和48年)に、国内第3位だった大分県の鯛生金山も1972年(昭和47年)に枯渇して閉山した。 2022年現在は1985年(昭和60年)から採掘を開始した菱刈鉱山にて年間約4トン程度産出している[25]。 恐山(青森県)では温泉沈殿物として金の異常濃集体が発見されており、「恐山の金鉱床」として日本の地質百選に選定された。地質調査によると、金の含有量は鉱石1トン当たり平均約400g、場所によっては6500gにも達するが、この一帯は国定公園に指定されている上、土壌には毒性を有する砒素が高濃度に含まれていて作業者の生命にも危険がおよぶため、商業目的の金の採掘は不可能とされている。 ロシアが実効支配している得撫島には金鉱床が存在しており、外国企業を受け入れる経済特区に指定されてからはスイスの鉱山会社Solwayが採掘を行っている。 産出国1880年代から南アフリカ共和国が金産出の2⁄3を占め、ヨハネスブルグは世界で最も多くの金を産出する都市と言われていたが、2004年時点では1⁄3まで比率が低下した。オレンジ自由州とトランスバール州にある金鉱山は世界で最も深く掘られた鉱山となっている。その他の主な金の産出地としてはロシア、カナダ、アメリカ、オーストラリア西部にある。2009年時点、産出が最も多い国は中国である。 南アフリカ共和国では、ハウテン州のウィットウォーターズランド地方に、先カンブリア時代に形成された鉱山が集中している(ちなみにヨハネスブルグは同州州都)。金鉱床は約400キロメートルにおよぶ露頭に沿っている。金の生産は安定しており、産出国側も値崩れを予防するために市場に供給される量を調整しており、年度ごとの増減は少ない[26]。南アフリカ共和国での電気供給不安などのサプライ懸念がある上に、新規の鉱山開発などが年々難しくなっており、実際に過去10年の範囲で考えれば供給量は微減しているとも言われる[27]。この一方、上述のように新たな採掘技術の可能性や海水からの抽出等については今後の技術開発に拠るものであり、資源として枯渇に向かっているわけではない。
違法採掘南アメリカ地域では、金や宝石を狙うガリンペイロ(ポルトガル語:garimpeiro )と呼ばれる違法採掘者が使用する水銀によって、地域の希少生物や住民に水銀中毒を引き起こし問題視されている[29][30]。 南アフリカでは、廃鉱になった鉱山で違法採掘者が増加。2024年には当局が出入口を規制して水と食料の供給の搬入を不可能とし、坑内に立てこもる最大4000人にも及ぶ違法採掘者に対する兵糧攻めを行った[31]。 海水中金は海水中にも含まれており、その割合は1000 kgあたり0.1 - 2 µg (1×10−4 - 2×10−3 ppb) 程度である。フリッツ・ハーバーは第一次世界大戦でドイツ帝国に科せられた賠償金の足しにするため、海水から金の回収を計画し世界各地の海水を調査したが、それまで知られていたよりも濃度が低く採算が合わないことが判明した。 海水ではなく鉱脈が出来る要因となる熱水から直接金を回収する研究も行われている[25]。海洋研究開発機構とIHIでは金を吸着する性質を持つ藍藻の一種をシート状に加工した装置を使い、玉川温泉の温泉水や青ヶ島沖の熱水噴出孔[32]から金を回収する実験を行っている[25]。 金の生産科学的に不活性であることから、鉄などのように純度を高める精練を行う必要はない。しかし、鉱石からの抽出には王水や水銀以外との反応が難しいことから、特殊なプロセスが要求される。
金の地上在庫イギリスの貴金属調査会社トムソン・ロイターGFMSの統計によれば、2014年末時点で総量は 183,600トンである(金の地上在庫とはこれまでに採掘され精製加工された金の総量のこと)[36]。
化合物と同素体塩化金(III) (AuCl3) とテトラクロリド金(III)酸(塩化金酸)(HAuCl4) は最も有名な金化合物の一つである。金を含む化合物は多くの場合、金原子は+1または+3の酸化状態として存在する。 金イオンは1価、3価ともに軟らかい酸であり、軟らかい塩基と錯体を形成しやすい。またフッ素との反応では+5価の酸化状態もとり、フッ化金(V) (AuF5) を形成する。さらに金疹とよばれる Au− のアニオン(金化物イオン)を含む金化セシウムCsAu や 金化ルビジウムRbAu、および金化テトラメチルアンモニウム (CH3)4N+ Au−) のような化合物を形成する。これは水素化ナトリウムにおけるヒドリドのように、主に非金属元素がとる-1価と同形式のものである。 これまで合成された金の化合物の種類は同族の銀や銅と比べて少ない。下記に主な化合物を列挙する。
なお、金の同素体は確認されていない。 同位体→詳細は「金の同位体」を参照
毒性
金に関連する映像作品や神話・伝説・小説
脚注注釈出典
参考文献
関連項目
外部リンク
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