地方卸売市場(ちほうおろしうりしじょう)は、日本において、卸売市場法第4章の規定に基づいて各都道府県知事の認定により設置される卸売市場である。
概要
卸売市場法において、
「地方卸売市場」とは、
中央卸売市場以外の卸売市場で、その施設が政令で定める規模以上のものをいう。」
—卸売市場法第一条総則
と定義されている[1]。
かつて中央卸売市場が国(農林水産大臣)の認可により都道府県や人口20万人以上の市町村等を開設者として設置されるのに対して、地方卸売市場は市町村や第3セクター、民営企業等を開設者として都道府県の認可により設置されていた(認可については各都道府県が別途条例で定めている【例. 東京都地方卸売市場条例[2]】)。2020年(令和2年)の卸売市場法改正により、中央卸売市場の「認可」はよりメリット主義的な「認定」に変更され、また開設区域の人口に関する規定は削除された一方、施設規模の基準として卸売場、仲卸売場及び倉庫(冷蔵又は冷凍で保管するものを含む。)の面積の合計が当該各号に定める面積以上であることを求められるようになった[3]。
地方卸売市場のなかには、卸売会社が自ら開設しているものも含まれている。
なお、都道府県によっては、中央卸売市場、地方卸売市場のほかに「その他卸売市場」(あるいは「その他の市場」)という区分を設けている場合がある。前述の「政令で定める規模」未満の卸売市場のことだが、呼称やその制度上の取扱は様々であり、福島県の場合を例にとると、県知事への登録を受けて開設される[4]。
全国の卸売市場は中央卸売市場が65市場に対して地方卸売市場が905市場ある[注釈 1]。
中央卸売市場がすべて消費地市場なのに対して地方卸売市場は人口の集中する地域に立地する消費地市場と産地市場(漁港市場など)に大別される。
全国の中央卸売市場と地方卸売市場[注釈 1]
市場の区分
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中央卸売市場
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地方卸売市場
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その他の卸売市場
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認定者
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国(農林水産大臣)
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都道府県
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都道府県により異なる(認定が不要な場合もある)
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開設者
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都道府県又は人口20万人以上の市町村[注釈 2]
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地方自治体のほか民間企業や協同組合、第三セクターも可
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都道府県により異なる(法令上の定めなし)
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卸売会社
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民間の卸売企業[注釈 3]
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施設規模
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省令で定める基準[3] (青果)10,000㎡ (水産)10,000㎡ (肉類)1,500㎡ (花き)1,500㎡ (前各号に掲げる生鮮食料品等以外の生鮮食料品等)1,500㎡
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規定を撤廃 (2020年以前は青果330㎡以上、 水産200㎡(産地市場は330㎡)、 肉類150㎡、花卉200㎡[7])
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中央卸売市場・地方卸売市場の規定規模未満の市場
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市場の数
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65
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905
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データなし
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卸売業者の数
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155
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1,072
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仲卸業者の数
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2,828
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2,371
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売買参加者の数
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20,578
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83,271
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名称の制限
卸売市場法第13条第1項は、卸売市場であって、同条第5項各号に掲げる要件に適合しているものは、当該卸売市場の所在地を管轄する都道府県知事の認定を受けて「地方卸売市場」と称することができるとする[1]。一方、同条第7項は「第一項の認定を受けた卸売市場でないものは、地方卸売市場又はこれに紛らわしい名称を称してはならない。」と定めている[1]。卸売市場法第13条第7項に違反して地方卸売市場又はこれらに紛らわしい名称を称した者は30万円以下の罰金に処せられる(卸売市場法第18条第1号)[1]。
主な地方卸売市場
かつて存在した地方卸売市場
- 松戸市公設地方卸売市場北部市場(千葉県松戸市) - 土地を民間事業者が所有し、市に賃貸したうえで市が開設する全国でも珍しい「民設公営」市場であったが施設および地盤が老朽化し2017年(平成29年)3月31日をもって閉場。卸売会社の東京シティ青果(株)千葉支社や仲卸業者らが近隣の柏市公設綜合地方卸売市場に移転し、卸売機能は同市場および松戸市南部市場に引き継がれた。なお、跡地は再開発され2019年(令和元年)に複合商業施設「テラスモール松戸」が開場した。
- 師崎水産物地方卸売市場(師崎漁港市場、愛知県南知多町) - 師崎漁業協同組合が開設および卸売を行っていた。卸売市場法の定める卸売を取りやめ、2020年(令和2年)の市場法改正に際して県による地方卸売市場の再認定を受けなかった[22]。現在は「師崎漁港朝市」と称する朝市を開催しているほか、近隣実需者への広義の「卸売」は引き続き行っており、市場機能そのものは存続している。
- 山口県農業協同組合 安岡地方卸売市場[注釈 43](山口県下関市) - 2023年3月31日閉鎖[23]。
- 中津大同青果(地方卸売市場中津大同青果(株)、大分県中津市) - 開設者で卸売業者の中津大同青果株式会社が2023年(令和5年)3月までで廃業・認定廃止[24]。
脚注
注釈
- ^ a b 中央市場数は2023年(令和5年)10月末時点、中央市場の卸売業者数は2022年(令和4年)度末時点、中央市場の他の業者数および地方市場のデータは令和3年度末時点[5]
- ^ 2020年の卸売市場法の改正により民間企業でも中央卸売市場が開設できるようになったが、2024年3月末現在までに実際に民間企業が開設した卸売市場が中央卸売市場として認定された例はない[6]
- ^ 一部の例で卸売業務を協同組合などが担う場合もある
- ^ (株)キョクイチの持株会社
- ^ キョクイチグループ傘下の(株)マルキタが2021年に(株)キョクイチに合併し、社内事業部に移行。
- ^ 2020年までは「地方卸売市場弘果弘前中央青果」
- ^ 越谷市および周辺自治体・埼玉県などが出資
- ^ 東京千住青果(株)グループ会社
- ^ 2023年1月に千葉中央魚類(株)が撤退・解散し、卸1社制に移行
- ^ a b 地方卸売市場としての認定名称は「松戸市公設地方卸売市場南部市場」。現在は市場敷地に公設地方卸売市場と公的認可に拠らない民営市場部分が混在しているため一般に対しては施設全体の呼称として松戸市綜合卸売市場の名称を用いている
- ^ 現在の松戸市公設地方卸売市場としての取扱品目は青果のみだが、水産物部の取扱卸売業者・仲卸業者も営業を続けている
- ^ 同一敷地内の花き市場が認定市場名称を「松戸市花卉地方卸売市場」、開設者を「いちごマルシェ(株)」、卸売業者を「(株)京葉園芸市場」として別途認可を受けていたことがあるが、現在は卸売市場としての営業を休止し地方卸売市場ではなくなっている。[9]
- ^ 2018年に市川市より民営化。(株)市川市場は市場卸売業者や市場内事業者らで出資して設立した会社
- ^ (株)フラワーオークションジャパン(大田市場) 子会社
- ^ 豊洲市場の東京シティ青果とおなじ東京中央青果グループ(神明ホールディングス傘下)
- ^ 東京都の認可による市場名。一般には卸売会社名である「多摩青果」「多摩青果市場」が市場名として通用している。
- ^ 1946年(昭和21年)6月東京都中央卸売市場淀橋分場練馬配給所として開設、その後練馬分場と改称したが平成13年に民間企業が開設する地方卸売市場に転換した[10]
- ^ 開設者の東京新宿青果は卸売業者である東京新宿ベジフルの親会社である
- ^ 横浜南部市場はかつては中央卸売市場(横浜市中央卸売市場南部市場)であったが2015年に閉場。民営転換した際に花き部が地方卸売市場に転換して新規設立された。
- ^ その他、関連事業者が食肉および花きの取扱を行っている。
- ^ 長野市及び卸売事業者らが出資をしている
- ^ a b 2022年4月に(株)長印と長野県連合青果(株)が合併
- ^ 2025年3月末で廃止[13]
- ^ 2023年7月に親会社であるR&Cながの青果より事業譲渡
- ^ 旧称・上田連合地方卸売市場
- ^ 旧・佐久連合地方卸売市場と旧・佐久長印地方卸売市場が市場開設者の合併に伴い統合[14][15]
- ^ 旧称・中野長印地方卸売市場
- ^ 旧称・長印須坂地方卸売市場
- ^ 津島市および近隣市町村と卸売業者が出資する第3セクターとして開場したが、2023年に名古屋青果が全株式を取得し民営化。
- ^ a b 青果卸売業者の(株)南大果が2021年10月末までで営業を終了。大阪府が認定する地方卸売市場としての取扱品目は水産のみとなった[18]。市場内には従来からの青果仲卸業者も入居しており営業を続けている。
- ^ 同市場では2017年9月に水産物部卸売会社の神港魚類株式会社尼崎支社が卸売業務から撤退。以降、市が直接卸売業務を代行し、仲卸業者の組合である「尼崎水産物卸協同組合」に業務を委託してきた
- ^ 水産・青果の卸売市場である岡山市中央卸売市場と同一敷地内に併設され、一体で管理運営されている。開設者である岡山市の紹介ページでは「岡山市中央(地方)卸売市場」などの語が用いられる。
- ^ 開設者・卸売会社である山口青果卸売市場が市場通称としても通用している
- ^ 山口県農業協同組合連結子会社
- ^ かつての下関市中央卸売市場
- ^ 通称として「JA山口県 南すおう青果市場」を称している。
- ^ 県資料では南すおう・長門両市場の取扱品目は「野菜・果実」[21]
- ^ 通称として「JA山口県 長門地方卸売市場」を称している。
- ^ 2020年に愛媛県漁業協同組合連合会が開設する市場として認定。同年新設された愛媛県漁業協同組合が事業を継承
- ^ 2014年に水産物部のみ地方卸売市場に移行、青果部は現在でも中央卸売市場(「高知市中央卸売市場」)。水産と青果を併せた市場全体を呼称する際は「高知市卸売市場」。
- ^ 県・糸満市および漁業団体らが出資
- ^ JF沖縄県漁連とJF糸満漁協が設立
- ^ 通称「JA山口県 安岡青果市場」
出典
関連項目
外部リンク