ギアリング級駆逐艦
ギアリング級駆逐艦(英語: Gearing-class destroyer)は、アメリカ海軍の駆逐艦の艦級。アレン・M・サムナー級の航続性能を強化した改良型であり、またフレッチャー級の最終発展型である。 第二次世界大戦終了直前の1945年3月から就役を開始しており、152隻建造予定だったが戦争終結・建造中止のため98隻で打ち止めとなった。ほとんどの艦は戦後に就役しており、改修を受けながら長く用いられ、アメリカ海軍には1970年代まで在籍していた。またその後も西側諸国に広く供与・売却されており、最後の艦は2014年にようやく退役した。 なおネームシップの艦名は、3代にわたって海軍軍人であったヘンリー・シャルファン・ギアリング(3世まで)から採られている。 設計サムナー級は重兵装で好評であったものの、このために却って凌波性と航続性能が低下したという問題があった。これを解決するため、本級では船体を4.3メートル延長し、前部機械室と後部缶室の間に燃料庫を設置した。これによって燃料搭載量が増加(538トンから708トンへ)したことにより航続距離は延伸され、後部船体が延長されたことから耐航性も改善、また機械室と缶室の間に中間区画が設置されることになったため抗堪性も向上した[1][2]。 主機関はサムナー級のものが踏襲されており、主ボイラーはバブコック・アンド・ウィルコックス(B&W)社製の重油専焼式水管ボイラーを4缶、主機はゼネラル・エレクトリック(GE)社製のオール・ギヤード蒸気タービンを2基搭載した(一部他機種あり)。同出力ではあるが、船体長が長くなったことから速力の向上も期待されたものの、こちらは却って低下する結果となった。これは重兵装化による艦の質量増大が、船体長延長による造波抵抗の低減で補えないほどであったためと考えられており、34ノットという速力は、列強の同世代駆逐艦中最低の数字であった[3]。 装備新造時の兵装は、原型となったサムナー級のものがおおむね踏襲されており、主砲としては、38口径5インチ両用砲を3基の連装砲塔に配して、艦前部に2基を背負式に、後部に1基を搭載している。ボフォース 40mm高角機銃に関しても、当初は連装砲架2基と4連装砲架2基の計12門であったものが、日本軍特別攻撃隊の脅威の深刻化に伴って、後部長魚雷発射管が4連装砲架に交換されている点も同様である。ただし本級の竣工は1945年から1946年と終戦を跨いでいることから、中期建造艦では当初から上記のような装備要領となっており、後期建造艦では長魚雷発射管をもたない艦もあった[1]。 戦後の改装護衛駆逐艦 (DDE)エパーソン(DD-719)、バジロン(DD-824)は建造途中の1948年1月、艦種記号をDDE(護衛駆逐艦)に改めて、対潜艦として就役した。Mk.38 38口径5インチ連装砲2番砲塔を搭載しない代わりに、旋回型のヘッジホッグ対潜迫撃砲またはMk.108対潜ロケット砲1基を搭載している。他に就役後同様の改装が施され、艦種記号をDDEに改めている艦として、ロイド・トーマス(DD-764)、ニュー(DD-818)、ホルダー(DD-819)、リッチ(DD-820)、ロバート・L・ウィルソン(DD-847)、ウィテク(DD-848)、フレッド・T・ベリー(DD-858)、ノリス(DD-859)、マカフェリー(DD-860)、ハーウッド(DD-861)がある。 なお、いずれの艦も後のFRAM改装後、艦種記号をDDEからDDへ再変更している。 レーダー哨戒駆逐艦 (DDR)ダンカン(DD-874)及びグッドリッチ(DD-831)、ハンソン(DD-832)、スタイネーカー(DD-863)、ダイス(DD-880)、ファース(DD-882)の6隻はレーダーピケット艦任務に従事することからDDR(レーダー哨戒駆逐艦)に艦種変更されている。 特にダンカンは後部兵装を撤去しAN/SPS-8高角測定レーダー、TACANを搭載している。 なお、後に艦種記号をDDRからDDへ再変更している。
FRAM改装1950年代、冷戦のグローバル化が進み、また各種の技術進歩によって海洋戦の様相が一変する一方、アメリカ海軍の主力艦艇は依然として第2次大戦期に建造されたものによって占められていたことから、艦隊全体の近代化・艦齢延長を狙ったFRAM改装が計画された。駆逐艦に対するFRAMの場合、300隻に及ぶと予測されたソ連の潜水艦隊への対抗策としての対潜戦能力向上が主眼とされており、その程度によって、FRAM Mk.I(FRAM-I)、Mk.II(FRAM-II)の2パターンがある[4]。 FRAM-Iは、主としてギアリング級を対象としたものであり、75隻が改装を受けた[5]。改装範囲は多岐に渡り、船体・主機・兵装の換装が行われている。艦橋などの構造物は新しく作り直され、CICは拡大、蒸気タービン・ボイラー等、主機もそれぞれ新しいものに換装されている。また、艦齢も8年延長された[4]。 対空捜索レーダーはAN/SPS-29ないし改良型のAN/SPS-37(一部艦はAN/SPS-40)に、ソナーもより新型で低周波・大出力のAN/SQS-23に換装され、一部艦では可変深度ソナーも搭載された。兵装は、対艦用の533mm5連装魚雷発射管、対空用の40mm機銃ないしMk.33 3インチ連装砲はいずれも撤去され、3基のMk.38 5インチ連装砲も1基が撤去された。新しく対潜兵装として、Mk.44短魚雷を発射できるMk.32 3連装短魚雷発射管、同魚雷をロケットで遠距離に投射できるアスロック8連装発射機、同魚雷を無人対潜ヘリコプターでさらに遠距離に投射できるQH-50C DASHの運用設備(格納庫と発着甲板)が設置された。QH-50C DASHは、艦により遠隔制御される無人対潜ヘリコプターで、Mk.44対潜魚雷を2本搭載可能であったことから、この導入によって、攻撃可能範囲が大幅に拡大された。 FRAM-I改装艦も、その兵装配置からグループA(FRAM Mk.IAまたはFRAM-IA)とグループB(FRAM Mk.IBもしくはFRAM-IB)に大別される。FRAM-IA改装艦は、3番(後部)砲塔が撤去されており、元々3番砲塔があった後部甲板にMk.32 3連装短魚雷発射管2基を装備しているほか、2番砲塔の後方左右(艦橋のすぐ下)に2基のヘッジホッグを装備している。FRAM-IB改装艦は、2番砲塔を撤去して空いたスペースにMk.32 3連装短魚雷発射管とヘッジホッグを2基ずつ装備している[6]。 またFRAM-II改装は、主としてフレッチャー級およびサムナー級を対象に計画されたものであるが、本級に対しても一部適用されている。これはおおむねFRAM-Iに準じるものの、より漸進的なものに留められており、魚雷・機関砲は撤去されたが5インチ砲は3基維持され、対潜兵装の内アスロックは搭載されなかった。艦齢延長も5年に留められている[4]。
兵装・電装要目
派生型対潜駆逐艦 (DDK)「カーペンター」(DD-825)と「ロバート・A・オーウェンズ」(DD-827)は、戦争終結に伴い一旦は建造中止となったが、設計を大幅に改めて対潜駆逐艦(DDK)として就役した。このため両艦を、カーペンター級として別クラスに区別する場合もみられる。なお、艦種記号は前述の対潜兵装装備艦と同時期にDDKからDDEに変更している。 兵装は就役時、50口径3インチ連装砲Mk.33及びMk.108対潜迫撃砲各2基を船体の前後に配し、ヘッジホッグ対潜迫撃砲及び533ミリ対潜魚雷発射管4門を装備した。艦橋が他の同型艦と比べ1段高くなっている。3インチ連装砲は1950年代に70口径3インチ連装速射砲Mk.26への換装を実施している。 1960年代に入ると、同級にもFRAM改装が施されており、艦番号もこの時点でDDEからDDに変更されている。1980年代初頭にそれぞれ退役、両艦共にトルコ海軍へ引き渡されている。
ミサイル駆逐艦 (DDG)ギアリング級の3番艦ジャイアットは、テリア・システムを改装する改修を受けて、1956年に艦番号をDDG-1と改めて再就役し、世界初のミサイル駆逐艦となった。ただし同艦においては、艦型に対してミサイル・システムの重量が過大で運用に難儀したことから、テリア・システムは駆逐艦に搭載するには大がかりすぎるシステムであると結論された。このため、以後のテリア・システムの搭載は、より大型のミサイル嚮導駆逐艦(DLG)に限定され、ミサイル駆逐艦用としては、より小型のターター・システムが開発されて搭載された。ジャイアットのシステムも1962年には撤去され、艦番号も従来通りに復した。 配備
アメリカ国外での配備1970年代に入ると、より洗練された対潜能力を有するノックス級フリゲートやスプルーアンス級駆逐艦の建造配備が始まったことにより、相対的旧式化が明確化したギアリング級駆逐艦は米海軍からの退役が進められ、多くの艦が冷戦下の西側諸国に供与・売却された。
外国に供与売却されたギアリング級駆逐艦も、1990年代に入ると冷戦終結による軍縮や船体の老朽化の進行に伴い逐次退役が進められていき、最後まで残っていたメキシコ海軍の「ネツァルコヨトル」も2014年に退役している。 各国での改装ギアリング級駆逐艦をアメリカ海軍から引き渡された各国とも、程度の差はあれど何らかの改装を行っている。主な改装は以下の通り。
台湾→「zh:陽字號驅逐艦」も参照
1971年から1983年にかけて台湾海軍には、FRAM-I改装型12隻と、FRAM-II改装型2隻の計14隻が引き渡されたほか、部品取り専用に2隻が追加で引き渡されている。 台湾海軍引渡後、これらの艦に「武進1号」「武進2号」「武進3号」と呼ばれる大規模な近代化改装を行っている。 中でも「武進3号」と呼ばれる近代改装は改装規模が最も大きく、「RIM-66 スタンダードSM-1MR」艦対空ミサイルの運用能力が付与され、台湾海軍における艦艇区分もDDからDDGに変更された。武進3号改装による変更点は以下の通り。
しかし艦齢が50年を越え老朽化著しく徐々に退役が進み、2005年11月26日に最後まで残っていたDDG-923瀋陽が退役した。なお、「武進3号」改装艦搭載の各種兵装等は他の艦艇に移設され、スタンダードミサイルSM-1MR艦対空ミサイル発射筒、STIR-180火器管制レーダー、DA-08対空捜索用レーダーは済陽級フリゲート(ノックス級フリゲート)に、W-160火器管制レーダー、雄風II型艦対艦ミサイル発射筒、76mm単装砲は錦江級ミサイル艇に搭載されている。
登場作品映画
参考文献
外部リンク |