SOD活性と寿命との関係
スーパーオキシドディスムターゼ (Superoxide dismutase, SOD ) は、細胞 内に発生した活性酸素 を分解する酵素 である[ 2] 。酸素消費量に対するSODの活性の強さと、寿命に相関があると言われるが、これは体重に対して消費する酸素の量が多い動物種ほど寿命が短くなるはずのところを、SODが活性酸素を分解することで寿命を延ばしているとするものであり、動物の中でも霊長類 、とくにヒト はSODの活性の高さが際立ち、ヒトが長寿である原因のひとつとされている[ 3] 。
SODは、スーパーオキシドアニオン (・O2 - )を酸素 と過酸化水素 へ不均化 する酸化還元酵素 である。活性中心に銅 (II)イオン と亜鉛 (II)イオン(Cu, ZnSOD)、またはマンガン (III)イオン(MnSOD)や鉄(III) イオン(FeSOD)のように二価または三価の金属 イオンを持った酵素で、細胞質(Cu, ZnSOD) やミトコンドリア(MnSOD)に多く局在している。酸化 ストレス を減少させる役割を持つ。最近、ニッケル を持つ酵素(NiSOD)も発見されている。生成した過酸化水素はカタラーゼ やペルオキシダーゼ などによって分解される。
がん細胞 では活性酸素が高頻度に産生されており、SODの阻害に感受性を示す場合があるため、抗がん剤 の標的として研究が行われている。
反応
SODの触媒機能による活性酸素の分解反応の半反応式は以下の通りである。
M
(
n
+
1
)
+
−
SOD
+
O
2
−
⟶
M
n
+
−
SOD
+
O
2
{\displaystyle {\ce {M^{({\mathit {n}}{+}1)}^{+}{-}SOD{+}O2^{-}->M^{{\mathit {n}}+}{-}SOD{+}O2}}}
M
n
+
−
SOD
+
O
2
−
+
2
H
+
⟶
M
(
n
+
1
)
+
−
SOD
+
H
2
O
2
{\displaystyle {\ce {M^{{\mathit {n}}+}{-}SOD\ +O2^{-}{+}2H^{+}->M^{({\mathit {n}}{+}1)}^{+}{-}SOD{+}H2O2}}}
ここで言うMは次のとおり。M = Cu (n=1) ; Mn (n=2) ; Fe (n=2) ; Ni (n=2)
この反応で、金属 カチオン の酸化状態はnとn+1の間を変動している。
これらの半反応式をまとめると、以下の反応式で表される。
2
O
2
−
+
2
H
+
⟶
O
2
+
H
2
O
2
{\displaystyle {\ce {2O2^- {+}2H^+ -> O2 {+}H2O2}}}
類型
一般
Irwin FridovichとJoe M. McCordによって発見されたSOD酵素群は以前、未知の機能をもつ金属タンパク質と考えられていた[ 4] 。SODにはいくつかの類型があり、それらタンパク質には銅 や亜鉛 、マンガン 、鉄 またはニッケル が補因子 として含まれる。
ウシ亜科のCu-Zn SODサブユニット[ 5]
SODには金属補因子の種類により、Cu/Znタイプ(CuとZnの両方と結合する)、Fe・Mnタイプ(FeとMnのどちらかと結合する)、Niタイプ(Niと結合する)の3つのタイプに大別される。
銅/亜鉛 - 主に真核生物 に使われるタイプ。事実上すべての真核細胞 の細胞質基質 はCu-Zn-SODを含む。市販されているCu-Zn-SODは通常はウシ亜科 の細胞から精製されているものである。Cu-Zn-SODは分子量32,500のホモ二量体である。ウシ亜科のCu-Zn-SODは1975年に初めて構造が解明されたSODである[ 6] 。8本のストランドがグリークキー でβバレル を形成した構造をしており、活性部位はバレルと表面ループとの間にある。2つのサブユニットは主に疎水的、静電気的相互作用により背中合わせに強く結合している。銅および亜鉛は6個のヒスチジン と1個アスパラギン 酸側鎖に配位しており、1つのヒスチジンは2つの金属原子の間で共有されている[ 7] 。
鉄/マンガン - 原核生物 、原生生物 およびミトコンドリア 内で使われるタイプ。
鉄 - E. coli と多くのバクテリア がFe-SODを含む。いくつかのバクテリアはFe-SODであるが、その他はMn-SODで、さらに両方含むものもある。Fe-SODは植物 の色素体 で見られる。立体構造ではFeおよびMn-SODは同じαヘリックス の配置を持ち、その活性部位のアミノ酸側鎖の配置も同じである。
マンガン - 鶏の肝臓 のミトコンドリア と多くのバクテリア がMn-SODを含む。Mn-SODはヒトのミトコンドリアでも見られる。マンガンイオンの配位子は3個のヒスチジン側鎖、1個のアスパラギン酸側鎖と水またはヒドロキシ配位子で、マンガンの酸化数(IIとIII)に依存する[ 8] 。
ニッケル - 原核生物 に含まれる。右巻きの4-ヘリックスバンドルからなる六量体構造で、それぞれニッケルイオンをキレートするN末端フックを含む。
ヒト
ヒト (すべての哺乳動物 と大部分の脊椎動物 も)では3種のSODが存在する。SOD1 は細胞質、SOD2 はミトコンドリア 、SOD3 は細胞外空間に存在する。SOD1は2つのユニットからなる二量体であるが、他の2種は4つのユニットからなる四量体 である。SOD1とSOD3は銅と亜鉛を含むのに対し、SOD2はマンガンを活性中心に持つ。
脚注
^ PDB : 1VAR ; Borgstahl GE, Parge HE, Hickey MJ, Johnson MJ, Boissinot M, Hallewell RA, Lepock JR, Cabelli DE, Tainer JA (April 1996). “Human mitochondrial manganese superoxide dismutase polymorphic variant Ile58Thr reduces activity by destabilizing the tetrameric interface”. Biochemistry 35 (14): 4287–97. doi :10.1021/bi951892w . PMID 8605177 .
^ 伊藤 2007 , p.79
^ 伊藤 2007 , p.80
^ McCord JM, Fridovich I (1988). “Superoxide dismutase: the first twenty years (1968-1988)”. Free Radic. Biol. Med. 5 (5-6): 363–9. doi :10.1016/0891-5849(88)90109-8 . PMID 2855736 .
^ PDB : 2SOD ;Tainer JA, Getzoff ED, Beem KM, Richardson JS, Richardson DC (September 1982). “Determination and analysis of the 2 A-structure of copper, zinc superoxide dismutase”. J. Mol. Biol. 160 (2): 181–217. PMID 7175933 .
^ Richardson JS, Thomas KA, Rubin BH, Richardson DC (1975). “Crystal Structure of Bovine Cu,Zn Superoxide Dismutase at 3Å Resolution: Chain Tracing and Metal Ligands.” . Proc Nat Acad Sci USA 72 (4): 1349–53. doi :10.1073/pnas.72.4.1349 . PMC 432531 . PMID 1055410 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC432531/ . .
^ Tainer JA, Getzoff ED, Richardson JS, Richardson DC (1983). “Structure and mechanism of copper, zinc superoxide dismutase.”. Nature 306 (5940): 284–7. doi :10.1038/306284a0 . PMID 6316150 . .
^ PDB : 1N0J ; Borgstahl GE, Parge HE, Hickey MJ, Beyer WF Jr, Hallewell RA, Tainer JA (1992). “The structure of human mitochondrial manganese superoxide dismutase reveals a novel tetrameric interface of two 4-helix bundles.”. Cell 71 (1): 107–18. doi :10.1016/0092-8674(92)90270-M . PMID 1394426 .
参考文献
関連項目
外部リンク