消費税
概要→「付加価値税」を参照
消費税(付加価値税)とは財貨・サービスの取引により生じる付加価値に着目して課税する仕組みである。日本における消費税は、諸外国の付加価値税(value-added tax, VAT)に相当する税制度である[2]。消費税(付加価値税)は国外取引においては、輸出国側では非課税(申請還付)であり、輸入国側の税制度で課税される[3][4]。そのため、EUも「EU域外への輸出」・EU域内非課税納品にはVAT非課税としている。そのため、加盟国以外の国の事業者かつ現地で売り上げがないケースで、VAT負担した際には還付申請することで税額還付される[5]。 付加価値税(消費税)はフランスで1959年に初めて導入され、その後160カ国以上で導入された。OECD加盟国で付加価値税(消費税)を導入していないのは州ごとに税制が大きく異なり、売上税(sales Tax)と物品税(excise tax)[注釈 1]が導入されているアメリカ合衆国のみである。州税と地方税の合計である売上税の税率は各州の市ごとに0%~10%と異なっている[6][7]。ただし、フランスによる1950年代の付加価値税を真似た各国は制度導入時の国内の反対論に妥協し、後に専門家から事務コストの高さから単一税率にすべきと批判される軽減税率を導入した[8]。日本国では1989年の消費税法制定で他国よりも遅れて導入された。消費税税率1%の上下で約2.6兆円の税収が増減する[9]。事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供、商品の販売や運送、広告など、対価を得て行う国内の取引のほとんどは課税の対象となり、外国から製品を輸入する場合も課税される[1]。2012年時点でOECD諸国の平均では付加価値税は税収の約31%を占めており、これはGDPの6.6%に相当する[10]。EUの加盟国にはVAT(付加価値税)の導入と共に、付加価値税の標準税率を15%以上にすることが義務付けられている[11][5]。 社会保障給付費・現役世代の社会保険料負担との関係
消費税導入以前は、納税とは所得税など現役世代によるモノが中心だった。しかし、不景気などで個人所得が減少時に納税額も減少することになり、景気や経済情勢に左右されない内需型の課税として考え出された。更には、少子高齢化が悪化するほど、増加抑制困難な公的年金・介護保険・健康保険などの社会保障給付は増大 し、社会保険料など現役世代の負担が増していくサイクルになっている。そのため、消費税の減税や廃止とは、非現役世代による納税額激減を意味し、現役世代の社会保険料が大幅に上昇する。消費税とは現役世代目線では長期的な社会保険料増加速度の抑制の恩恵があり、高齢者など非現役世代にも税負担をさせる仕組みである[15]。消費税が社会保障の財源とされる背景には、他税との比較において、現役世代といった特定の世代にのみ負担が集中しない点、税収が景気などの変化に左右されにくい点、経済活動に中立的である点から適していることにある[16]。 一律徴収後の分配との比較消費税減税とは富裕層ほど多額の得をし、不労所得層を含む非現役労働層は多額消費しても税負担をしなくてよくなり、所得税・法人税など現役労働者層のみに負担がいく税中心の制度となる。そして、消費税反対論として、「低所得者ほど逆進性」の主張があるが、これは、低所得層における税による受益部分を見ずに消費税単体しか見ていない意見である。実際には、非課税世帯など低所得者層ほど消費税を中心とした「支払った税金総額」よりも、消費税以外での各種支払減免額・自己負担上限や還付・給付金などを合算すると徴税分配による受益総額の方が多い「受益の超過」状態である[17]。2017年の厚生労働省の所得再分配調査報告書でも、所得別の徴税負担・受益還元の実態が示されている。再分配前所得約472万円だと再分配所得482.0万で受給超過、再分配前所得約523万円だと再分配所得約513万円で拠出超過である。つまり、再分配前所得500万円前後こそが実際の「税負担における逆進性」の境目となっている。そして、高齢者世带となると再分配前所得約100万円であるのに再分配所得は約365万円となっており、単身世帯を含む一世帯当たり265万円の受給超過となっている[18]。そのため、ニュージーランドのような単一消費税率15%で現役世代のみならず、全消費者から「多額消費者ほど多く納めることになる」仕組みで効率的に一律徴税した後、分配する制度にすべきと指摘されている[17]。ニュージーランドでは、1986年に社会保障給付増加や保護主義的経済政策で膨張した財政赤字削減・物品ごとに異なる複雑かつ免税範囲の多い物品とサービスに関する税制度の改革のために、単一税率10%で消費税を導入した。ニュージーランド政府は最小コストで効率よい消費税収を得るには、課税ベースの拡大・単一かつ定率が必須だとの方針を1999年に再確認している。ニュージーランドでは社会保障費制度の再設計において、単一税率で徴税した消費税税収を再分配する仕組みが効率的であるとの説明を国民が受け入れたため、導入前後に日本のような反発が起きなかった[19]。ちなみに、2021年のニュージーランドは所得税10.5%~39.0%、法人税実効税率[20]28%(内資・外資同一税率)、消費税15%(単一税率)である[21]。同年のOECD加盟国38ヶ国平均は約23%であるため、ニュージーランドの28%に近いが、日本の法人所得への合算税率(法定実効税率)は29.74%であるために7位の高さである。法定実効税率1位はポルトガルの31.50%、38位はハンガリーの9.0%[22]。 社会保険料の減税・消費税の増税の比較2021年の日本における社会保険料負担総額は、労働者負担39.8兆円・企業負担35.7兆円の合計75.5兆円である。社会保険料は所得から計算されるので主に現役世代負担なのに対して、消費税は現役世代から高齢世代まで広く薄く負担する仕組みである。そのため、現役世代の社会保険料負担10%軽減額≒消費税率約4%引き上げ金額分の関係となっている。つまり、70歳未満の現役世代目線では、社会保険料減税を対価とした消費税増税の方が税負担が軽減される。70代未満世代の中でも特に40代だと「社会保険料10%減額の代わりに消費税増税約4%」を実行されると8.4万円も税負担が減る[23]。 租税体系からの分類租税体系からの分類方法の一つとして、所得課税(所得税、法人税)、資産課税(相続税、固定資産税)、そして消費課税に大別する方法がある[24]。 この消費課税はさらに、消費した本人へ直接的に課税する直接消費税と、消費行為を行った者が担税者であるものの納税義務者ではない間接消費税に分類できる[2]。前者の「直接消費税」にはゴルフ場利用税などが該当し、納税義務者が消費行為を行った者であって、物品またはサービスの提供者が徴収納付義務者(地方税の場合は特別徴収義務者)として課税主体に代わって徴収を行い、課税主体に納付することとなる。後者の「間接消費税」には酒税などが該当し、納税義務者は、物品の製造者、引取者または販売者、あるいはサービスの提供者であり、税目によって異なる。間接消費税はさらに課税対象とする物品・サービスの消費を特定のものに限定するかどうかに応じ、個別消費税と一般消費税に分類される[25]。 一般消費税はさらに単段階課税(製造業者売上税、卸売売上税、小売売上税)と多段階課税に分類でき、この多段階課税は累積的取引高税と付加価値税とに分類され、これが日本の消費税法でいう狭義の消費税に相当する[2]。さらに付加価値税はGNP型、所得型、消費型に分類され、この消費型付加価値税が現在多くの国で導入されている付加価値税に相当する。さらに消費型付加価値税は前段階税額控除方式(EU)と仕入控除方式(日本)とに分類できる。前段階税額控除方式はEUなどのインボイス制度とも呼ばれ、カナダ、オーストラリアではGoods and Services Tax(GST,財貨サービス税)と呼ばれる[26]。日本では2023年10月1日から適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入された。 日本でいう「消費税法に規定する消費税」と「地方税法に規定する地方消費税」は、消費税等として一般消費税に区分される。
消費は所得の存在を前提として発生することから、消費に課税することによって所得税などで十分に把握できない所得に対して間接的に課税することになる。ただし、所得の中には貯蓄に回される部分があるために、所得の大小と消費の大小は必ずしも一致せず、消費者の消費性向が実際の消費税の負担に対して影響を与える。 一般消費税一般消費税は、さらに以下に分類される[19]。
かつての日本の経済学では一般売上税(general sales tax; GST)とも呼ばれていた税方式がモデルとなっている。一般売上税の課税方法として製造・卸売・小売の各段階のいずれか1段階で課税される単一段階課税と2つ以上の段階で課税される多段階課税がある。 多段階課税を採用した場合、次の段階に税負担を転嫁させていく「ピラミッド効果」が発生し、それぞれ異なる商品に同じように課税をすることによって商品に対する税負担の格差が生じることになる。こうした問題点を解消するために、納税義務者はその売上げに係る消費税ではなく、差額に係る消費税を納税する方法が考え出された。これが今日の一般消費税(VAT)である。一般消費税は付加価値の算定方法により所得型付加価値税と消費型付加価値税に分けることが出来る。前者は仕入計算時において資本財の控除は減価償却分しか認められないが、後者では資本財全額が控除の対象となり、消費部分のみが課税対象となる。 消費税と一般消費税は外見的には類似しているが、一般消費税には所得に対して課税する所得税や法人税などの直接税に対する批判に由来する代替的な要素も含まれている。所得に課税する場合には、納税者がそもそも正直な所得の申告をし正確な納付をしているかを把握するのに行政側のコストがかかり、公平性・水平性の点でも問題が多い。直接税に批判的な人々は「消費による支出を通じてより正確な所得が把握できる」という考えから一般消費税による代替を求める。 一般消費税が初めて導入されたのは1954年のフランスであるが、その前身は1917年に導入された「支払税(la taxe sur les paiements)」である。その後、1920年に「売上税(la taxe sur le chiffre d’affaires)」、1936年に「生産税(la taxe à la production)」と名称を変更しながら現在の形になっていった。その後、1967年にEC閣僚理事会においてフランスと同様の消費型付加価値税に基づく一般消費税を中心とした加盟国間の税制統一運動の推進が確認され、この方針に基づいて1968年に西ドイツが一般売上税を一般消費税に変更した。 これをきっかけに1969年にオランダ、1970年にルクセンブルク、1971年にベルギー、1973年にイギリス・イタリアと加盟国間において一般消費税への転換が進んだ。日本でも大平正芳内閣の時に導入を目指し、他の先進国の導入から10-20年後に議論の末に商品ごとに税額の異なる売上税から商品均一税率であるVAT型の消費税が1989年に竹下登内閣で導入されることになった[19]。 →税率、軽減税率、免税品については「付加価値税」を参照
個別消費税→「物品税」も参照
個別消費税(Selected excise duties)は特定あるいは一群の財貨・サービスに対する課税である[28]。課税の対象になる財貨・サービスは特定的で税率も統一されていない。税率は、量・重さ・強度・オクタン価・アルコール度数などが基準として使われている[28]。 この方式で課税される対象としては3つの分類が考えられ、酒や煙草のような嗜好品に賦課する「嗜好品課税」、ガソリンのように応益原則・受益者負担の原則に基づいて特定の公共サービスを行うために関連した商品・サービスにかける「目的税」、その他の物を対象とした「奢侈品・娯楽用品・サービス課税」と呼ばれる奢侈品や日常生活で用いられてはいるが生活必需品とはいえない商品に課される。かつて日本に存在した物品税の多くがこれに含まれている。 個別消費税は、元は内国消費税(excise)として、16世紀末期にスペインからの独立戦争を継続していたオランダで軍費調達のために始められたと言われている。イングランドではこれを範として内国消費税を導入して財政難を克服しようとした。これに対するイングランド議会の反発が、清教徒革命へと発展するが、皮肉にも革命軍の軍事費を得るためにジョン・ピムやオリバー・クロムウェルが採用したのが内国消費税であった。 その後、王政復古期に王権と議会の対立の原因となっていた徴発権などの国王大権を国王が返上する代わりに内国消費税の半分を国王の生活のための供与金として認めることで合意が成立した。その後も財政難を理由として何度か内国消費税の引き上げが行われた。1733年に当時(初代)の首相ロバート・ウォルポールが地租の削減・廃止と関税の引き下げの代償に更なる内国消費税の大幅引き上げを図った。 これに対して政敵のボリングブルック子爵が噛み付き、民衆も生活苦から暴動を起こす騒ぎとなったためにウォルポールは提案を撤回した。これを「消費税危機」(excise crisis)という。産業革命以後には産業育成のために内国消費税を削減して関税に転嫁する方針が採用された。フランスではジャン=バティスト・コルベールが導入した塩の専売制に付随してかけられたガベル(gabelle)と飲料品税に由来するエード(aides)が知られ、絶対王政期のフランス財政を支えた。ドイツでも17世紀後半以後盛んに導入されたが、余りの高率に国民生活の不安定と国家財政の極度の個別消費税依存を招きフェルディナント・ラッサールから厳しい批判を浴びた。 この他アメリカでも独立戦争時にイギリスを真似て個別消費税を導入したが、1794年にウィスキー税に反対するウィスキー反乱が発生してジョージ・ワシントン政権を揺るがした。 日本では、江戸時代以前の運上・冥加が一種の個別消費税に相当するが、近代的な税制は明治維新以後に各種の間接税が導入されて以後である。特に酒税は一時は歳入中最大の割合を占めるほどになった。戦後になってシャウプ勧告と消費税法施行に伴って2度にわたって間接税の整理が行われる。 総合消費税総合消費税(general expenditure tax)は、イギリスの経済学者ニコラス・カルドアが提唱した方法で、spendings tax(支出税)とも呼ばれる。個々の消費者がその年度内に発生した財貨・サービス支出を税務署に自己申告をおこない、累進課税にもとづく税額の算定にもとづいて納付する。元は所得税を補完する税法として考案され、キャピタル・ゲインなどの所得からも支出に対する課税の形で税を徴収でき、かつ預貯金とその金利は支出に相当せずに課税されないために節約と貯蓄奨励にもなるとされ、インドなどで一時導入が検討された。 だが、全ての人が正確な納付をおこなうためには、各個人が自己の支出に関する正確な記録を作成して、収入・支出・貯蓄に関するバランス・シートを作成しなければならないことから、本格的に導入した国は存在しなかった。また、税務署が全居住者の収入・支出・貯蓄情報を把握する必要があるため、事務の煩雑さから実施が困難であると言える。 OECD加盟国ごとの消費税率・歳入に占める割合一般消費税による税収の全税収における割合はOECD加盟国平均で20.2%であり[30]、一般消費税による税収の対GDP比はOECD加盟国平均で6.7%である(2022年)[30]。ちなみにOECD加盟国の中で欧州連合に属する国家は標準税率を15%以上にすることが義務づけられている[31]。 OECD諸国における消費税
日本は2015年度時点でOECD加盟国の中でデータのないトルコを除いた33カ国のうち、国民負担率は27位である[32]。NHKによると先進国中、フランスは68.2%、1位のルクセンブルクは93.7%などヨーロッパでは高く、日本の国民負担率は全体で下位であり、 日本はいわゆる「低負担・中福祉」の国と報道している。高齢者向けになっている社会保障を「全世代型」の社会保障を目指している日本政府の方針を伝えている[33]。民主党政権下の政府税制調査会専門家委員会委員を務めた三木義一青山学院大学法学部教授は日本は低負担中福祉となっていることについて、「高福祉高負担、低負担低福祉のどちらか又は中間の中負担中福祉なのかを日本は選ぶ必要がある」と指摘している。三木は「増税が必要な局面では、政治家が前面に出てその必要性を訴えなければ国民の理解も深まりません。それなのに、与党も野党も選挙での人気取りのために、社会保障の充実と減税を同時にアピールするような都合のよい主張が目立ちます」と日本経済新聞とともに日本にはびこる財政ポピュリズムを批判している[34][35]。 2018年時点のOECD加盟国の(標準)消費税率平均は約19.6%で、時事通信社によると高福祉・高負担の代表国のスウェーデンの消費税率は25%と国民負担率負担が高い半面、大学までの学費が無料など恩恵は大きい。国民負担率33.1%で低福祉・低負担とされる米国では政府が徴収する消費税がなく、市や州が税率を定めて小売売上税(地方税)を課している。日本は中福祉・低負担国であり、東京大学教授の福田慎一は、増税による応分負担または、国債と併せると歳出の58%を占める上に膨張し続けている社会保障費約36兆[36]削減の選択の議論が必要だとしている[37]。木寺元は日本の消費税が他国より低い理由に取引高税失敗とシャウプ勧告で官僚主導時代に一般消費税の導入自体が遅れたこと、一般消費税導入を目指した時の自民党政権が選挙に負け続けたことで、「相当な覚悟がないと消費税には手を出せない」という空気が政界で支配的となったからと解説している[38]。 デンマークの歳入内訳 2017年のデンマーク歳入の構成は、OECD(データ対象: 2017)によると所得税52.9%で半分以上を占めている。残りは消費税31.8%、法人税7.2%資産課税(固定資産税、相続税など)3.9%、 社会保険料:0.1%、 その他:4.1%である[39]。 各国の制度・C効率性消費税(付加価値税)の導入年度・最低標準税率義務化年度
単一税率国・軽減税率国と日本→「C効率性」も参照
単一税率ニュージーランド1986年に広い免税範囲・7種類の従価税率と12種類の特別税率という複雑な税率構造・サービス業非課税・製造業者から直接購入できる大規模小売業者に有利などの従来の卸売売上税の歪みを是正・歳入における個人所得税への極端な依存を是正・社会保障給付の増加と保護主義的な経済政策で拡大した財政赤字の削減などのために10%で導入され、1989年に12.5%へ増税された。1994年からGDP比の財政収支がプラスに転じた。軽減税率を導入せずに[注釈 5]消費税の税率が全て一律なため、世界で最も課税ベースが広く、経済に対して最も中立的な付加価値税であるのでC効率性[注釈 6]は世界最高の96.4%となっている。1999年にニュージーランド政府は最小のコストで安定した税収を得るためには、課税ベースの拡大と単一かつ定率の消費税だとの方針を確認している。1986年の軽減税率無しの10%の消費税導入に日本のような国民の反発はなかった。背景として、ニュージーランドでは社会保障費の制度を中負担中福祉にすることや低所得者への対応を消費税による税収から後で再分配する方が小売店も役所の負担が軽減されて効率的との政府の方針を国民が受け入れたためである。2006年に付加価値税収の総税収に占める割合は24.4%である[31][19]。 デンマーク1967年に福祉国家建設のための公的部門への需要増加に対応して、より広く安定した課税ベースを確立することを目的にデンマーク社会民主党によって10%で導入された。1970年代に20.25%台にまで引き上げられた後に、1992年から現行の25%になった。軽減税率は歳入減少の財政負担・徴収の効率化・軽減税率の適用対象品目の区別などが困難などとして、一律25%の消費税による税収を後で社会保障給付によって逆進性への対処として再分配を行う方が効率的として導入しなかった。デンマークで唯一例外的な軽減税率の対象は新聞のみである。2006年の対総税収比では個人所得税負担の割合が 51.3%と突出しており、付加価値税の割合は21.3%である。これは手厚い社会保障が基本的に国民の所得税と消費税で7割以上も賄われていることによる。同じ北欧で6%の軽減税率ありで、25%の消費税であるスウェーデンの47.3を上回る51.6のC効率性である。スウェーデンの付加価値税がデンマークよりもC効率性は低い理由には、 軽減税率と消費者を顧客とする小売・サービス業で発生しやすい脱税や電子商取引の発達や税率の低い隣国での国境を越えた租税回避がある[19][31]。 軽減税率アメリカ合衆国アメリカ合衆国では、連邦政府によるVATにあたる税金はないが、州ごとに業者間取引には課されず、最終的な消費者のみに課される売上税(Sales Tax)がある。50の州のうち、5つの州において、州ごとの売上税が課せられない。州ごとの売上税(State Sales Tax)がないのは、アラスカ州・デラウェア州・モンタナ州・ニューハンプシャー州・オレゴン州である[43]。 アメリカ合衆国議会では何十年にもわたって、VATの導入について議論が持たれてきたが、法人税・所得税に代表される直接税に比べて、消費税・付加価値税など間接税が優れているとは見なせないという理由で、国全体での採用は見送りとなっている(アメリカの国税における直間比率は9対1)[44]。 VATの場合は特に、輸出に還付金が渡され輸入には課税される点、法人税引き下げとセットにされやすい点など、議論の焦点となってきたことが、アメリカの公文書に多く残っている[44]。 イタリアイタリアは1973年に12%で導入された。1997年には20%にまで増税された。欧州危機不況で社会保障費支出は増大して、財政赤字が増加していた。そのため。2011年9月にイタリアのシルヴィオ・ベルルスコーニ政権が付加価値税(VAT)の税率を20%から1%引き上げたが、同税の受取額は減少し、4月末までの1年間の徴収額は2006年以降で最低に落ち込んだ。「歳出を減らす方がはるかに良い」と提言された。2013年には22%に増税された。2016年予算安定化法案で2017年1月から24%への増税が定められていたが、2017年予算法で増税時期は先送りされ、2018年1月に引き上げ実施予定になった。軽減税率は4%と10%の二つがあることもあり、C効率性は38.2%である[19][31][45]。 中華人民共和国→詳細は「zh:增值税 (中华人民共和国)」を参照
中華人民共和国において付加価値税(VAT)は「増値税」と呼ばれている。増値税は1984年に17%で導入された。現在では納税人と商品に対し、それぞれ違う税率が適用される(例えば、農産物や自己販売の中古品は免税、現代サービス業納税人には6%、図書・ガスには9%、一般の製品には13%)。なお、中国では値段はほぼ全部税込価格である。増値税が中国の総税収の60%以上を占めている。 日本
→日本における歴史については「消費税法 § 歴史」を参照
財政ポピュリズムによる導入の遅れ 日本の55年体制下では社会党や日本共産党などの野党による反対もあって、フランスにおける1959年の世界初導入から30年遅れた1989年(平成元年)4月1日に初めて3%の消費税が導入された。経済成長期やバブル景気末期より前に消費税を導入出来なかったことが、日本における赤字国債の拡大の一因ともされる。また、自民党からの政権交代に成功した細川非自民・非共産連立政権、民国連立政権では国民福祉税導入や消費税増税など野党時代の立場を転換して赤字国債削減政策が打ち出された[19][38][47]。この消費税(VAT)導入に伴う間接税の整理によって、パチンコ場等などの娯楽施設を対象とした地方税の娯楽施設利用税・トランプ類税・物品税等などの間接税が廃止され、酒税やたばこ消費税などが改定された。税の用途は、社会保障と少子化対策として規定されている(2012年法改正)。
日本のVATはOECD 諸国中で3番目に低く、OECD平均である19%の半分にすぎない。C効率性は65.3である[19][48]。日本のVAT率が、OECD平均を下回っている理由について、木寺元はシャウプ勧告、フランスで世界初導入された付加価値税が世界に広がったり、自民党が与党だったとしても一般消費税導入・税率引き上げを目指す度に歴代政権が選挙に負け続けたために「相当な覚悟がないと消費税には手を出せないという空気が政界(自民党内部)では支配的となった」ことが消費税の導入自体を遅らせたからだと指摘している[38]。 VAT8%への引き上げで、経済に影響をうける日本に対して、欧州が20%台で平気でいるのは1970年代から日本より元々VATが高かったからだと指摘されている。日本の低いVATでは引き上げ幅分3%が引き上げ前の5%の6割に相当するのに対して、イギリスでは2011年11月4日に実施した17.5%から20%への2.5%の引き上げは、従来の税率の14%相当の上げ幅に過ぎないため、景気後退も招かなかった。スペインはVAT 16%を2010年以降、2段階にわたり3年間で21%に引き上げた。イタリアも2段階の措置を経て、2011年に20%を22%に増税した。 イギリスでも1979年にVATを7.5%から15%に2倍引き上げた時には景気後退を招いている。財政赤字のイギリスが20%に増税した2011年直後にイギリス人記者のコリン・ジョイスは日本のVATが過去に3%から5%への引き上げられただけで、あんなに怒っていた当時の日本人が理解できないと述べた。財政赤字(en:fiscal deficit)にはVATを増税して税収を増やすことと、公共支出を減らすことの両方が必要だと指摘した[49][50]。 例として、スウェーデンは消費税が占める税収構成比は日本とほぼ同じパーセントなものの、法人税が日本よりかなり低いために「法人税入」の割合は日本の1/3で、「個人に対するの税金が高率」 での国である。具体的には、スウェーデンの高福祉を支える税収内訳は日本の約4倍も高い個人所得税を課税しており、「消費税が高い国」と言われるが、実際には「個人所得課税が多い国」である[51]。スウェーデンの法人税率は1989年に60%であったが1991年の冷戦崩壊期に30%、その後も現状維持期間を挟みながらも段階的に引き下げ、2024年で20.60%・個人所得税は52.00%である[52]。 高齢者社会保障費膨張問題による消費税増税と社会保険料減税による現役世代負担軽減効果 その後、2014年4月1日に日本の消費税率は5%から8%に上げられた。また、2019年10月に8%から10%への消費税率引き上げと同時に、複数税率(8%の軽減税率)が導入された。この際には安倍政権は消費税の増収分を赤字国債返済だけでなく、「3~5歳までの子どもの保育料の無償化」、待機児童解消に用いる方針に変更した。 安倍首相(当時)は当初案だと増収分で肥大する高齢者向け社会保障費による赤字国債返済に回す割合が多いこと、現行の社会保障費の使い道が高齢者向けの政策に偏っていることを問題視した。安倍首相は、「もっと現役世代に振り向けるべきだ」と指摘し、上記のように子供向けの割合を増やす形で使い道を変えた[53]。 2020年度において、消費税21.0兆円、所得税19.2兆円、法人税11.2兆円と、歳入の租税及印紙収入において消費税が最大の歳入になっている[54]。なお、国債発行による歳入である公債金は、2020年当初予算において90.2兆円にまで肥大化し、国債の利払い費用だけで9兆円にも及んでおり、さらに3回の補正予算による追加で、公債金の総額は112.6兆円に達している。消費税を減税すると富裕層・非現役世代から取れなくなり、「逆進性」との主張は、「そもそも低所得者層ほど、税負担は少なく、(支払った税金総額よりも)受益の方が多い。」と指摘されている。そして、消費税率15%で軽減税率無しで現役世代以外からも「多額消費者ほど多く納めることになる」仕組みで効率的に一旦徴税した後に分配するニュージーランド方式を目指すべきと指摘されている[17]。 財政破綻、Debt crisis、日本の福祉、日本の医療も参照のこと。 野党第一党にも変化が起きており、立憲民主党の枝野幸男は党首として臨んだ2021年の衆議院選挙で掲げた消費税減税はポピュリズムであり、2022年に間違いであったと振り返った。2024年8月25日に枝野は消費税減税を改めて否定し、来たる党代表選に勝利すれば衆議院総選挙を通じてポピュリズムと戦うと語っている[55]。同年9月の党代表選挙では野田佳彦が当選したが、首相在任中に消費税を5%から8%に引き上げることを決定した張本人であり、2024年現在も消費税減税には否定的である[56]。 背景には2021年の日本における社会保険料負担総額は、労働者負担39.8兆円・企業負担35.7兆円の合計75.5兆円となっている。現役世代の社会保険料負担10%軽減額≒消費税率約4%引き上げた際に補填出来る金額であるため、社会保険料減税率≒約半額の消費増税率となる。つまり、社会保険料減税を対価に消費税増税の方が「70歳未満の現役世代目線」では税負担が軽減される。特に厚生労働省「国民生活基礎調査」、総務省統計局「全国家計構造調査」、国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」を用いて試算すると、70代未満の世代、特に40代目線だと社会保険料10%減額と消費税増税約4%を実行されると8.4万円も税負担が減る[23]。 脚注注釈
出典
参考文献
関連項目
外部リンク
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