船舶安全法
船舶安全法(せんぱくあんぜんほう。昭和8年3月15日法律第11号)は、船舶における人命の安全確保等を目的とする日本の法律。 所管官庁
外務省国際法局条約課、商法を所管する法務省民事局商事課など他省庁と連携して執行にあたる。 構成
船舶安全法の適用日本船舶船舶安全法は、船舶の堪航性(Seaworthiness)を保持し、かつ、人命の安全を保持するために必要な施設をしなければ、これを航行の用に供することができない旨を規定している(船舶安全法1条)。そのため、船舶安全法は、原則として、全ての日本船舶に適用される[1]。日本船舶とは、船舶法1条に規定する日本船舶を所有することができる者が所有する船舶をいうが、船舶登記・船舶登録の前であっても、船舶安全法の適用がある[1]。 外国船舶船舶安全法の目的に照らせば、外国船舶についても船舶安全法を適用しなければならない[2]。そこで、日本船舶でない船舶(外国船舶)のうち、次に掲げるものについては、船舶安全法の全部又は一部が準用される(船舶安全法29条ノ7)。
外国船舶に準用される規定は、次のとおりである(船舶安全法施行令1条、2条)。
なお、危険物その他の特殊貨物の運送及び貯蔵並びに危険及び気象の通報その他船舶航行上の危険防止に関する事項(船舶安全法28条)は、外国船舶に準用する旨の規定を欠いているが、日本船舶に限定されていないことや、警察取締法規であることを理由に、外国船舶にも当然に適用されると解されている[2]。 また、本法施行地にある外国船舶について、その所属地における本法に該当する法令を国土交通大臣が相当と認めたときは、これに基づいた船舶の堪航性又は人命の安全に関する証書は、本法によって交付した証書と同一の効力を有することとされている(船舶安全法15条1項)。ただし、この規定は、本法によって交付した証書の効力を認めない国に属する船舶については適用しないこととされている(同条2項)。 船舶所有者・船長船舶安全法及び船舶安全法に基づく命令中、船舶所有者に関する規定は、船舶共有の場合であって船舶管理人(商法697条)を置いたときはこれを船舶管理人に、船舶貸借[注釈 1]の場合は船舶借入人に適用し、船長に関する規定は、船長に代わってその職務を行う者にこれを適用する(船舶安全法26条)。 条約との関係船舶の安全に関する条約としては、国際海事機関(IMO)において定められた海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)や、満載喫水線に関する国際条約(LL条約)などがある。 船舶の堪航性及び人命の安全に関し条約に別段の規定があるときは、その規定に従うこととされている(船舶安全法27条)。 定義国際航海国際航海とは、一国と他の国との間の航海をいう(船舶安全法施行規則1条1項)。この場合において、一国が国際関係について責任を有する地域又は国際連合が施政権者である地域[注釈 2]は、別個の国とみなされる(同項)。 旅客船旅客船とは、12人を超える旅客定員を有する船舶をいう(船舶安全法8条)。 漁船漁船とは、次の各号の一に該当する船舶をいう(船舶安全法施行規則1条2項)。
危険物ばら積み船危険物ばら積み船とは、危険物船舶運送及び貯蔵規則(昭和32年運輸省令第30号)2条1号の2に規定するばら積み液体危険物を運送するための構造を有する船舶をいう(船舶安全法施行規則1条3項)。 特殊船特殊船とは、原子力船(原子力船特殊規則(昭和42年運輸省令第84号)2条に規定する原子力船をいう。)、潜水船、水中翼船、エアクッション艇、表面効果翼船(海上衝突予防法施行規則(昭和52年運輸省令第29号)21条の2に規定する表面効果翼船をいう。)、海底資源掘削船、半潜水型又は甲板昇降型の船舶及び潜水設備(内部に人員をとう載するものに限る。)を有する船舶その他特殊な構造又は設備を有する船舶で告示で定めるものをいう(船舶安全法施行規則1条4項)。 なお、船舶安全法施行規則第一条第四項の特殊な構造又は設備を有する船舶を定める告示(昭和55年運輸省告示第56号)は、次に掲げるものを特殊船として規定している。
小型船舶小型船舶とは、総トン数20トン未満の船舶をいう(船舶安全法6条ノ6)。 施設船舶は、次に掲げる事項について、国土交通省令(漁船のみに関するものについては国土交通省令・農林水産省令)の定めるところによって施設することを要する(船舶安全法2条1項)。
次に掲げる船舶については、船舶安全法2条1項の適用が除外されている(同条2項)。
なお、政令をもって定める総トン数20トン未満の漁船については、「当分ノ内」、船舶安全法2条1項の規定が適用されない(同法附則32条)。このような漁船は、船舶安全法第三十二条の漁船の範囲を定める政令(昭和49年政令第258号)によって、「専ら本邦の海岸から12海里以内の海面又は内水面において従業する漁船」と規定されている。 また、陸上自衛隊の使用する船舶(水陸両用車両を含む。)及び防衛大学校を含む海上自衛隊の使用する船舶については、船舶安全法の規定の全部が適用されないこととされているが(自衛隊法109条1項、2項本文)、海上自衛隊の使用する船舶のうち、政令で定める船舶(自衛艦以外の船舶(自衛隊法施行令155条))については、船舶安全法28条の規定中、危険及び気象の通報その他船舶航行上の危険防止に関する部分が適用される(自衛隊法109条2項ただし書)。 満載喫水線満載喫水線とは、載貨による船体の海中沈下が許容される最大限度を示す線をいう[4]。 次に掲げる船舶は、国土交通省令の定めるところによって、満載喫水線を標示しなければならない(船舶安全法3条本文)。ただし、潜水船その他国土交通大臣において特に満載喫水線を標示する必要がないと認める船舶はこの限りでない(同条ただし書)。
国土交通大臣において特に満載喫水線を標示する必要がないと認める船舶は、次のとおりである(船舶安全法施行規則3条)。
満載喫水線の位置は、満載喫水線規則(昭和43年運輸省令第33号)及び船舶区画規程(昭和27年運輸省令第97号)の定めるところによる(船舶安全法9条1項、船舶安全法施行規則11条)。 無線通信船舶は、国土交通省令の定めるところによって、その航行する水域に応じ、電波法による無線電信又は無線電話であって、船舶の堪航性及び人命の安全に関し陸上との間において相互に行う無線通信に使用し得るもの(無線電信等)を施設することを要する(船舶安全法4条1項本文)。ただし、航海の目的その他の事情によって、国土交通大臣において、やむを得ない又は必要がないと認めるときは、この限りでない(同項ただし書)。 無線電信等の施設が免除される船舶は、次に掲げるいずれかの船舶であって、管海官庁が許可したものである(船舶安全法施行規則4条1項)。
船舶安全法4条1項の規定は、同法2条2項に掲げる船舶その他無線電信等の施設を要しないものとして国土交通省令で定める船舶には適用されない(船舶安全法4条2項)。国土交通省令で定める船舶は、次のとおりである(船舶安全法施行規則4条の2)。
なお、海上における無線通信については、海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)の実施により、GMDSSと呼ばれる海上無線通信システムが用いられている[5]。 船舶の検査船舶所有者は、船舶の施設、満載喫水線、無線電信等について、国土交通省令の定めるところによって、次の区別による検査を受けなければならない(船舶安全法5条1項)。
本法施行地において製造する長さ30メートル以上の船舶の製造者は、2条1項の規定の適用がある船舶について船体、機関及び排水設備、3条の船舶について満載喫水線に関し、船舶の製造に著手した時から国土交通省令の定めるところによって検査(製造検査)を受けなければならない(船舶安全法6条1項)。ただし、国土交通大臣において、やむを得ない又は必要ないと認めるときは、この限りでない(同項ただし書)。 なお、上記の検査がいずれも強制検査であるのに対し、本法施行地において製造する長さ30メートル未満の船舶の製造者による製造検査(船舶安全法6条2項)、船舶の所要施設に係る特定の物件の製造者等による予備検査(同条3項)、船舶の所要施設に係る規定が適用されていない船舶又は当該船舶に備え付ける物件について定期検査又は予備検査に準じて予め受ける準備検査は、いずれも任意検査とされている[6]。 国土交通大臣の登録を受けた船級協会の検査を受け、船級の登録をした非旅客船は、その船級を有する間、船舶安全法2条1項各号に掲げる事項、満載喫水線及び無線電信等に関し、特別検査以外の管海官庁の検査に合格したものとみなされる(船舶安全法8条)。 管海官庁の検査又は検定を受けた者が検査又は検定に対して不服があるときは、検査又は検定の結果に関する通知を受けた日の翌日から起算して30日以内に、国土交通大臣に対し、再検査又は再検定を申請することができる(船舶安全法11条1項)。管海官庁の検査又は検定若しくは再検査又は再検査に対して不服があるときは、その取消しの訴え(取消訴訟)を提起することができる(同条2項)。管海官庁の検査又は検定に対して不服がある者は、これらの手段によってのみこれを争うことができるため(同条4項)、行政不服審査法の規定は適用されない[7]。 管海官庁は、定期検査に合格した船舶に対しては、航行区域(漁船については従業制限)、最大搭載人員、制限汽圧及び満載喫水線の位置を定め、船舶検査証書及び船舶検査済票(小型船舶に限る。)を交付しなければならない(船舶安全法9条1項)。船舶検査証書を受有しない船舶を航行の用に供したときは、罰則の対象となる(同法18条1項1号)。船舶検査証書を受有しない船舶を航行の用に供するときは、臨時航行検査を受けて、臨時航行許可証の交付を受けなければならない(同法5条1項4号、9条2項)。 船舶検査証書の有効期間は、5年間である(船舶安全法10条1項本文)。ただし、旅客船を除き、平水区域を航行区域とする船舶又は小型船舶であって国土交通省令で定めるものについては、6年間である(同項ただし書)。 もっとも、次に掲げる場合における船舶検査証書の有効期間は、従前の船舶検査証書の有効期間(2号にあっては、当初の有効期間。)の満了日の翌日から起算して5年を経過する日までとなる(同条4項)。
船舶検査証書は、中間検査、臨時検査又は特別検査に合格しない船舶については、これに合格するまでその効力が停止される(同条5項)。 船級協会の検査を受けて船級の登録をした非旅客船が受有する船舶検査証書は、その船舶が当該船級の登録を抹消され、又は旅客船となったときは、その有効期間が満了する(同条6項)。 船舶の検査に関する事項を記録するため、管海官庁は、最初の定期検査に合格した船舶に対し、船舶検査手帳を交付しなければならない(船舶安全法10条ノ2)。 管海官庁の権限管海官庁は、船舶安全法に基づき、次に掲げる行為をする権限を有する(同法12条)。
船舶乗組員20人未満の船舶にあってはその2分の1以上、その他の船舶にあっては乗組員10人以上が、国土交通省令の定めるところによって、当該船舶の堪航性又は居住設備、衛生設備その他の人命の安全に関する設備について重大な欠陥がある旨を申し立てた場合、管海官庁は、その事実を調査し、必要があると認めるときは、船舶の航行停止その他の処分をしなければならない(船舶安全法13条)。 脚注注釈出典参考文献
関連項目
外部リンク |