高規格堤防高規格堤防(こうきかくていぼう)は、河川堤防の高さに対して堤体の幅を長くしなだらかに堤防を整備する事業。スーパー堤防とも称される。首都圏では国土交通省事業と東京都事業とに分かれる[注釈 1]。 概要越水しても崩壊し決壊しないよう、裏法面を3%以内の緩やかな勾配としたものを高規格堤防という[1]。堤防高を越えても緩やかに流下するため、被害を最小限に抑える効果がある。 高規格堤防はさらには水害に強いというだけでなく、景観に恵まれるとし、また隅田川にあるカミソリの刃のように直立して建てられた堤防では結果として水辺から人々を遠ざけているが、スーパー堤防は背後地と堤防の一体化で河川に親しめるように築かれていることで環境も大幅に改善されており、治水・環境・景観等の観点からも、高規格堤防・スーパー堤防が最終的な堤防であるとの認識がある[2][3][4][5]。 なお、大阪市内を流れる木津川沿いに遊歩道整備を進めている「木津川遊歩空間整備事業」のトコトコダンダンにおいても、「小さなスーパー堤防“風”」に盛土をスロープ状にするなどの施しで、水とまちを面的につなぐやわらかな境界としてかわとまちを一体化するという水辺のありかたを実現している[6]。 1987年(昭和62年)に建設省(現国土交通省)が事業として始め、利根川、江戸川、荒川、多摩川、淀川、大和川の5水系6河川区間約873 kmの整備を対象とした[7]。第一号として利根川沿いの千葉県印旛郡栄町矢口が完成した。 その後事業見直しが行われ、荒川下流部、多摩川下流部、江戸川下流部、淀川下流部、大和川下流部の約120 kmを整備する計画に変更された。なお、利根川江戸川部分のかつて整備範囲だった堤防では「首都圏氾濫区域堤防強化対策」として、通常堤防の強化が工事が続けられている。荒川中流部では、堤防の幅を拡幅する「さいたま築堤」と荒川第二・第三調節池の整備が行われている。 また国の整備事業では、後述する実施地区の通り、緊急時に復旧活動を実施する拠点となる河川防災ステーションとして整備している箇所もある[8]。 沿革
実施地区国直轄河川
東京都管轄河川東京都では隅田川、中川、旧江戸川、新中川、綾瀬川でも高規格堤防整備を行っている。国の事業とは異なり、堤防の幅は最大50 mに抑えられている。国の事業開始より2年前の1985年(昭和60年)度より行われている。
課題高規格堤防が抱える課題として、工事期間の長さと莫大な費用がかかることが挙げられる。 高規格堤防整備事業は、予算執行調査等において22年4月の時点で事業着手から24年が経過し、22年度当初予算までの累計事業費は6943億円。要整備区間延長872.6 kmに対して整備延長は50.8 kmで整備率は5.8%である。このままのペースで進むと仮定して単純計算すると、完成までに400年、累計事業費約12兆円を要するとされている。普及率が低い場合、堤防というインフラの性質上、高規格堤防と従来の堤防を混合して運用すると従来型の方に水が流れ被害が発生するので、一部だけ高規格堤防が存在しても効果は薄い[40]。 ダムや高規格堤防を主体とした治水事業よりアーマー・レビー工法やインプラント堤防[41]を中心とした治水事業のほうが時間も費用もかなり節約できるとしている。だがいずれも国交省が後ろ向きだという[42]。 止水シートとアスファルトで堤防全体を覆い越水と浸透を防ぐアーマー・レビー工法については、加古川など試験的に施工されているところもあるが、被覆するために堤防内部の土砂流出の有無が確認できない等の課題があり、まだ研究段階で技術が確立されていないのが現状である[43]。 インプラント堤防は地中に鋼矢板や鋼管杭など剛性の高い許容構造部分を地中に連続して打ち込んだ堤防である。海外での施工事例は多いものの、日本では国交省所管の河川堤防では「土堤原則」を理由にインプラント工法は採用されていない[44]。 なお、国交省は堤防補強に鋼矢板などを全く使用していない訳ではない。 1996年ごろから直轄河川では河口付近の堤防には大地震時の対策として堤防補強に深層混合処理工法(DJM工法)[45]やCDM[46]、格子状地盤改良工法(TOFT工法)[47]などとともに排水機能付鋼矢板工法つまり長尺のドレーン付鋼矢板を打ち込む対策も講じている[48][49]。 また、水閘門や樋門・樋管の工事において堤防開削が伴う場合に、鋼矢板での仮設締切構築も行われる。例えば茨城県古河市で利根川の国直轄事業「H28釈水水門新設工事」では、鋼矢板二重式仮締切で堤防を185 m開削しており[50]、その仮締切の状態で利根川の水位が上昇した2017年の台風21号[注釈 8]や、工事現場近くに所在する埼玉県久喜市の栗橋水位観測所で氾濫危険水位を超過し、堤防が耐えられる水位の高さの上限である計画高水位9.90 mに迫る9.61 mを記録[51]した令和元年東日本台風(2019年の台風19号)に見舞われたが、氾濫や決壊はなく堤防に代わって治水効果を発揮し、令和2年3月30日に釈水水門が完成した[52]。 脚注注釈
出典
関連項目
外部リンク |