強制執行
強制執行(きょうせいしっこう)は、債務名義にあらわされた私法上の請求権の実現に向けて国が強制力を発動し、真実の債権者に満足を得させることを目的とした法律上の制度である。日本においては民事執行法(以下単に「法」という。)を中心とする諸法令により規律される。
強制執行総論種類債務名義強制執行は、執行力のある債務名義の正本に基づいて実施する(25条本文)。 債務名義(さいむめいぎ)とは、22条各号に掲げられた文書をいい、私法上の給付請求権の存在及び内容を公証するとともに、その給付請求権に強制執行の手続により実現を図ることができる効力(執行力)を付与する文書である。 もし執行機関自身が各事件ごとにその請求権の存否・内容を調査することとすると、執行の迅速は著しく害される。そこで、法は、強制執行に際し他の機関によって作成された債務名義を必要とし、また債務名義のみに基づいて強制執行を行うことができるものとしたのである。 債務名義には、以下の種類がある(22条各号)。
執行文執行文(しっこうぶん)とは、債務名義の執行力の存在、執行当事者適格、条件付請求権についての条件成就について、裁判所書記官・公証人が審査し、債務名義の正本の末尾に付記する公証文言である(法26条)。 この法技術は、裁判機関と執行機関とを分離した制度の下で、執行機関が実質的調査を要せず、簡易に執行に着手するためのものである。 執行文には、以下の3つの種類がある。
なお、法で規定する以外に、転換執行文という類型を認めるべきであるとの見解が中野貞一郎により提唱されているが、実務上は採用されていない。 執行機関執行機関(しっこうきかん)とは、執行手続を担当する国家機関をいう。日本の民事執行法は、執行機関として、執行裁判所(法3条)と執行官(裁判所法62条)を設けている。 執行機関は、裁判機関とは独立した司法機関である。私法上の給付請求権について判断し債務名義を出す裁判機関と、債務名義に基づき執行手続を行う執行機関とが分離されているのは、執行手続において迅速かつ効率的に権利の実現を行うためである。 また、執行機関が執行裁判所と執行官に分化しているのは、法律判断を要する行為は裁判所に、実力行使を含む行為は執行官に担当させ、それぞれの素質や特性に適合した責任を分担させるためである。 強制執行に対する不服申立て執行機関の処分に対する手続法上の問題を理由とする不服申立てには、以下の類型がある。ただし民事執行法1・20条により民事訴訟法の適用準用を優先すると規定されている。 一方、執行手続の請求権に対する不服申立ては、訴訟手続により行う。これらの訴訟を一般に執行関係訴訟という。これには以下の類型がある。
なお、これらの執行関係訴訟を提起しただけでは執行手続は停止されず、強制執行停止決定を得てはじめて執行手続が停止される(39条)。 強制執行各論強制執行は大きく分けて金銭執行と非金銭執行に分類される。 金銭執行とは、金銭債権を満足させるため、債務者の財産(不動産、預金、給料等)を差し押さえ、換価・配当等を行う制度である。 非金銭執行とは、金銭債権以外の債権(土地・建物の引渡・明渡請求権、登記請求権等)を強制的に実現するための制度である。 金銭執行金銭執行とは、金銭の支払を目的とする債権(金銭債権)を満足させるための強制執行である。 差押えの対象によって不動産執行・船舶執行・動産執行・債権執行に分類され、不動産執行は、換価の方法によって強制競売・強制管理に分類される。 不動産執行不動産執行における不動産は、差押えが登記によってなされる都合上、民法上の不動産から、登記することができない土地の定着物を除かれる一方、登記ができ独立の財産価値を持つ不動産に対する権利(不動産の共有持分、地上権・永小作権ならびにその共有持分)をも不動産とみなすこととしている(43条)。 強制競売
※「規則」とは、民事執行規則のことをいう。 強制競売開始手続強制競売の申立て不動産執行の申立ては、書面でしなければならない(規則1条)。申立ては、目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所(支部を含む。)に対してする(44条)。この裁判所が執行裁判所となる(民事執行法3条)。この申立書には執行文が付与された債務名義の添付が必要である(民事執行法25条)。 換価によっても債権者が請求債権について弁済を受けられない場合(すなわち、不動産の買受可能価額から優先債権の額や執行費用等を除いた価値が残存しないとき)には、執行が許されない(無剰余執行の禁止。民事執行法63条)。 開始決定・差押え申立てが適法にされていると認められた場合は、執行裁判所は、強制競売を開始する旨及び目的不動産を差し押さえる旨を宣言する開始決定を行う(法45条1項)。この裁判に不服があるものは民事訴訟法の不服申立ができる(民事執行法1・20条による)。この手続きを先に進めるためには、本案の債務名義とは別に当該裁判の確定裁判の執行文つき債務名義の提出が必要である(民訴法122条・民執法22条1号・同25条)。 開始決定が執行力のある債務名義である場合は(民訴法114・122条・民執法1・20・22-1・25条号)、裁判所書記官は、登記所(管轄法務局)に対し、目的不動産の登記簿に差押えの登記をするよう嘱託をする(48条1項)。また債務者に開始決定正本を送達する(45条2項)。
売却許可決定執行裁判所は、売却決定期日において、最高価買受申出人に対し、売却許可決定を行う(69条)。この裁判に不服があるものは法74条の執行抗告ができる。この裁判の実施を許可するためには、当該裁判の確定裁判による執行文付債務名義を提出する必要がある(民訴法114・122条・民執法22-1・25・26・74-5条項)。 執行裁判所は、事由によっては最高価買受申出人に対し、売却不許可決定を行うことが出来る(71条)。 売却許可がされた買受人は、裁判所書記官が定める期限までに、入札金額から保証金額を引いた代金を納付する(78条)。 買受人が代金を納付した時点で、買受人は不動産の所有権を取得する(法79条)。裁判所書記官は、登記所に対し、所有権移転登記や、抵当権等の抹消登記、差押えの登記の抹消登記を嘱託する(82条)。この登記手続に要する登録免許税などの費用は買受人の負担となる(82条4項)。 引渡命令裁判所は代金を納付した買受人の申立により債務者又は不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる(民執法83条1項)。この裁判に対して執行抗告ができる(同条4項)。この裁判手続を実施するためには当該裁判の確定裁判による執行文付債務名義の提出が必要である(民訴法114・122条・民執法22条1号・同法25・26・83-5条項)。 買受人が不動産の所有権を取得しても、不動産を占有している賃借人等がおり、その賃借権等が買受人に対抗できる権原である場合は、買受人は占有者に引渡しを求めることができない。一方、占有者が買受人に対抗できる権原を有していない場合は、買受人は、代金を納付してから6か月以内であれば、執行裁判所に申し立てて、明渡しを命じる引渡命令を出してもらうことができる(83条)。
強制管理強制管理とは、債権者の満足に、不動産から生じる天然果実や法定果実などの収益を充てる執行をいう。担保不動産収益執行によって、執行裁判所が不動産の管理人を選任し、その収益(賃料)を金銭債権の弁済に充てる(民事執行法94条・95条)。債務者所有不動産が第三者に賃貸されている場合などにとられる手段である。 船舶執行
動産執行動産執行とは、執行官が債務者の占有する動産を差し押さえて換価し、代金を金銭債権の弁済に充てる執行をいう。 動産執行の申立てにあたっては、差し押さえるべき動産の所在する場所を申立書に記載する。 執行官は、債務者の占有する動産の占有を解いて、執行官の占有下に移す(民事執行法123条1項)。その際、執行官は債務者の住居棟に立ち入ることができ、また金庫等を開くため必要な処分をすることができる(同条2項)。執行官は、差し押さえた動産を債務者に保管させることができ、その場合、差押物には封印等差押えの表示をする(同条3項)。債務者保管の場合には、債務者に動産の使用を許すことも可能である(同条4項)。 債権執行債権執行とは、債務者が第三債務者に対して有する「債権」(ここでは、金銭の支払又は船舶若しくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く。)を意味する、)に対して行う強制執行である。実務上、債務名義の実現方法として多数を占める執行手続であり、債務者が有する給料債権や、預貯金の差押えが代表例である。給料債権のうち、政令で定める範囲は生活費として差押えが禁止され、これを超える部分のみを差し押えることができる。
その他の財産権に対する強制執行その他の財産権(不動産、船舶、動産及び債権以外の財産権)に対する強制執行や少額訴訟債権執行については債権執行が準用される。 非金銭執行非金銭執行とは、金銭債権以外の債権(例えば土地引渡請求権)を実現するために行われる強制執行をいう。 民事執行法は、まず金銭以外の物(不動産・動産)の引渡し・明渡しの強制執行について、直接的な履行の方法を取ることを原則としている。 その他の作為・不作為請求権については、他の者による債務内容の実現が可能であれば代替執行という形で執行が行われる。一方で、他の者による代替が不可能な場合、金銭の支払を命じ、その支払を望まない債務者の履行を間接的に強制する(間接強制)という形で執行が行われている。 不動産・動産の引渡し・明渡しの実施手続不動産引渡し・明け渡し強制執行金銭以外の物(不動産・動産)の引渡し・明渡しの強制執行については、不動産強制執行申立書の提出により直接強制(直接的な履行)の方法がとられる。この申立書には、引渡命令の裁判の確定裁判による執行文付債務名義の添付が必要である(民事訴訟法114・122条・民事執行法22-1・25・26・83-5条項)。執行官はこの添付文書を審査し誤りがなければ、以下の手続により強制執行を実施する。
動産の引渡しの強制執行有価証券を含む動産の引渡の強制執行は、執行官が債務者からこれを取り上げて債権者に引き渡す方法による(169条1項)。 動産の引渡しの強制執行の場合、差押禁止動産も、引渡執行の対象となる。執行対象動産内に目的外動産があるときは、不動産の引渡し等の執行の場合に準じる(169条2項)。 不動産・動産を問わず、第三者が強制執行の目的物を占有している場合には、債務名義の名宛人ではない第三者に対して引渡しの強制執行は原則としてできない。ただ、その第三者が債務者に対してその物を引き渡す債務を負っている場合には、執行裁判所が引渡請求権を差し押さえ、その請求権の行使を債権者に許す旨の命令を発する方法で引渡執行をすることができる(170条1項)。 作為・不作為請求権の強制執行給付義務以外の作為義務及び不作為義務の強制執行については、民法414条1項で、債務者が任意履行をしないときは、債務の性質がそれを許さない場合を除き、その強制履行を裁判所に請求できるものとしている。 従来は、代替的作為義務については代替執行による(民法414条2項)、非代替的作為義務については間接強制による(民法414条2項には適用されず、民事執行法の方法によるもの)、そのうち債務者の意思表示を求める義務については裁判による代替を認める(民法414条2項ただし書)、不作為義務については、違反した物の除去に関しては代替執行(民法414条3項)、将来の違反の禁止に関しては間接強制によるものとしていた。 経済活動の自由化・多様化を受けて契約内容も多様化し、その結果、債務者が給付義務以外の義務を負う場合が増加しており、そのような義務の強制執行の重要性も増している。義務履行の最後の手段の間接強制については、活用が議論され、補充性については批判もあった。 その結果、平成16年改正法では、その適用範囲が大幅に拡大され、多様化した債務内容に応じた執行方法の区分も大きく見直されている。 謝罪広告を命ずる判決の強制執行については旧民訴法733条を適用した判例がある[1]。 強制執行できないもの次の物は強制執行できない。特別な定めなどがない限り行えない。また、全て差押することのできないものも含む。 1 給料は全額差押できない。 ただし継続して差押さえることは可能。(債権執行になる)生活保護、児童手当、児童扶養手当、定額給付金、犯罪被害者給付金、刑務作業報奨金は差押禁止である。 2 生活に必要な物(衣類、寝具、燃料、食料、眼鏡、義足、補聴器、家具など。ただし、高級ブランドの衣類、寝具、家具、眼鏡、化粧品は差押が可能)。 3 1点のみ差押禁止品(PC、炊飯器、暖房器具、洗濯機、電子レンジなど) このほかにも、親族と共有してるものは差押さえられない。 また、財産がない(財産があっても、二束三文、無価値になる場合)場合執行しても、費用倒れ、回収不能になるケースがある。 関連項目脚注
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