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合衆国

合衆国(がっしゅうこく)とは、英語における政体呼称の一つである“United States”の、漢字文化圏での対訳語とされる語である。“United Provinces”の訳語として用いられることもある。

国名にも用いられ、現在はアメリカ合衆国: United States of America西: Estados Unidos de América、米国、べいこく)とメキシコ合衆国西: Estados Unidos Mexicanos: United Mexican States、墨国、ぼっこく)の2か国がある。

メキシコ合衆国も、かつては英語の国名を「United States of Mexico」と称していたが、United Mexican Statesに変更した。現在では、単に合衆国(United States)と呼ぶ場合はアメリカ合衆国を指すことが多い。メキシコ合衆国国内においても、合衆国を意味するスペイン語「Estados Unidos」は、自国ではなくアメリカ合衆国を指す言葉として用いるのが通常である。

概要

United Statesとは、複数のState(州、国、邦)の連合体を意味し、現代の日本語に直訳すれば「連合諸州(諸国・諸邦)」あるいは「連邦」と同じ意味合いとなる。しかしながら、江戸時代末期(幕末[注 1])以降、現代に至るまで日本の政府・社会一般では一貫して「合衆国」を用いている[注 2]。「連邦」の語はFederationの訳語として当てることが多い[注 3]ロシア連邦セントクリストファー・ネイビス連邦など)。

「合衆国」が使われる以前は、“United States of America”は、日本では「アメリカ共和政治」[1][2]、「アメリカ合同国」[3]、中国では「美理哥合省国」「兼摂列邦」「育奈士迭」(United Statesの音訳[4])などと訳されていた。

また、“United Kingdom”(連合王国)[注 4][注 5]や“United Nations”(国際連合, 連合国)などのように、States以外の語がつく場合は、Unitedは「連合」と訳されることが多い。

語の由来

「合衆国」という和訳の由来には、いくつかのが提唱されている。

望厦条約説

1844年に間で締結された望厦条約の中国語文において「合衆国」表記が採用された。これがペリー来航時かその少し前に日本に伝わり、広まったとする[5][6]

「合州国」の誤記説

単に合国と書くべきところを合国と、誤って表記したという説。“United States”を直訳すれば合州国という表現が適切であり、合衆国という訳にはならないとして、支持する者もいる。本多勝一が自著『アメリカ合州国』で主張している。

「『合衆=共和制』+国」説

「合衆」(がっしゅう)は幕末から明治初期に日本で発案された訳語で、本来的な意味としては「共和制」(Republic:君主のいない、民衆から元首を選ぶ制度)、ないしは「民主主義」(democracy, democratic)の古い訳語(前身)であり、そもそも“United States”の直訳語ではない、とする説。「合衆制度により治められる国」の意となる。由来は周礼・春官大宗伯の「大封之禮、合衆也」[7]から。この説によれば、中国語へも日本語から輸出されたこととなる。高島俊男はこの説が正しいとしており、「合州国」の誤記説を唱える本多勝一を批判している。

「合+『衆国=共和制』」説

この訳語は中国にいた宣教師ブリッジマンによって作られ、それが日本語に転用(輸入)された、とする説。合衆国とは「衆国を合わせた」という意味を表し、「衆国」とは大衆によって運営される国(共和政体)のことを指すという。ブリッジマンは、当時中国在住の外国人の間で読まれていたThe Chinese Repository 1845, Jan. ART. VIII[注 6]に下記のように書いている。

the United States are designed〔ママ?〕 as the Hoh Chung Kwoh
The Chinese Repository 1845, Jan. ART. VIII[9]

本多も、ブリッジマン(中国名:裨治文)に『亜美理駕合衆国志略』という著書(1846年)があることを指摘し、「合衆国」は中国語に色々あった訳語の一つであり、合衆共治国(共和国)を略した意訳であろうと推定しており、日本もこれを借用したものとする[注 7]

「『合衆=United』+国」説

「合衆」は「複数のものを合わせてひとつにする」という意味で、 Unitedの訳とする[12]和田光弘は、「合衆」の意味に「民主」や「共和」の意味を読み込む見解に対し、松山棟庵『地学事始』(1870年)などが、「United Kingdom」(イギリス)を「合衆王国」と訳していることを指摘する[13]。イギリスを「合衆王国」とする例は、福沢諭吉『西洋事情・初編三』(1866年)[14]、アルバニイ・ホンブランク著 鈴木唯一訳『英政如何』(1868年)[15]、村田文夫『西洋聞見録. 前編 巻之中-下』(1869年)[16]などにも見える[17]

「合+『衆国=States』」説

わさった(多数の)(state, 州)、とUnited Statesを直訳したものである。

望厦条約より前の1844年正月の、広州巡撫からの上奏文に「該國係二十六虜爲一國、故有合衆國之名」とある。

また、先述したThe Chinese Repository 1845, Jan. ART. VIII[注 6]には条約翻訳者による注記として

in the 34 articles, the United States are designated as the Hoh Chung Kwoh, the literal meaning of which characters is either, "the united all nation" or "the union of all nations", they do not, however, in any sense express the "United States".
The Chinese Repository 1845, Jan. ART. VIII

とあり、「United States の訳として合衆国を当ててみたが少し違う」との印象を持っていたと推察される[18]。加えて「同じ条約内で State と Nation を同じ『国』を使って表すのでよくない」と不満を述べている。しかし望厦条約で採用され、以降「合衆国」がアメリカの公式漢字名として定着してしまった。

合衆国と称する国

2021年現在、合衆国として存続するのは2か国だけである。

合衆国(United States)と称していた国

合衆国(United Provinces)と称していた国

国家構想

脚注

注釈

  1. ^ 例えば日米和親条約の正式名称は「日本國米利堅合衆國和親條約」であり、U.S.A.は「米利堅合衆國」と訳されている
  2. ^ なお、United Statesを「合州国」と訳す著述家もおり、その代表者は本多勝一であり、本多にならう者も決して少なくない。ただし、本多は著書の中でこの表記は自分の趣味で行っているものであり、U.S.A.の正式名称の変更を意図するものではないと断りを入れている。
  3. ^ アメリカ合衆国でも政府機関の中には連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation, FBI)や連邦航空局(Federal Aviation Administration, FAA)のように「Federal」(連邦)が使用されているものがある。
  4. ^ イギリスの日本語での正式名称は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」である。
  5. ^ 明治から昭和初期において、イギリスの説明として「合衆王国」を用いる例が教科書や新聞等で散見される。
  6. ^ a b 発行年からThe Chinese Repository Volume 14と類推される[8]
  7. ^ 本多勝一『アメリカ合州国』[要文献特定詳細情報](朝日新聞社)第7刷以降の「付録3」。同『新・アメリカ合州国』[10]。なお同書で、斎藤毅「合衆国はなぜ合州国と書かないのか」[11]も同様に中国からの輸入説をとるものとして紹介されている。

出典

  1. ^ 宮澤 2003, pp. 109–110.
  2. ^ 箕作省吾『新製輿地全図』1844年”. 新製輿地全図. Tulips - 筑波大学附属図書館. 2022年11月17日閲覧。 “地図中、北アメリカ大陸に「北亞墨利加」と縦書きされ、その左横に「共和政治」とある。”
    電子展示”. 古地図の世界. Tulips - 筑波大学附属図書館. 2022年11月17日閲覧。
    新製輿地全圖”. Tulips - 筑波大学附属図書館. 2022年11月17日閲覧。
  3. ^ 新発田収蔵『新訂坤輿略全図』1852年
    2 世界図編 - 2.1.3 日本人による北方図 - 新訂坤輿略全圖 / 新發田収藏 (資料解説)”. 蘆田文庫特別展. 明治大学図書館. 2022年11月17日閲覧。
  4. ^ 斎藤 1971, p. 4.
  5. ^ 宮澤 2003, p. 135.
  6. ^ 川島 真、服部龍二 編『東アジア国際政治史』名古屋大学出版会、2007年6月10日、10頁。ISBN 978-4-8158-0561-6。Cコード C3031。 
  7. ^ 周禮 春官宗伯 大宗伯之職 「大封之禮,合眾也。」 Wikisource.
  8. ^ s:en:The Chinese Repository Wikisource.
    media:The Chinese Repository - Volume 14.pdf Wikimedia.
    ART. VIII. Journal of Occurrences p.55, l.10-11(PDFでのページ番号は71/613)
  9. ^ 中国古籍文化研究所 編『中国古籍流通学の確立 流通する古籍・流通する文化』雄山閣〈アジア地域文化学叢書〉、2007年4月、155頁。ISBN 978-4-6390-1973-2 
  10. ^ 本多勝一『新・アメリカ合州国』朝日新聞社〈朝日文芸文庫 ほ 1-40〉、2003年6月、313頁。ISBN 978-4-0226-1419-3 
  11. ^ 斎藤 1971.
  12. ^ 宮澤 2003, p. 106.
  13. ^ 和田光弘『植民地から建国へ 19世紀初頭まで』岩波書店〈岩波新書〉、2019年4月20日、[要ページ番号]頁。ISBN 978-4-00-431770-8OCLC 1102184789 
  14. ^ 西洋事情. 初編. 三” (PDF). デジタルで読む福澤諭吉 - 慶應義塾大学メディアセンター デジタルコレクション Digital Collections of Keio University Libraries. 慶應義塾大学. p. 35. 2022年11月17日閲覧。 “l.6 阿爾蘭ヲ併セテ合衆王國ト稱ス○(現代語訳:阿爾蘭(アイルランド)を併せて合衆王国と称す。)”(PDFでのページ番号は19/53)
  15. ^ 英政如何. 1 国立国会図書館デジタルコレクション
  16. ^ 西洋聞見録. 前編 巻之中-下 国立国会図書館デジタルコレクション
  17. ^ 合衆王國 - 検索結果”. 国立国会図書館デジタルコレクション. 国立国会図書館. 2022年11月17日閲覧。
  18. ^ 千葉 2003, pp. 222–223.

参考文献

  • 宮澤俊雅「「US漢号」覚書 : 「合衆国」考」『北海道大学文学研究科紀要』第109巻、北海道大学文学研究科、2003年2月28日、101-157頁、hdl:2115/34040 
  • 千葉謙悟「the United Statesと「合衆國」-中西言語文化接触の視点から-」『英文学フランス文学ドイツ文学ロシヤ文学中国文学』第49巻、早稲田大学大学院文学研究科、2003年、217-227頁、hdl:2065/8485ISSN 1341-7525 
  • 斎藤毅「合衆国はなぜ合州国と書かないのか」『参考書誌研究』第2巻、国立国会図書館、1971年1月20日、NDLJP:3050848 

関連項目

外部リンク

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