3種の中で、最も古い化石の年代が判明しているのは更新世の地層からも発見されている H. laloumena であり[注 2]、この種は他の2種(H. lemerlei、H. madagascariensis)と比べても明らかに大型なだけでなく、現生のカバ(H. amphibius)との類似性もより強い[10]。
H. laloumena はモザンビーク海峡に面したマダガスカル島の西海岸からも化石が出土しており[11]、これらの判断材料から H. laloumena の起源はモザンビーク海峡を越えてきた東アフリカ産のカバ(H. amphibius)である可能性があり[注 3]、他の2種(H. lemerlei、H. madagascariensis)の起源とも関連している可能性(共通の祖先からの分岐)もある。また、これが正しければ少なくとも H. laloumena は現生のカバ(H. amphibius)の後行シノニムとなり得る[13]。一方で、これらの3種のカバ類の同一または別々の祖先がマダガスカル島に到達した時期は不明であり、各種の祖先の到来時期がそれぞれ異なっていた可能性もある[12]。
マダガスカルのカバ類は島嶼化を経た可能性がある。H. laloumena は現生のカバと比較すると若干ながら小型ではあるが、それでも他の2種よりも著しく大型である[12]。一方で H. lemerlei と H. madagascariensis は大きさ的にコビトカバや地中海の島々に生息していた絶滅種[注 4]との類似性が強い。H. lemerlei[注 5]は小型ながらもコビトカバとは対照的に生息圏の中心は水辺であったと思われる一方で、H. madagascariensis はコビトカバとの類似性がより顕著であり、形態・大きさだけでなく、化石の分布から判断される生息環境[注 6]からも、コビトカバと同様により陸上性が強く走行に適した脚部を有していた可能性がある。このため、これらの2種はコビトカバや地中海の島々の絶滅種との収斂進化を経たと思わしい[12]。
一方で、マダガスカルには1648年に Étienne de Flacourt が報告したものも含めてカバに関する口承が多く残されており、1878年まで同島にはカバが生息していたという伝承が存在する[15]。IUCNもこれらの口承の多さに注目し、マダガスカル産のカバ類の絶滅時期は比較的に近年であったと仮定している[16][17]。生物学者であるデイビッド・バーニーによる1990年代の調査でも、1976年に西海岸でカバらしき生物の目撃談が複数あったという情報が得られたが、当時バーニーは彼自身が未確認動物学者であるというレッテルを受けることを危惧してこの逸話を紹介することを躊躇しており、後に『American Anthropologist』において発表した際にも、この1976年の目撃談が誤認や同地の古い伝承や既存の古生物学の情報に由来する可能性を指摘している[7][15]。
なお、マダガスカルのカバはフォレスト・ガラント(en)のドキュメンタリー番組『Extinct or Alive』でも特集が組まれており、撮影中に発見された頭骨は死後200年も経っておらず、マダガスカルのカバが従来の主張よりも遥かに後年に絶滅した、または現代まで生存していたと番組は結論づけた(en)[18]。
^Crowley, Brooke Erin; Godfrey, Laurie Rohde; Samonds, Karen Elizabeth (7 July 2023). “What can hippopotamus isotopes tell us about past distributions of C 4 grassy biomes on Madagascar?” (英語). Plants, People, Planet5 (6): 997–1010. doi:10.1002/ppp3.10402. ISSN2572-2611.
^ abcdTyson, Peter (1998). The Eighth Continent; Life, Death and Discovery in the Lost World of Madagascar. Ann Arbor: Museum of Zoology, University of Michigan. ISBN978-0380794652
^Faure, M. & Guerin, C. (1990). “Hippopotamus laloumena nov. sp., la troisième éspece d'hippopotame holocene de Madagascar”. Comptes Rendus de l'Académie des Sciences, Série II310: 1299–305.
^ abcdEltringham, S.K. (1999). The Hippos. Poyser Natural History Series. London: Academic Press. ISBN978-0-85661-131-5
^Alexandra van der Geer、George Lyras、John de Vos、Michael Dermitzakis、2010年、Evolution of Island Mammals: Adaptation and Extinction of Placental Mammals on Islands、Chapter 11 Madagascar、p.496、Wiley-Blackwell
^ abBurney, David A.; Ramilisonina (December 1998). “The Kilopilopitsofy, Kidoky, and Bokyboky: Accounts of Strange Animals from Belo-sur-mer, Madagascar, and the Megafaunal "Extinction Window"”. American Anthropologist100 (4): 957–966. doi:10.1525/aa.1998.100.4.957. JSTOR681820.