正義者同盟 (せいぎしゃどうめい、ドイツ語 : Bund der Gerechten [ 5] [ 注 1] )とは、1830年代 半ばにパリ で結成されたドイツ人の共産主義 結社[ 6] ・秘密結社 である[ 4] 。義人同盟 とも[ 6] 。
思想
同盟の目的は「ドイツの再生と解放」[ 5] で、「すべての人は兄弟である」をモットーとした[ 1] [ 2] [ 3] 。『人類、その現状と理想像』および『調和と自由の保障』を綱領文書とし(後述)[ 11] 、基本的な立場は財産共有制を旨とする「手工業者共産主義」である[ 5] 。同盟はフランス社会主義や各派の共産主義 に影響されていた[ 5] 。
ただ、1843年以降はフリードリヒ・エンゲルス やカール・マルクス の活動で、ヴィルヘルム・ヴァイトリングらによる陰謀的な共産主義から科学的共産主義 (英語版 ) へ転換する[ 1] 。
歴史
前史
1834年、テオドール・シュースター (英語版 ) が「追放者同盟 (ドイツ語版 ) 」をパリ で組織する。これはフィリッポ・ブオナローティ の構想であった、平等主義者による国際的な革命的親睦組織「ユニバーサル・デモクラティック・カルボナリ」をモデル化したものである。シュースターは小冊子『Confession of faith of an outlaw 』の中で疎外 された人々が来たるべき革命へ共に結合する構想を、初めて提案している。追放者同盟のメンバーはドイツからの移民で 政治的な亡命者や渡り職人が中心だった[ 4] [ 5] 。
最盛期になると、メンバーはパリで100人、フランクフルト で80人を数えた。この時、シュースターをはじめ他の主要メンバーもドイツ統一 や中産階級 の共和主義者の「ドイツ同盟」への組織化に努力することに焦点を当てていたため、より大衆的な労働者階級 メンバーはヴィルヘルム・ヴァイトリング の指導力のもとに集まった。この共産主義的な思想を持つグループが追放者同盟の分派として1836年に結成したのが、「正義者同盟」である[ 4] 。正確に言えば、追放者同盟が左右両派に分裂したもので[ 5] 、急進的なインテリゲンチャや職人によって構成された左派によって作られた組織である[ 1] 。一方で母体の追放者同盟はメンバーが他の協会を優先したため、1838年には消滅してしまった。
結成後
正義者同盟はフランソワ・ノエル・バブーフ の支持者とされ、主に仕立て屋 や木工 といったドイツのジャーニーマン をメンバーとし、彼らが「新しいエルサレム 」として言及する「平等と正義、隣人への愛の理想に基づく神の王国 の確立」を主張していた[ 3] 。ただ、フリードリヒ・エンゲルス は「それがドイツであることを除いて本質的に他のフランスの秘密結社 に類似している」と軽蔑的に書いた。
当運動で最も著名な指導者だったのはヴィルヘルム・ヴァイトリング である。ヴァイトリングは自身を「社会的ルター 」と宣言し、私有財産とお金を汚職・搾取の原因として非難しており、彼が1838年に著した『人類、その現状と理想像』(Die Menschheit, wie sie ist und wie sie sein sollte )と1842年に著した『調和と自由の保障』(Garantien der Harmonie und Freiheit )は同盟の綱領文書となっていた[ 5] [ 11] 。ヴァイトリングの他に重要なリーダーに含まれていたのはカール・シャッパー 、ブルーノ・バウアー 、ヨーゼフ・モル (英語版 ) 、アウグスト・ヘルマン・エヴェーアベック (英語版 ) らである。
1839年5月12日、フランスのルイ・オーギュスト・ブランキ らによる革命秘密結社・季節社 (フランス語版 ) が権力奪取を目指して武装蜂起を起こす[ 24] 。このブランキ主義者 の反乱に同盟メンバーも多く関与した[ 25] ことで同盟はフランス政府によって追放されてしまい、彼らはロンドンへ移り始めた[ 2] 。1840年、彼らはロンドンに偽装組織「Educational Society of German Workingmen」を設置し、1000人の会員を持つまでに成長した[ 26] 。
1845年、労働者による即刻の蜂起を提唱したヴァイトリングと、特に上述の1839年蜂起を経験した後にそれは時期尚早と見做したシャッパーとの間で重要な公開討論があった。またシャッパーは民衆に革命の準備をさせるべくより長期な大衆教育のキャンペーンを主張する。
カール・マルクス は政治的意見が合わなかったため同盟に入ることに躊躇いをみせていたものの、「組織内メンバーとしてより影響力のあるディベートになるかもしれない」というヨーゼフ・モルに納得した。そして1847年6月にロンドンで開かれた大会において[ 1] 、同盟はエンゲルスがブリュッセル で開設していた[ 28] 「共産主義通信委員会 (ドイツ語版 ) 」(英 : Communist Correspondence Committee )と合併し共産主義者同盟 となる。
脚注
注釈
^ ほとんどの文献ではBund der Gerechten と呼ばれているが、ドイツの歴史家・Waltraud Seidel-Höppnerは新しい記録資料に基づいて、グループ自体はBund der Gerechtigkeit を名称に使っていたと主張している[ 10] 。
出典
参考文献
Billington, J.H. (1980). Fire in the minds of men: origins of the revolutionary faith . Basic Books. https://books.google.com/books?id=gBRmAAAAIAAJ
Birchall, I.H. (1997). The Spectre of Babeuf . Palgrave Macmillan UK. ISBN 978-1-349-25599-3 . https://books.google.com/books?id=DT-wCwAAQBAJ&pg=PA95
Davies, T.R. (2014). NGOs: A New History of Transnational Civil Society . Oxford University Press. ISBN 978-0-19-938753-3 . https://books.google.com/books?id=I8KHCwAAQBAJ&pg=PA31
Day, R.B.; Gaido, D. (2009). Witnesses to Permanent Revolution: The Documentary Record . Historical Materialism Book Series. Brill. ISBN 978-90-04-16770-4 . https://books.google.com/books?id=pV5k-TvbSwQC&pg=PA4
Henderson, W.O. (1976). The Life of Friedrich Engels . Vol. 1 . Cass. ISBN 978-0-7146-4002-0 . https://books.google.com/books?id=4eYXc1B1vPoC&pg=PA90
Hobsbawm, E. J. (2012). “Introduction” . The Communist Manifesto: A Modern Edition . Verso Books. ISBN 978-1-84467-903-4 . https://books.google.com/books?id=fHNHRXXn_04C&pg=PA3
Hobsbawm, E. J. (2011). How to Change the World: Reflections on Marx and Marxism . Ciencias sociales. Yale University Press. ISBN 978-0-300-17825-8 . https://books.google.com/books?id=0QIH2dOXuOcC&pg=PT79
Lattek, C. (2006). Revolutionary Refugees: German Socialism in Britain, 1840–1860 . British Politics and Society Series. Routledge. ISBN 978-0-7146-5100-2 . https://books.google.com/books?id=u7HSJ90M2isC&pg=PA23
Lause, M. A. (2011). A Secret Society History of the Civil War . University of Illinois Press. ISBN 978-0-252-09359-3 . https://books.google.com/books?id=lyKOVZcLLAkC&pg=PA11
Marik, S. (2008). Reinterrogating the Classical Marxist Discourses of Revolutionary Democracy . Aakar Books. ISBN 978-81-89833-34-3 . https://books.google.com/books?id=xYvIbwWnBxAC&pg=PA58
Rothbard, M. (2009). Review of Austrian Economics, Volume 4 . Ludwig von Mises Institute. ISBN 978-1-61016-163-3 . https://books.google.com/books?id=803SdilsIqcC&pg=PA164
Toews, J. (1999). The Communist Manifesto, with Related Documents . The Bedford Series in History and Culture. Bedford/St. Martin's. ISBN 9780312157111 . https://books.google.com/books?id=pjLup4lrJCwC&dq
Vander Hook, S. (2011). Communism . Exploring World Governments. ABDO Publishing Company. ISBN 978-1-61714-789-0 . https://books.google.com/books?id=Tt0rBYKNpMwC&pg=PA16
Wheen, F. (2001). Karl Marx: A Life . Norton. ISBN 978-0-393-32157-9 . https://books.google.com/books?id=3KOyuSakn80C&pg=PA109
関連項目
概念 基礎 種類 国際組織 人物 出来事 関連項目
カテゴリ