地域地域(ちいき、英語: region)とは、地形が似通っている、同じ性質をもっているなどの理由からひとまとめにされる土地のこと。 地理学における定義地理学、特に場所ごとの差異を解明しようとする人文地理学や地誌学において、「地域」とは大変重要な概念である。 日本の地理学界で権威があるとされる二宮書店刊行の『地理学辞典』(1973年発行)には以下のような説明がある。
(後略) しかし、この説明がすべての地理学者に受け入れられているわけではなく、1950年代から1960年代にかけては、アメリカやイギリスを中心として、「地域」を中核に据える「伝統地理学」(Traditional Geography)に対する批判が起こった[1]。これを受けて、朝倉書店刊行の『オックスフォード地理学辞典』(2003年発行)では、
と、地理学における地域の重要性には言及していない。 地域論「地域とは何か」という課題については、国によって認識が異なる。以下に、主要な議論を記す。 ドイツの地域論ドイツでは、地理学者のカロル(H. Carol)の地域(Landschaft)論が知られている。カロルによると地域とは「さまざまな要素からなる複合体」であるという[2]。この「要素」とは地表圏(Geosphäre)を構成する気圏・生物圏・人類圏・水圏・岩圏を指し、「地域」は地表圏の一部分である。 言い換えるならば、「具体的な、現実の、事物によって満たされた地表の一部分」[3]が地域である。これには自然現象・人文現象共に含まれる。当時のドイツでは、ヴァルター・クリスタラーの中心地理論の理解が進み、人間や社会と空間との関係を機能を通して研究しようとする動きが盛んであり、これがLandschaft論に取り入れられたと指摘されている[4]。 アメリカ・イギリスの地域論アメリカの地理学者ダウエント・ホイットルセーの説が有名である。ホイットルセーによると地域とは「何らかの意味での一体性をもつ地表の広がり(範囲)」であるという[2]。 具体的には、複数の共通点を持ち、周辺とは区別されうる地表の一部分が地域である。ホイットルセーは更に地域を以下の3つに分類した。
なお、地域を1本の直線で分けることは難しく、一般的には漸移帯(transitional zone)が存在する[6]。 しかし、ホイットルセーは以上のような定義は、地域を区画する以上、何らかの基準があるため、 地域を任意に切り取られた地表の1区画が含まれることを免れないとしている[5]。このため、「地域は虚構(フィクション)である」とする主張もなされる[5]。 日本における地域論日本においては、上記のドイツのLandschaft論と英米のRegion論の双方が受容され、学者によって見解が異なるが、同じ「地域」という語を用いている。以下に主要な主張を示す。 水津一朗の説Landschaft論に近い学者として、京都大学文学部教授や奈良大学学長などを務めた水津一朗がいる。水津は著書『地域の構造-行動空間の表層と深層-』においてドイツのヴィンクラー(E. Winkler)の地理学的方法論に関する15の命題を以下の3つに整理した上で、数学的に説明した[7]。
水津はこれらの3つの関係を「Eの部分集合がRmであり、Rmの元(要素)がeである」とした。つまり、数学的に記述すると
となる。 木内信蔵の説一方region論に近い学者として、東京大学教養学部教授の木内信蔵が挙げられる。木内は『地域概論-その理論と応用-』において、region(リジォン[注釈 1])の説明とともに、地域の属性[注釈 2](形式的な性格[注釈 1])を次のように示している[9]。
この中で重要なのは2番目と4番目であり、言い換えれば「何らかの意味で一体性をもつ(まとまりがある)」[10]ということになる。これは、一般用語の地域と区別して「地理的地域」とも表現する[10]。 木内は『地域概論』の中でLandschaftにも触れているが、そこではLandschaftを「景観」と訳している[11]。 地域の類型地域の概念には、いくつかの分類方法が知られている。先に挙げたホイットルセーの地域分類もその一つである。以下に地域の概念の代表的な例を示す。 個別地域と類型地域個別地域(こべつちいき、英語: specific region)は、世界にただ1つしか存在しない地域であり、具体的な地名をもって呼ばれる空間である。一方、類型地域(るいけいちいき、英語: generic region)は世界に同様の性格を有する空間がいくつか存在する。例えば、「日本で人口密度が高い地域はどこか」という問いに対し、「東京・大阪・名古屋周辺」と答えることも「平野が広がるところ」と答えることも可能である。この際、前者が個別地域、後者が類型地域となる。 実質地域と形式地域日本で発達した概念であり、適切な訳語がない[注釈 3]。木内信蔵が「地域は本来,地的内容をもつ実質的な存在であり,地域は内容にしたがって合理的に規定される」と主張したものが定義の基となっている。すなわち、内容をもつものが実質地域、もたざるものが形式地域である。例を挙げれば、小学校の通学区が実質地域、経線と緯線で区切られた空間が形式地域である。 ただし、実質と形式の区別は大変曖昧であり、先の例でも通学区は小学校への通学以外には無意味な地域区分であるから形式地域、経線・緯線が国境として機能しているところでは実質地域、と解釈することもできる。 このため、現状ではこの分類に大きな意義はないとされる[13]。 なお、実質地域を既存の物理的・客観的な単位としてみるときの地域概念(後述の等質地域や機能地域・結節地域のような分類を含む概念)と捉え、後述の認知地域や活動地域に対する概念として用いられることもある[14]。 等質地域と機能地域地域概念の中で最も重要な類型である[12]。 認知地域実質地域を既存の物理的・客観的な単位として定義した場合に、これに対して自宅や職場など個人や社会集団の主観的で構造的なまとまりを認知地域という[15]。認知地域には地域アイデンティティや地域観などがみられる[15]。 活動地域実質地域を既存の物理的・客観的な単位として定義した場合に、これに対して既存の構造ではなく新たな都市計画や市場開拓の際の対象として捉えられる地域を活動地域という[16]。活動地域は一定範囲の社会や集団を組織化する側面がある[16]。 全域と基域木内信蔵が地域の属性として挙げた第5番目の「より大なる地域の部分である」の「より大なる地域」が全域(ぜんいき)、「部分」が基域(きいき)に当たる。つまり、基域の集合体が全域である。 例えば、四国は日本全体から見れば一部分であるから、日本は全域、四国は基域である。また見方を変えて、四国を全域と考えれば、香川県は基域である。更に香川県を全域とすると、高松市は基域である。 政治学・経済学における定義政治学や経済学においても「地域」の語は用いられるが、地理学ほど地域そのものについて議論されることは少なく、政治学や経済学の辞典では、地域から始まる用語は掲載されていても、「地域」という項目がないものも多い[注釈 4]。 政治学における定義政治学及び地域研究においては、ジュリアン・スチュワードの「世界地域」の説明が「地域」の定義として受容、定着している[17]。スチュワード自身は、以下の5つをすべて「地域」として捉えた[17]。
これに対する批判としては、「世界地域」の概念によって地域研究が政策科学の性格を帯びるようになったこと、きわめて恣意的なくくり方をした人為的区画をもって「地域」と称することができる面があること、が挙げられる[18]。 また、スチュワードが主張した「特定地方」に相当する、国民国家の内部の部分領域を「地域社会」とする用法もある[19]。 経済学における定義経済学で用いられる「地域」の語は、理論的文脈では往々にして不明瞭に扱われ、実証的分析では定義が厳密ではない[20]。このため、取り扱うテーマやデータの利用可能性に合わせて意味合いの変化する概念である[20]。『マグローヒル現代経済学辞典』では、地域(Region)について以下のような説明がなされている[21]。
(後略) 経済学における地域は、一般に資本や労働の移動の制約が小さく、移動可能性の高いものとして捉えられる[20][22]。ゆえに、現代は移動可能性が高まっていることから『マグローヒル現代経済学辞典』の定義を超えて、宇宙や地球も地域であると考えられる[22]。また、人類の歴史をたどれば、地域は都市と農村という2つの定住形態からなり、国家が消滅しても存続する概念である[23]。 上記のように、国家の枠を超越した大規模な空間を地域として捉える一方で国家の内部の狭い空間を地域として捉えることもある[23]。よって、地域経済学に関する文献では、地域がさまざまな範囲を指す言葉であることを示した上で、国家の内部の狭い空間を対象とする旨を述べたものもある[24]。 言語学における「地域」言語学において、地理的に近接した言語同士は、しばしば一群の音韻的・文法的特徴を共有していることが知られており、そのような地域特徴により規定される言語群は「言語連合 (独: Sprachbund)」ないし「言語領域」(英: linguistic area) と呼ばれる[25]。言語連合の範囲は、行政上の地方区分や、自然的・歴史的・文化的な観点から行われた地域区分と一致するとは限らない。例えば、バルカン言語連合の分布地域は、歴史的・文化的な「バルカン」と概ね一致している一方、大陸部東南アジア言語連合は、通常東南アジアの一部とは見做されない地域の言語、すなわち北方官話を始めとする中国語の諸方言が含まれる[26]。 脚注注釈出典
参考文献
関連項目
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