2011年、アニー・エルノーが生まれる前に亡くなった姉に捧げた『もう一人の娘(L'Autre Fille)』、および作品の執筆について書き留めたものを集めた『暗いアトリエ(L'Atelier noir)』を発表した。また、ガリマール出版社の文学叢書クワルト版として『生を書く(Écrire la vie)』という1,000ページ以上のアンソロジーを発表した。この本にはほとんどの自伝小説、そして彼女の生い立ちに関する詳しい情報、日記、写真なども含まれている[4]。
2016年には最新作『娘の記憶(Mémoire de fille)』が発表された。これは18歳のときの林間学校での初めての性体験の記憶 ---「他のどんな記憶よりもずっと鮮明かつ執拗にこびりついている恥の記憶」[5]--- を60年近く経って再現したものである。
さらに個々の体験として、父親と母親それぞれの生と死を描いた『場所』、『恥 (La Honte)』、自立を目指しながら1960年代の因習的な性役割を課される女性の葛藤を描いた『凍りついた女』、恋愛、性愛(セクシュアリティ)をテーマとした『シンプルな情熱』、『自分を失う (Se perdre)』[9]、『嫉妬』、中絶の経験を中心に女性の生(性)を描いた『空っぽの箪笥 (Les Armoires vides)』、『事件』、老いをテーマとしてアルツハイマー病で亡くなった母親の晩年を描いた『「私の夜から出ていない」(« Je ne suis pas sortie de ma nuit »)』[10]、母親の死そして一人の女性としての生き方を描いた『ある女』、乳癌の治療を受けた経験を語る『写真の使い方 (L'Usage de la photo)』[11]を著した。
『シンプルな情熱』:「昨年の9月以降わたしは、ある男性を待つこと ― 彼が電話をかけてくるのを、そして家へ訪ねてくるのを待つこと以外何ひとつしなくなった(À partir du mois de septembre l'année dernière, je n'ai plus rien fait d'autre qu'attendre un homme : qu'il me téléphone et qu'il vienne chez moi.)」という、しばしば引用される表現に象徴されるように、離婚した女性教師と妻子ある東欧の外交官の激しく「シンプルな」肉体関係を描いた自伝的小説である[14][15]。1年間で売上が20万部に達し、全欧州諸国、米国、日本で翻訳が刊行された。大きな反響を呼んで、評論家の意見は分かれたが、読者からは毎日10通以上の手紙が届いた[16]。
『ある女』:次第に記憶を失い、身体的にも衰えていく母に最期まで寄り添って生きた娘が、その人生を必死に生きた一人の女の人生として描くと同時に、愛、憎しみ、いとおしみ、罪の意識など母に対する娘の複雑な感情を表現した自伝的小説。二人の母娘関係は、「もう彼女(母)の声を聞くことができない ... 私が生まれた世界との最後の絆を失った(Je n'entendrai plus sa voix... J'ai perdu le dernier lien avec le monde dont je suis issue.)」という言葉に象徴的に表現される[20][21]。
Ce qu'ils disent ou rien (所謂… または無), Gallimard, 1977.
« Je ne suis pas sortie de ma nuit » (「私の夜から出ていない」), Gallimard, 1997 --- アルツハイマー病だった母親の言葉として引用符付きの書名。
La Honte (恥), Gallimard, 1997.
La Femme gelée, Gallimard, 1981 (邦訳『凍りついた女』).
La Place, Gallimard, 1983 (邦訳『場所』).
Une femme, Gallimard, 1988 (邦訳『ある女』).
Passion simple, Gallimard, 1991 (邦訳『シンプルな情熱』).
Journal du dehors, Gallimard, 1993 (邦訳『戸外の日記』).
L'Événement, Gallimard, 2000 ---「事件」という邦題で『嫉妬』に併録
La Vie extérieure (外的生活), Gallimard, 2000.
Se perdre (自分を失う), Gallimard, 2001.
L'Occupation, Gallimard, 2002 (邦訳『嫉妬』).
L'écriture comme un couteau (ナイフのようなエクリチュール), Gallimard, 2003.
L'Usage de la photo (写真の使い方), マルク・マリーとの共著, Gallimard, 2005.
Les Années (歳月), Gallimard, 2008.
L'Autre Fille (もう一人の娘), NiL Éditions, 2011.
L'Atelier noir (暗いアトリエ), Busclats, 2011.
Écrire la vie (生を書く) (Collection Quarto, Gallimard), 2011.
Retour à Yvetot (イヴトに帰る), Mauconduit, 2013.
Regarde les lumières mon amour (愛する人よ、あの輝きを見て), Raconter la vie (Seuil), 2014.
Mémoire de fille (娘の記憶), Gallimard, 2016.
Le Jeune Homme, Gallimard (若い男), 2022
書目
S. J. McIlvanney: Gendering mimesis. Realism and feminism in the works of Annie Ernaux and Claire Etcherelli. Graduate thesis, University of Oxford 1994 EThOSuk.bl.ethos.601153
Georges Gaillard: Traumatisme, solitude et auto-engendrement. Annie Ernaux: "L’événement". Filigrane, écoutes psychothérapiques, 15, 1. Montréal, Spring 2006 ISSN1192-1412 en ligne; ISSN1911-4656doi:10.7202/013530AR p. 67–86