Cdc25 は、細胞周期 に欠陥を有する変異体として分裂酵母 Schizosaccharomyces pombe から最初に単離された二重特異性ホスファターゼ である[ 1] 。Cdc2 やCdc4などの他の細胞周期関連タンパク質や遺伝子と同様、"cdc"は"c ell d ivision c ycle"を意味している。このホスファターゼはプロテインチロシンホスファターゼ のサブクラスを構成するとみなされている。Cdc25は標的となるサイクリン依存性キナーゼ (Cdk)から阻害的なリン酸基 を除去することで[ 2] 、M期 やS期 など細胞周期のさまざまな段階への移行と通過を制御する。
Cdk1の活性化機能
Cdc25は、Cdkの活性部位の残基からリン酸基を除去することでCdkを活性化する。また、M-Cdk(Cdk1 とサイクリンB の複合体)によるリン酸化 はCdc25を活性化する。Cdc25はWee1 とともに、M-Cdkのスイッチ様の挙動を可能にする。こうしたスイッチ様の挙動によって、M期への迅速かつ不可逆的な移行が強制される。ヒトではCdc25ファミリーの酵素CDC25A (英語版 ) 、CDC25B (英語版 ) 、CDC25C (英語版 ) がG1 期 からS期への移行やG2 期 からM期への移行を制御することが知られている[ 3] 。
構造
Cdc25の構造は2つの主要な領域に分けられる。N末端 領域は多様性が高く、リン酸化とユビキチン化 の部位が存在し、ホスファターゼ活性を調節する。C末端 領域は相同性が高く、触媒部位が存在する[ 4] [ 5] 。
進化と種分布
Cdc25は進化の過程でよく保存されており、酵母 などの菌類 から、ヒトを含む、これまで研究が行われた全ての後生動物 で単離されている[ 6] 。一方、真核生物 の中でも植物 は例外である可能性がある。植物のCdc25と推定されるタンパク質は、触媒にカチオン を利用することなど、二重特異性ホスファターゼ (英語版 ) よりもセリン/スレオニンホスファターゼに近い特徴を持ち、他の生物のCdc25ホスファターゼと同様の機能を有しているかに関しては疑問が呈されている[ 7] 。
Cdc25ファミリーは、高等動物の細胞周期や生活環の複雑性と関連して拡大しているようである。酵母は1つのCdc25(と遠い関係にあるIbp1 [Itsy-bitsy phosphatase 1])を持つ。キイロショウジョウバエ Drosophila melanogaster は、それぞれ有糸分裂 と減数分裂 を制御するstring とtwine と呼ばれる2つのCdc25を持つ[ 8] [ 9] 。他の大部分のモデル生物 は、Cdc25A、Cdc25B、Cdc25Cと呼ばれる3つのCdc25を持つ。例外的に線虫Caenorhabditis elegans は、4つのCdc25(Cdc-25.1からCdc-25.4)を持つ[ 10] 。
ノックアウトマウス
Cdc25の高度な保存性は細胞生理における重要性を示唆しているが、Cdc25BとCdc25Cのノックアウトマウス は(各々の変異体と二重変異体の双方が)生存可能であり、細胞周期に大きな変化は見られない[ 11] 。このことは他のCdk調節酵素(Wee1やMyt1 など)やCdc25Aの活性が機能的な補償を行っていることを示唆している。一方で、Cdc25Aのノックアウトマウスは致死となる[ 12] 。
ヒトの疾患において
Cdc25をコードする遺伝子 、特にCDC25A とCDC25B はヒトのがん原遺伝子 であり、多数のがん で過剰発現していることが示されている[ 13] 。細胞周期においてCdc25が果たす中心的な役割は、新たな化学療法 (抗がん剤 )の標的として製薬業界から大きな注目を集めている[ 4] 。しかしながら現時点では、これらの酵素を標的とした臨床使用が可能な化合物は報告されていない。
活性部位に結合する強力な低分子Cdc25阻害剤は、天然物、親油性の酸、キノノイド、求電子剤 、スルホニル化アミノチアゾール、リン酸生物学的等価体 (英語版 ) など、さまざまな分類のものが多数同定されている[ 4] [ 14] 。タンパク質基質との配列相同性に基づいたペプチド由来の阻害剤の開発も可能であるが、こうした化合物は適切なADME 特性を持たないため、医薬品としての利用には困難を伴う[ 4] [ 14] 。
出典
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関連項目
外部リンク
遺伝子