この項目では、エーテルの一種であるジエチルエーテルについて説明しています。エーテル一般の化学的性質については「エーテル (化学) 」をご覧ください。
ジエチルエーテル
別称
3-Oxapentane Dether Diethyl ether Diethyl oxide Ether Ethyl ether Ethyl oxide Solvent ether Sulfuric ether Sulphuric ether Sweet oil of vitriol Vitriolic ether
識別情報
CAS登録番号
60-29-7
PubChem
3283
ChemSpider
3168
UNII
0F5N573A2Y
EC番号
200-467-2
国連/北米番号
1155
KEGG
D01772
ChEBI
ChEMBL
CHEMBL16264
RTECS 番号
KI5775000
バイルシュタイン
1696894
Gmelin参照
25444
InChI=1S/C4H10O/c1-3-5-4-2/h3-4H2,1-2H3
Key: RTZKZFJDLAIYFH-UHFFFAOYSA-N
InChI=1/C4H10O/c1-3-5-4-2/h3-4H2,1-2H3
Key: RTZKZFJDLAIYFH-UHFFFAOYAB
特性
化学式
C4 H10 O
モル質量
74.12 g mol−1
外観
無色の液体
匂い
ドライラムのような甘い香り[ 1]
密度
0.7134 g/cm3 , 液体
融点
−116.3 °C , 157 K, -177 °F
沸点
34.6 °C , 308 K, 94 °F [ 3]
水 への溶解度
6.05 g/(100 mL)[ 2]
log POW
0.98
蒸気圧
440 mmHg (58.66 kPa) at 20 °C[ 1]
磁化率
−55.1·10−6 cm3 /mol
屈折率 (n D )
1.353 (20 °C)
粘度
0.224 cP (25 °C)
構造
双極子モーメント
1.15 D (気体)
熱化学
標準生成熱 Δf H o
−271.2 ± 1.9 kJ/mol
標準燃焼熱 Δc H o
−2732.1 ± 1.9 kJ/mol
標準モルエントロピー S o
253.5 J/(mol·K)
標準定圧モル比熱 , C p o
172.5 J/(mol·K)
危険性
安全データシート (外部リンク)
External MSDS
GHSピクトグラム
GHSシグナルワード
危険(DANGER)
Hフレーズ
H224 , H302 , H336
Pフレーズ
P210 , P233 , P240 , P241 , P242 , P243 , P261 , P264 , P270 , P271 , P280 , P301+312 , P303+361+353 , P304+340
主な危険性
可燃性が非常に高い、皮膚に有害、空気中と光により爆発性の過酸化物に分解する[ 1]
NFPA 704
引火点
−45 °C (−49 °F; 228 K) [ 5]
発火点
160 °C (320 °F; 433 K) [ 5]
爆発限界
1.9 – 48.0%[ 6]
許容曝露限界
TWA 400 ppm (1200 mg/m3 )[ 1]
最低致死濃度 LCLo
106,000 ppm (ウサギ) 76,000 ppm (イヌ)[ 4]
半数致死濃度 LC50
73,000 ppm (ラット, 2時間) 6500 ppm (マウス, 1.65時間)[ 4]
関連する物質
関連するエーテル
関連物質
特記なき場合、データは常温 (25 °C )・常圧 (100 kPa) におけるものである。
ジエチルエーテル (英 : diethyl ether )とは、エチル基 とエチル基がエーテル結合 した分子構造をしている有機化合物 である。密度 は0.708 g/cm3 。特徴的な甘い臭気を持つ、無色透明の液体である。単にエーテル というときはこのジエチルエーテルのことを指す場合が多い。エチルエーテル とも呼ばれる。溶媒や燃料として使われる。かつては吸入麻酔薬 としても使われた。
利用
有機溶媒
溶媒抽出法 に用いられる。水 にやや溶けやすく、オクタノール/水分配係数 は0.89。比重 が水より小さいため、有機層は水層の上に位置する。グリニャール反応 などの有機金属化学 の溶剤 としてもよく使われる。またアセチルセルロース などの合成 に使われる。
麻酔薬
有害性が問題視されたクロロホルム に替わる吸入麻酔薬 として、医療用麻酔 に用いられた。
特徴として、導入(意識を失うまでの所要時間)が遅く、筋弛緩作用が強く、呼吸器 や循環系 への抑制作用は弱く、また7 - 10 %の気体濃度で使用するため酸素欠乏 に陥りにくい[ 7] 。
さらに、麻酔深度の調節全域(マージン )が極めて広く、致死量 が高いことから、導入に他の麻酔薬を適用し、維持麻酔薬として使う手法が確立されていた。
しかし、極めて引火点 が低く、低い誘電率 から静電気 を帯びやすいため、密閉され電子機器が並ぶ近代的な手術室ではガス爆発リスクが高く、先進国では使用されなくなっている。発展途上国 では現在も維持麻酔薬の主流であるが、新興国では手術室の改善が先行したがゆえの爆発死亡事故が複数生じている[要出典 ] 。
副作用 としては、刺激性が強いため咳 の原因となり、唾液腺 や気管支 を刺激して多量に唾液などの分泌物を分泌させることがあり、吸引の準備が一般的である。
燃料
ジエチルエーテルは発火点 が低く(160 ℃)、セタン価 が85 - 96と高いことから、ディーゼルエンジン の燃焼助剤として利用できる。
飲用
19世紀 から20世紀 初頭にかけて、エタノールの代替品としてエーテルの飲用が行われることがあった。飲用の効果はエタノールとよく似ており、始めは上機嫌になり、そのうち酩酊 して眠ってしまう。特にアイルランド では禁酒運動 家がエタノールの代替として許容されると考えたために大流行したが、ロシア やフランス などでも流行していた。アメリカ合衆国 では、エタノールよりも害が少ないと考えられ、医師の会合から結婚式や裁縫会に至るまで幅広く飲まれていた[ 8] 。
実際にはエタノールの数倍程度の経口毒性 があり、ヒト における最小致死量 は260 mg/kgである。
ポーランド では、湯で割って、少量の砂糖 、蜂蜜 、シナモン 、クローブ などを加えて飲まれた。鉱夫らはコーヒー やラズベリー ジュースに加えて飲んでいた。ストレートで少しずつ飲むのは、効きが良いが危険な方法である。エーテルは体温 で沸騰 するためしゃっくり を引き起こし、極端な場合には胃 が破裂することもあった[ 9] 。
合成
ジエチルエーテルは酸を触媒 としてエタノール の脱水縮合 で合成できる。エタノールを硫酸 のような強酸 と混ぜると、酸が解離してヒドロニウムイオン が生じる。
これがエタノールの酸素原子 をプロトン化 することで、エタノール分子は正電荷を持つ。
CH
3
CH
2
OH
+
H
3
O
+
⟶
CH
3
CH
2
OH
2
+
+
H
2
O
{\displaystyle {\ce {CH3CH2OH + H3O^+ -> CH3CH2OH2^+ + H2O}}}
そこでプロトン化されていないエタノールの求核性の酸素原子が、プロトン化したエタノール分子の水と置換 して、ジエチルエーテルが生じる。
CH
3
CH
2
OH
2
+
+
CH
3
CH
2
OH
⟶
H
2
O
+
H
+
+
CH
3
CH
2
OCH
2
CH
3
{\displaystyle {\ce {CH3CH2OH2^+ + CH3CH2OH -> H2O + H^+ + CH3CH2OCH2CH3}}}
この反応は可逆性 であり、エーテルの収率を高めるためには、反応系からエーテルを留出 させる必要がある。また温度が高いとエタノールが脱水してエチレン を生じるので、この反応は150 ℃以下で行う必要がある。
工業 的には、エチレン から気相水和 でエタノールを合成する際の副産物 として合成されている。またエタノールからアルミナ を触媒 とした気相脱水でもジエチルエーテルを合成出来る。
代謝
ジエチルエーテルの代謝にはシトクロムP450 が関わっているとされる[ 10] 。ジエチルエーテルはシトクロムP450によりO -脱エチル化を受け、エタノール とアセトアルデヒド を生成すると考えられている。また、ジエチルエーテルはアルコール脱水素酵素 を阻害するためエタノールの代謝を遅くする効果がある[ 11] 。
危険性
ジエチルエーテルは引火点 −45 ℃と非常に引火性が高い。絶縁性が高い ため静電気 が発生しやすいことも相まって、火花放電 による引火の危険がある(自己発火性 はない)。冷暗所、遮光保管が必要であるが、冷蔵庫で保管する場合には防爆仕様のものを用いる。また、発火点 は160 ℃なので、炎や火花がなくても高温の器具などで容易に着火する。実験室 などでは、エーテルを加熱する際に水蒸気 を利用することで温度が100 ℃以上にならないようにする。
大気 中の酸素や直射日光によって酸化 され、爆発性の過酸化物ジエチルエーテルペルオキシド を生成しやすい。抗酸化剤 として微量のジブチルヒドロキシトルエン (BHT)が添加されている場合がある。再蒸留の際に爆発 する恐れがあるので、過酸化物が蓄積していないか事前に確認する必要がある。過酸化物は、金属ナトリウム とベンゾフェノン を用いた蒸留か、活性アルミナカラム を通すことで除去できる[ 12] 。
法規制
麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約 の付表IIに記載されており、麻薬向精神薬原料としての規制を受ける。
日本では消防法 に定める第4類危険物 の特殊引火物 に該当する[ 13] 。また有機溶剤中毒予防規則 に定める第二種有機溶剤 であり、労働安全衛生法 上の規制を受ける[ 14] 。
歴史
この化合物を初めて合成したのは8世紀 イスラムの科学者ジャービル・イブン=ハイヤーン [ 15] とも、1275年 スペインの化学者ライムンドゥス・ルルス [ 15] とも言われているが確たる証拠はない。1540年 にドイツの医師ヴァレリウス・コルドゥス が硫酸とアルコールから合成した化合物に「甘い硫酸」(sweet vitriol)と名付けた。ほぼ同じ頃、パラケルスス がエーテルの鎮痛 効果を発見している。その後1740年ドイツの医師August Siegmund Frobeniusがエーテルという名を付けた。この化合物は、硫黄化合物と考えられており、硫黄エーテル (sulphur ether[ 17] )または硫酸エーテル (sulphuric ether)[ 18] と呼ばれていたが、その誤りが指摘されたのは1800年頃である[ 17] 。しかし、20世紀に入っても硫酸エーテルと記載されることはあった[ 19] 。
1818年 、マイケル・ファラデー がエーテルに笑気ガス と似た麻酔作用があることを発見した。エーテルは液体で瓶に入れて持ち運べることから、欧米の大学生の間で「エーテル遊び」(Ether frolics )が流行することになる[ 20] 。これを医学に応用しようとする試みもあり、イギリスでは1840年 頃にエーテルとアヘン を処方することが行われていた。
[ 21] また、フランス の小説家ジャン・ロラン はエーテル吸引常用者 で、小説「仮面の孔 」はエーテル吸引の幻覚 に影響されたとも言われる。
1842年 1月、当時医学生だったウィリアム・クラーク(William Edward Clarke)は抜歯術を受ける患者に対してエーテル麻酔を用いたが、自身この成果を過小評価しておりその後突き詰めることもしなかった。
1842年 3月30日に、ジョージア州 ジェファソンの開業医クロウフォード・ロング は、エーテルを全身麻酔 薬として利用し腫瘍 除去術を成功させ、その後繰り返しエーテル麻酔術を利用し、また、公開した。ウィリアム・T・G・モートン は1846年 10月16日にマサチューセッツ総合病院 でエーテル麻酔を利用した手術を成功させた。このことは電報 により欧米 社会へ広く宣伝 され、モートンは一躍著名になり「麻酔の父」と呼ばれるようになった[ 22] 。
出典
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参考文献
関連項目
外部リンク
アルコール バルビツール酸系 ベンゾジアゼピン 類ウレタン フラボノイド イミダゾール カヴァ 成分ウレイド (英語版 ) 神経ステロイド 非ベンゾジアゼピン系 フェノール 類ピラゾロピリジン 類キナゾリノン 類吸入麻酔薬 /ガスその他/未分類
3-ヒドロキシブタナール
アロガバト (英語版 )
アベルメクチン 類 (例:イベルメクチン )
臭化物 化合物 (例:臭化リチウム , 臭化カリウム , 臭化ナトリウム )
カルバマゼピン
クロラロース (英語版 )
クロルメザノン
クロメチアゾール (英語版 )
ダリガバト (英語版 )
DEABL (英語版 )
重水素化エチフォキシン (英語版 )
ジヒドロエルゴリン (英語版 ) 類 (例:ジヒドロエルゴクリプチン (英語版 ) , エルゴロイド (英語版 ) )
エタゼピン (英語版 )
エチフォキシン (英語版 )
フルピルチン (英語版 )
ホパンテン酸 (英語版 )
KRM-II-81 (英語版 )
ランタン
ラベンダー油 (英語版 )
リグナン 類 (例:4-O-メチルホノキオール (英語版 ) , ホノキオール (英語版 ) , マグノロール (英語版 ) , オボバトール (英語版 ) )
ロレクレゾール (英語版 )
イソ吉草酸メンチル (英語版 )
モナストロール (英語版 )
Org 25,435 (英語版 )
プロパニジド
レチガビン (英語版 )
サフラナール
スチリペントール (英語版 )
スルホニルアルカン (英語版 ) 類 (例:スルホンメタン (英語版 ) , テトロナール (英語版 ) , トリオナール (英語版 ) )
トピラマート
セイヨウカノコソウ 成分 (例:3-メチルブタン酸 , イソバレルアミド , バレレン酸 (英語版 ) )
未分類のベンゾジアゼピン部位陽性調節因子: MRK-409 (英語版 )
TCS-1205 (英語版 )