地上げ屋地上げ屋(じあげや)とは、大手不動産会社やデベロッパーから依頼され、地主や借地・借家人と交渉して土地の売買契約や物件からの立ち退き契約を取り付けることを生業とする不動産ブローカー。地上げ屋が行う行為を「地上げ」と呼ぶ。特に「地上げ屋」という場合には通常の合法的かつ誠実な不動産取引ではなく、暴力団などの反社会的勢力が関与し、不動産の知識に疎い高齢者などの地主を騙したり、所有者や居住者への暴力や脅迫・嫌がらせなどにより土地所有者や賃借人を強引に追い出す違法かつ犯罪的なものを指し、特に都市部においては大きな社会問題となった[1]。 日本での事例土地は細切れの状態よりも街区単位でまとまっている方が、大規模な建築物が建てられ面積当たりの利用価値が高くなる。そのため細切れの土地を買い取り区画を大きくするために行われる。所有権や借地権が細かく入り組んだ土地や建物を整理し、新たにまとまった面積の更地を確保するために,大手不動産業者やデベロッパーなどが「地上げ屋」に依頼して土地売買契約や立退き契約を取り付ける。またその過程には銀行などの金融機関も深く関与するため経済犯罪の様相を呈する[2]。 1980年代後半から1990年代初頭の日本におけるバブル景気時代には、地価が右肩上がりで高騰を続けた。そうした中で「地上げ屋」が台頭し、地主や住民を騙したり恫喝して強引に土地を買い漁り、街区単位でまとまった段階で転売して、膨大な利益を上げる地上げ屋が台頭した。そうした地上げ行為には不動産業者(デベロッパー)と結託した暴力団などの反社会的勢力が深く関与し、暴力的手段によって立ち退きを迫った。その最たる例として、営業中の店に事故を装ったトラックやダンプカーを突っ込ませる、狭小木造家屋の密集地に不審火を装い放火するなどの手口がある。バブル時代には地上げに絡むトラブルにより殺人事件や傷害事件に発展したり、被害者の中には自殺に追い込まれる者も多数発生した。 バブル期にはこうした強引かつ暴力的な手法で土地売買を公然と行う業者が増加し、不動産業界のモラルが低下するとともに、暴力団の地上げ行為により昔からその土地に住んでいた地域住民の生存権や財産権が脅かされる事件が社会問題化したことも、1992年の暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(通称「暴対法」)施行の背景にあった。なお同法9条では暴力団の禁止行為の一つとして「地上げをすること」と明記されている。 →詳細は「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律 § 禁止される具体的な行為」を参照
1991年(平成3年)からはバブル崩壊が始まり、東京都区部の地価が暴落し、それに伴い地上げ屋の活動は鳴りを潜めた。地上げ途中だった街区は買収済みの更地が虫食い状に残り、旧来の町並みが破壊されたまま再開発も進まないという中途半端な「塩漬けの土地」として放置され、そのことがさらなる都市問題として残されることとなった。こうした「塩漬け」の空き地は固定資産税対策として暫定的に駐車場やコインパーキングなどに転用されていた。 →「塩漬け § 転用」も参照
その後、1990年代後半に諸外国からの資金により不動産ファンドが活性化して市場に勢いが出てくると、それに釣られて暴力団が再び「地上げ屋」として跋扈し始める[2]。2000年代に入ると景気回復に伴い、オフィスビルなど不動産市場は活況を呈した。しかしアメリカのサブプライム住宅ローン危機に端を発したリーマン・ショック(世界金融危機)により、不動産市況の活動はまたしても沈下した[2]。 2015年には、1980年代の地上げにより古くからの宅地が虫食い状態になった東京都新宿区富久町の一角を都市再開発した「富久クロス」が完成し「地上げの爪痕からの再生例」として話題となった。 しかし2020年代に入っても、東京都心部などでは悪質な地上げ行為が行われているのが現状であり、2022年には東京都港区白金台で、老夫婦が所有していた集合住宅を夫の死後に妻から騙すようにして買い取った新オーナーが、元からの住民を強制退去させ更地にして転売するため、物件にゴミや生卵を撒き散らし壁にスプレーで落書きした上、エントランスに腐った生魚を吊るすなどして住民へのハラスメント行為を行った例が、SNSなどのインターネット上で拡散され物議を醸した[3]。 地上げ屋に関する作品・人物1980年代当時のテレビドラマや漫画・アニメ作品などでも、世相を反映して暴力団まがいの地上げ屋が描写されることが多かった。一例として、鳥山明の漫画『ドラゴンボール』に登場するフリーザも当時の地上げ屋を基に考案されたキャラクターであり、作中でも「宇宙の地上げ屋」という設定で登場している。また、高橋陽一の漫画『翔の伝説』ではテニスクラブ同士による乗っ取りをめぐる攻防が出てくるが、これも当時の暴力団や地上げ屋の暗躍をモチーフとしたものである。 そのほか、地上げ屋を題材とした作品には以下のようなものがある。
また作家の宮崎学は自ら「元地上げ屋」であることを公言しており、自著などでその経験についても書いている。一方で地上げに遭って闘った著名人もおり、女優の馬渕晴子は地上げ屋から被害を受けて不動産業者を相手取り裁判を起こして争った。 中国の地上げ屋→詳細は「ホールドアウト_(不動産) § ネイルハウス」を参照
資本主義経済で土地取引は民間不動産業者が主体となる日本とは異なり、共産主義国家の中華人民共和国では土地が全て国有と公有であることから、土地使用権の売買を財源とする地方政府が暴力団や警察も動員して死傷者も出す地上げ行為を行って人権問題となっている[4][5][6][7]。 強引に立ち退きを迫る地方政府に抵抗する住民が孤立化させられる「釘子戸」が、報道やインターネットで拡散され、世界的に注目された[8]。 脚注
関連項目
外部リンク |