炎症炎症(えんしょう、英: Inflammation)とは、生体に対する刺激や侵襲によって生じる局所的反応の一種[1]。 生体が受けるストレス侵襲には微生物感染などの生物学的ストレス、温度変化や打撃などの物理的ストレス、酸やアルカリなどの化学的ストレスがあり、炎症はこれらを受けた組織とストレスとの応答により生じる[2]。炎症部位には発熱、発赤、腫脹、疼痛などを生じる[2]。 歴史的には紀元前3000年頃の古代エジプトのパピルスに既に炎症に関する記述がみられる[3]。 1793年にはスコットランドの外科医ジョン・ハンターが「炎症は病気ではなく非特異的な反応」であるとし、炎症は自己防御反応として位置づけられるようになった[3]。 炎症の徴候生体に、これらの異常が生じると発赤 (ほっせき、redness)、熱感 (heat)、腫脹 (swelling)、疼痛 (pain) を特徴とする徴候が生じる。これを炎症の4徴候(ケルススの4徴候、Celsus tetrad of inflammation)と呼ぶ。さらに組織異常の発生部位によるが、機能障害 (loss of function) をもたらし、これをあわせて、炎症の5徴候(ガレノスの5徴候)と呼ぶ[4][5]。この徴候の詳細を以下にまとめる。
炎症の原因炎症の原因(causes of inflammation)には細胞や組織障害を生じるあらゆるものが含まれる[6]。 具体的な原因(ストレス侵襲)には、細菌、真菌、ウイルス、原虫、寄生虫などの侵入による感染症などによって生じる生物学的因子(生物学的ストレス)、機械的外力などの打撃、電気、紫外線、放射線、高温(熱傷)や低温(凍傷)といった温度変化など一定の物理的刺激によって生じる物理的因子(物理的ストレス)、重金属や有機溶剤による中毒あるいは酸やアルカリによる腐食などで生じる化学的因子(化学的ストレス)がある[2][7]。 炎症を引き起こす物質を起炎物質という[6]。起炎物質には体外から生体内に侵入したもの(外因)と体内で産生されたもの(内因)がある[6]。例えば外傷などで細胞組織が壊死し、遊離した崩壊産物が有害因子として働く場合などである[6]。 なお、抗原抗体反応や液性免疫、細胞性免疫も炎症の原因として分類されることがあり、これらは免疫学的因子と呼ばれることがある[6]。生物学的因子、物理的因子、化学的因子が外因にあたるのに対し、免疫学的因子は内因にあたる[6]。 炎症の種類急性炎症と慢性炎症炎症は経過がすみやかで早期に終息する急性炎症と、長期の組織障害や原因の病原の処理がおそいために4週間以上に長引く慢性炎症に分けられる[7]。 形態学的分類炎症は、細胞や組織の変性・壊死が高度に見られるが滲出や増殖が生じていない変質性炎症(変質性炎)、局所の循環障害や血液成分の滲出を特徴とする滲出性炎症(滲出性炎)、線維芽細胞の増殖を特徴とする増殖性炎症(増殖性炎)に分けられ、特に増殖性炎症(増殖性炎)のうち肉芽腫形成を特徴とするものを特殊性炎(肉芽腫性炎)という[7]。 急性炎症
急性炎症(きゅうせいえんしょう)は生体内に異常が生じた時、その初期、あるいは軽微な異常に対処するために生じる反応である。 局所の組織障害生体が何らかの傷害を受けた場合、通常は体内に存在しない特徴的な物質が放出される。これらの物質をダメージ関連分子パターンと呼ぶ。この分子群には、体外から侵入した微生物に由来する病原体関連分子パターンと、損傷を受けた自己組織に由来するアラーミン (alarmin) が含まれる[9]。 このような傷害に特徴的な物質群が、自然免疫系に属する細胞に多く発現するパターン認識受容体により認識されることにより、炎症を惹起するサイトカインなどが放出される。 このサイトカインなどの作用により、周辺の血管の直径は増し、血管壁の浸透性が高まる。この結果、血液供給量の増加に伴う発赤や熱感、浸透性の増加から来る体液の浸潤に伴う腫脹や疼痛が引き起こされる[10]。 これら、炎症の誘導に関わる分子は炎症メディエーターといい、これらの作用が合わさって炎症反応を引き起こす。 炎症にかかわる物質や仕組み(炎症メディエーター)は、その組織異常の症候に応じて様々な組み合わせで生じるので、血管拡張がわずかなため赤みを帯びない炎症なども生じえる。あるいは発熱を生じるほどでないため、熱をそれほど持たない炎症も存在する。これらの反応が起きると、恒常性は血液循環を制御して、異常部位へのエネルギー供給を増やす[4]。外傷や内傷の場合、周辺組織に攣縮が起きる場合もある。このように症候に応じて反応が起きるが、異常のレベルが高ければ、より複雑かつ多重的になる[4]。 局所の循環障害微小循環領域に急速に出現する急性炎症反応は、微小循環血流の増加、微小循環からの血漿たんぱく質の滲出、微小循環からの白血球の血管外遊走のプロセスからなる[11]。
有害物質の除去と組織の修復壊死細胞は細胞や組織の破壊物に含まれる酵素により分解され、好中球やマクロファージの貪食によって除去される[6]。欠損した組織は線維芽細胞によって作り出される膠原線維で修復され、修復の材料を輸送するための豊富な毛細血管からなる肉芽組織が形成される[7][6]。 急性炎症の転帰急性炎症の転帰は、完全治癒、不完全治癒、慢性炎症への移行に分けることができる[13]。
慢性炎症慢性炎症(まんせいえんしょう)は、急性炎症の症状がやや軽減しながらも治りきらずに持続する場合あるいは発症が潜行性で症状は強く出ないが持続する場合をいう[3]。慢性炎症の症状は数か月から数年に及ぶことがある[3]。 炎症は限局性の生体の防御反応であるが、疾患の原因になることもある[1]。例えば脳内の腫瘍は占拠性病変として脳内の周囲の構造を圧迫損傷することがある[1]。 静かに沈むような軽度の慢性炎症は、ほとんどすべての人に影響を及ぼし、認知症、うつ病、心血管疾患、癌、2型糖尿病、アレルギー、喘息などの症状の原因となる可能性がある。驚くべきことに、世界中の5人に3人が、慢性炎症に関連する病気で亡くなっている。慢性炎症が認知機能低下、脳卒中、認知症(アルツハイマー病を含む)、うつ病につながる可能性がある。慢性的なストレスなどは、慢性炎症の発症を引き起こす[14]。多くの慢性疾患は炎症に関連しており、その炎症を制御することはしばしば治療の重要な部分である。しかし、炎症はほとんどの慢性疾患の直接的な原因ではない。したがって、慢性炎症は一般の人々の想像をはるかに超えているが、それが唯一の死因ではなく、慢性炎症を制御することは他の慢性疾患の排除につながらない。それでも、地中海式食事療法は慢性炎症を軽減するのに役立つ[15]。 主な炎症
出典
参考文献
関連項目外部リンク
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