フランケンシュタイン『フランケンシュタイン』(Frankenstein)は、イギリスの小説家、メアリー・シェリーが1818年3月11日に匿名で出版したゴシック小説。原題は『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』(Frankenstein: or The Modern Prometheus)[注釈 1]。フランケンシュタインは同書の主人公であるスイス人科学者の姓である[注釈 2]。今日出回っているものは、1831年の改訂版である。多くの映像化作品が作られ、本書を原案とする創作は現在も作り続けられている。 物語誕生の前にシェリーは1814年にヨーロッパ大陸を訪れており、ライン川に沿っても旅行して、フランケンシュタイン城から17キロメートルしか離れていないゲルンスハイムにも立ち寄っている[1]。後に、彼女はジュネーヴをも訪れている。 物語の誕生経緯→「ディオダティ荘の怪奇談義」も参照
1816年5月、メアリーは後に夫となる詩人のパーシー・ビッシュ・シェリーと駆け落ちし、バイロンやその専属医のジョン・ポリドリらと、スイス・ジュネーヴ近郊のレマン湖畔にあるディオダティ荘に滞在していた。長く降り続く雨のため屋内に閉じこめられていた折、バイロンは「皆でひとつずつ怪奇譚を書こう (We will each write a ghost story.)」と提案した。メアリーはこの時の着想を膨らませ1816年頃に執筆開始、1818年3月11日に匿名で出版した。 ジャンル分類ゴシック小説の代表であるが、同時にロマン主義の小説とする見方もある[2]。書簡体小説の形式もとる。科学技術を背景とする着想が見られることから、最初のSF小説とする評価も生まれた。 ストーリー小説は、イギリス人の北極探検隊の隊長ロバート・ウォルトンが姉マーガレットに向けて書いた手紙という形式(枠物語)になっている。ウォルトンはロシアのアルハンゲリスクから北極点に向かう途中、北極海で衰弱した男性を見つけ、助ける。彼の名はヴィクター・フランケンシュタインであり、ウォルトンに自らの体験を語り始める。 スイスの名家出身でナポリ生まれの青年フランケンシュタインは、父母と弟ウィリアムとジュネーヴに住んでいた。両親はイタリア旅行中に貧しい家で養女のエリザベスを見て、自分たちの養女にし、ヴィクターたちと一緒に育てる。フランケンシュタインは科学者を志し、故郷を離れてドイツ・バイエルンの名門のインゴルシュタット大学で自然科学を学んでいた。だが、ある時を境にフランケンシュタインは、生命の謎を解き明かし自在に操ろうという野心にとりつかれる。そして、狂気をはらんだ研究の末、「理想の人間」の設計図を完成させ、それが神に背く行為であると自覚しながらも計画を実行に移す。自ら墓を暴き人間の死体を手に入れ、それをつなぎ合わせることで11月のわびしい夜に怪物の創造に成功した。 誕生した怪物は、優れた体力と人間の心、そして知性を持ち合わせていたが、細部までには再生できておらずに、筆舌に尽くしがたいほど容貌が醜いものとなった。そのあまりのおぞましさにフランケンシュタインは絶望し、怪物を残したまま故郷のジュネーヴへと逃亡する。しかし、怪物は強靭な肉体のために生き延び、野山を越え、途中「神の業(Godlike science)」 である言語も習得して雄弁になる。やがて遠く離れたフランケンシュタインの元へたどり着くが、自分の醜さゆえ人間たちからは忌み嫌われ迫害されたので、ついに弟のウィリアムを怪物が殺し、その殺人犯として家政婦のジュスティーヌも絞首刑になる。 孤独のなか自己の存在に悩む怪物は、フランケンシュタインに対して、自分の伴侶となり得る異性の怪物を一人造るように要求する。怪物はこの願いを叶えてくれれば二度と人前に現れないと約束する。フランケンシュタインはストラスブルクやマインツを経て、友人のクラーヴァルに付き添われてイギリスを旅行し、ロンドンを経てスコットランドのオークニー諸島の人里離れた小屋で、もうひとりの人造人間を作る機器を備えて作り出す作業に取りかかる。 しかし、さらなる怪物の増加を恐れたフランケンシュタインはもう一人を作るのを止め、怪物の要求を拒否し(フランケンシュタイン・コンプレックス)、機器を海へ投げ捨てる。クラーヴァルは怪物に殺されてしまい、フランケンシュタインの方は海からアイルランド人の村に漂着するも、クラーヴァルを殺した犯人と間違えられて牢獄に入れられる。 この疑いが晴れて、彼は故郷のジュネーヴに戻り、父の配慮で養女として一緒に育てられたエリザベスと結婚するが、その夜、怪物が現れて彼女は殺される。創造主たる人間に絶望した怪物は、復讐のためフランケンシュタインの友人や妻を次々と殺害したということになる。そして、憎悪に駆られたフランケンシュタインは怪物を追跡し、北極海までたどり着くが途中で倒れ、ウォルトンの船に拾われたのだった。 全てを語り終えたフランケンシュタインは、怪物を殺すようにとウォルトンに頼み、船上で息を引き取る。また、ウォルトンは船員たちの安全を考慮し、北極点到達を諦め、帰路につく。そして、創造主から名も与えられなかった怪物は、創造主の遺体の前に現れ、その死を嘆く。そこに現れたウォルトンに自分の心情を語った後、北極点で自ら焼け死ぬために北極海へと消える。怪物のその後は誰も知らない。 慣用英語においては、「フランケンシュタイン」は「自ら創造したものに滅ぼされる者」「自ら撒いてしまった呪い(または災い)の種」といった意味の慣用句としても使われている。 後世の創作での変容→「フランケンシュタインの怪物」も参照
本作の怪物には固有名詞がなく、また主人公ヴィクター・フランケンシュタインは一介の大学生で博士号は持たない。元来この怪物は極めて知的で、たった数か月で複数の言語を独学でマスターするほどであった。しかし後世の映像化・創作・パロディ作品では、主人公が博士であったり、怪物の知性が低い、あるいは生まれつき凶暴とするなど、原作とはかけ離れた翻案がなされている例が多い。特に、1931年にユニバーサル・ピクチャーズが製作した映画『フランケンシュタイン』において描かれた怪物は、いかつい不気味な大男で、全身の皮膚に人造人間であることを意味する縫い目があり、特徴的な四角形の頭部[注釈 3]といったビジュアルであった。これが後世に典型的イメージとして広く定着し、また本来は「フランケンシュタインによる怪物」であるはずが、いつのまにか怪物自身を指して「フランケンシュタイン」と呼称されるようになった。しかし、これはあきらかな間違いである。作者はこの作品が舞台化された際の台本を見たときに、『怪物』の名前が____(アンダーバー)だった事を喜んだ記録が残っている。名前がない事にこだわっていた証拠である。 派生作品文献
日本語訳
関連文献
関連項目
脚注注釈出典
外部リンク
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