特定の恐怖症
特定の恐怖症(とくていのきょうふしょう、英語: specific phobia)は、特定の対象や状況に対して著しい恐怖反応を示す不安障害に分類される精神障害である。正常な恐怖との鑑別は重要であり、子供でも蛇を恐れ、何かに対する恐怖が数回酷くなったという経験もよくあり、たいてい著しい苦痛や機能の障害を示さないため、精神障害であるとはみなされない[1]。診断名の日本語訳が統一性を欠いている。『精神障害の診断と統計マニュアル』第3版のDSM-IIIでは単一恐怖(英:Simple Phobia)、第4版のDSM-IVでは特定の恐怖症(英:Specific Phobia)、第5版のDSM-5では限局性恐怖症(同じくSpecific Phobia)である。世界保健機関のICD-10では特異的(個別的)恐怖症(Specific (isolated) phobias)である。 治療としては、系統的に恐れる対象に暴露する暴露療法(行動療法)が最も効果的で、EMDR、認知療法は選択肢ではない[2]。薬物療法では抗不安薬のベンゾジアゼピンや抗うつ薬の利益はわずかである[2]。例外的にD-サイクロセリンは恐怖の減少を促進している[2]。具体的な治療法については、「特定の恐怖症#治療」を参照。 DSM-IVの特定の恐怖症の類型では以下が挙げられている。
またICD-10は以下を挙げている。 動物、雷、闇、閉所、飛行、高さなどを挙げ、高所恐怖症、動物恐怖症、閉所恐怖症、単一恐怖を含み、醜形恐怖症、疾病恐怖症を含まない。 環境から導かれる場合がある(例えば、肉親に単一恐怖を持つものがいて、その人に影響されて)。 定義→「精神障害 § 定義」も参照
精神医学的障害の一種である。 診断DSM-IVの診断基準Bは、恐怖の対象に暴露されるとただちに不安反応を起こしパニック発作の形をとることもあることを示している。 診断基準Eが、回避、不安、苦痛のために、著しい苦痛や生活機能上の障害を感じていることを要求している。 鑑別診断正常な恐怖は、大きな問題を引き起こさない[1]。過剰診断に注意が必要であり、恐れを抱く回路は生まれつき備わっているため、チンパンジーや子供でも蛇を恐れる[1]。何かに対する恐怖が数回酷くなったという経験もよくあり、たいてい著しい苦痛や機能の障害を示さないため精神障害であるとはみなされない[1]。 社交不安障害では、社交状況に対する恐怖である[1]。心的外傷後ストレス障害では、恐ろしかった以前の経験に似た状況を恐れる[1]。強迫性障害では、強迫的な儀式のきっかけとなる状況を恐れる[1]。 治療心理療法心理療法では、系統的に恐れる対象に暴露する暴露療法(行動療法)が最も効果的とされており[2]、治療者と患者が協働して、系統的な暴露を展開していくことが望まれる[3]。このことを通して、恐れていた対象は実際には危険ではなく恐れるに値しないものであるということや、慣れれば大丈夫であるということを、患者が学び体感できるよう支援する[4]。それをバーチャルリアリティにおいて行う、コンピュータ支援暴露療法については証拠は不十分である[2]。EMDR(眼球運動による脱感作および再処理法)も証拠が限られており、暴露の代替手段とはみなせない[2]。 暴露療法を行う際には、患者に暴露の重要性を理解してもらうことが重要とされる[5]。そこでは、次のような事柄などを説明し、暴露療法へ取り組む意欲を高めることをサポートする[6]。
また、暴露の前に学習理論をふまえた心理教育が行われたり、暴露の際に恐怖を感じていない第三者を観察しその第三者のまねをして一緒に暴露を受けるというモデリングの技法が用いられたりすることで、さらに治療効果が高まる[4]。加えて、介入を構成する認知的かつ補助的な要素として、恐怖対象や恐怖状況の再評価や再ラベリングなどを活用する場合もあり、暴露を導入する手助けになるとされている[3]。 なお、1回だけの暴露セッションによる認知行動療法の一種は、子供や青年の特定の恐怖症に有効である[7]。 薬物療法薬物療法では、抗不安薬が処方されることがあるが、研究はこのような使用を支持しない[2]。ベンゾジアゼピンの使用は行動療法に比較して、追跡調査の再発率が高く、再発は薬を中止した際に一般的である[2]。抗うつ薬ではパロキセチンとエスシタロプラムの研究があるが、追跡調査が行われていない[2]。このように、薬物療法の利益はわずかである[2]。その例外は、D-サイクロセリンとヒドロコルチゾンであり、NMDA型グルタミン酸受容体への部分作動薬として働き、暴露療法の効果を高め、恐怖の減少を促進している[2][8]。 出典
参考文献
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