安達が原『安達が原』(あだちがはら)は、手塚治虫による日本の短編漫画作品。初出は『週刊少年ジャンプ』(集英社)1971年3月22日号、読み切りとして発表された。総ページ数は59ページ。宇宙の片隅の忘れられた星を舞台としたSF作品だが、能や浄瑠璃の演目にもなっている安達ヶ原の鬼婆伝説(黒塚の伝説)を下敷きにした物語である。 概要読み切り短編の連作シリーズ「ライオンブックス」の中の1編である。「ライオンブックス」はもともと1956年から1957年にかけて集英社の少年誌『おもしろブック』で連載されていたシリーズだったが、それら旧シリーズから十数年後の1971年、同じく集英社の『週刊少年ジャンプ』にて、手塚は改めて「ライオンブックス」と冠したシリーズを開始することになった。そのトップバッターとなったのがこの『安達が原』である。 新シリーズの「ライオンブックス」では、1971年から1973年にかけて合計15編の作品が発表された。その15編のうちの多くが少年向けの作品として分類しうるのに対し、この『安達が原』は、掲載先こそ少年誌だが、扱っている題材、物語のプロットなど、内容的には大人向けに近い作品となっている。 冒頭、「旅のころもはすずかけの 露けきそでやしおるらん」で始まる能の一節が見開きページで登場する。これは能の演目『安達原』の一節を引いている。冒頭だけでなく中盤と最終盤にも一カ所ずつ、『安達原』からの一節が差し挟まれている。手塚の本作『安達が原』では「安達が原につきにけり」で引用が結ばれ、その次のページから本編が始まる。 あらすじ宇宙調査官である主人公ユーケイは、大統領の直命を受け、とある星に降り立つ。その星には一人の魔女が住んでおり、近くを通りかかる宇宙船をおびきよせては乗組員を殺し、物資や食糧を奪っているという。ユーケイに与えられた任務は、証拠を押さえてその魔女を始末すること。宇宙船の残骸が墓標のように立ち並ぶ荒野を抜け、ユーケイは岩山をくりぬいて作られた魔女のすみかに辿りつく。 岩山のすみかには白髪の老婆が住んでおり、訪れたユーケイを招き入れ、彼に手料理を振る舞う。長旅の疲れを癒せ、とユーケイに寝室をあてがう老婆。その夜、ユーケイは寝室を抜け出して家の中を調べ、地下室に大量の人骨が打ち捨てられているのを発見する。しかもそれらの人骨はミイラから自然に白骨になったのではなく、肉を剥ぎ取られた跡があった。 そのとき地下室の入口に老婆が現れ、なぜ地下室を見たのだ、とユーケイを咎める。自分はユーケイを殺すつもりはなかったのに、食事を振る舞い寝床まで用意したのに、なぜ開けてはならない地下室を開けたのか、と。ユーケイは自分の身分を明かし、大統領の命でおまえを殺すためにこの星に来たのだと告げる。そして、ここにある死骸の屍肉を喰らったのかと老婆に詰め寄る。老婆は逃走し反撃するも、追い詰められ銃口を突きつけられる。観念した老婆はユーケイに、死に土産にユーケイの身の上を聞かせてくれと懇願する。どうしてもと乞われ、ユーケイは自らの過去を話し始める。そしてその中で、ある意外な事実が明らかになるのだった。 登場人物
その他、脇役としてダモクレス大統領役にロンメルがキャスティングされている(スター・システム)。 黒塚との比較もともとの黒塚伝説と本作を比較すると、物語の骨格には手塚による脚色が認められる。最も大きく異なるのは、再会を果たす人物(の片方)が異なる点である。
黒塚伝説では鬼婆と再会するのは鬼婆の実娘だが、本作には実娘に相当する人物は登場せず、かわりにユーケイが鬼婆と再会する筋になっている。したがってアンニーとユーケイの過去を振り返る回想は原典には無い手塚の創作であり、さらに物語の最終盤の、アンニーが作り残した手料理をユーケイが口にするシーンも手塚による創作である。 単行本
アニメ本作は手塚の死後、1991年にアニメ化されている。本編25分の短編で、1991年11月16日に単館公開された後、1997年にVHSで発売された(『緑の猫』と『るんは風の中』を併録、ASIN B00005H583)。2003年にはDVD版も発売されている(『悪右衛門』併録、ASIN B00008CH5C)。 アニメ版のユーケイは原作版に比べやや大人びたキャラクターに変更されている。これは監督・絵コンテ・原画を担当した坂口尚の手によるもの。なお、坂口は1995年に急死したため、結果的に本作が生前最後に手掛けたアニメ作品となった。 キャストスタッフ
外部リンク
関連項目 |