アークトゥルスArcturus
アークトゥルス(画像中央の星)
仮符号 ・別名
アルクトゥルス[ 1] うしかい座α星[ 2]
星座
うしかい座
見かけの等級 (mv )
-0.05[ 2]
視直径
21.06 ±0.17 ミリ秒[ 3]
分類
赤色巨星分枝星 [ 2]
位置元期 :J2000.0 [ 2]
赤経 (RA, α)
14h 15m 39.67207s [ 2]
赤緯 (Dec, δ)
+19° 10′ 56.6730″[ 2]
赤方偏移
-0.000017[ 2]
視線速度 (Rv)
-5.229 km/s[ 2]
固有運動 (μ)
赤経 : -1093.39 ミリ秒 /年[ 2] 赤緯 : -2000.06 ミリ秒 /年[ 2]
年周視差 (π)
88.65 ± 0.40ミリ秒[ 3] (誤差0.5%)
距離
36.8 ± 0.2 光年 [ 注 1] (11.28 ± 0.05 パーセク [ 注 1] )
絶対等級 (MV)
-0.3[ 注 2]
α星の位置
物理的性質
半径
25.4 ±0.2 R ☉ [ 3]
質量
1.08 ±0.06 M ☉ [ 3]
表面重力
log g = 1.66 ±0.05[ 3]
スペクトル分類
K0III[ 2]
光度
113 L ☉ [ 4]
表面温度
4,286 ±30 K [ 3]
色指数 (B-V)
+1.23[ 5]
色指数 (U-B)
+1.27[ 5]
色指数 (R-I)
+0.65[ 5]
金属量 [Fe/H]
-0.52 ±0.04[ 3]
年齢
71+15 −12 億年[ 3]
他のカタログ での名称
うしかい座16番星[ 2] , BD +19 2777[ 2] , FK5 526[ 2] , HD 124897[ 2] , HIP 69673[ 2] , HR 5340[ 2] , SAO 100944[ 2] , LTT 14184[ 2]
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アークトゥルス [ 6] (Arcturus) またはうしかい座α星 は、太陽系 からうしかい座 の方向約36.8光年 の距離に位置する[ 注 1] 赤色巨星 [ 2] [ 7] で1等星 。うしかい座の恒星 では最も明るく、見かけの等級がマイナスとなる4つの恒星[ 注 3] の1つで、単独の恒星としてはシリウス 、カノープス に次いで3番目に明るく見える[ 注 4] 。
北斗七星 の柄の部分のカーブを延長し、アークトゥルスを通ってスピカ へたどり付く曲線を「春の大曲線 」と呼ぶ。また、アークトゥルスとスピカ、それにしし座 β星デネボラ を結んでできるほぼ正三角形 のアステリズム は「春の大三角 」、春の大三角にりょうけん座 のα星 を加えてできるひし形 は春のダイヤモンド と呼ばれる。
物理的特徴
アークトゥルスの質量は太陽の1.08倍、半径は25.4倍、光度は113倍とされる[ 3] 。年齢は約71億年と太陽よりも古くからある年老いた星であり、太陽と比べて金属量 [ 注 5] は3割程度しかない[ 3] ことから、種族II の星に分類される。恒星の進化 では、中心核 の水素核融合 の燃料となる水素 を使い果たし、ヘリウム中心核を取り巻く水素殻で水素核融合によるエネルギーで輝く赤色巨星分枝 の段階にあると考えられている[ 10] 。ヘルツシュプルング・ラッセル図 (HR図)上では、赤色巨星分枝先端 (TRGB) を超えて最初のヘリウムフラッシュ を起こしヘリウム核融合 が始まった段階である水平分枝 にあるように見えるが、色指数 からはTRGBに至る前の赤色巨星分枝にあるとされる[ 11] 。
可視光 で明るいだけでなく、近赤外線 (Jバンド) でも-2.252等と、ベテルギウス (-2.989等)、アンタレス (-2.850等)、かじき座R星 (-2.652等)、ヘルクレス座α星 (-2.302等)に次いで全天で5番目に明るい[ 12] 。可視光領域で -0.13 - -0.03等の振幅で変光するという報告もあるが疑わしい[ 13] 。
固有運動
西暦8万年のアークトゥルスとスピカ
アークトゥルスは、21個の1等星の中でケンタウルス座α星 のペアに次いで大きな固有運動 を持つ。ハレー彗星 の発見者でもあるエドモンド・ハレー は、自分が観測したアークトゥルスの位置と1800年前の古代ギリシャで観測された位置が、約1度(月の視直径2個分)ずれていることを1717年 に発見した。これが、恒星の固有運動の発見となった。アークトゥルスは、太陽系に対して秒速140 km でおとめ座の方向へ移動している。およそ5万年後には、アークトゥルスとスピカが非常に接近して輝くとされている。
太陽近傍の恒星の中でアークトゥルスと似た運動を持つものは、総称してアークトゥルス・ストリーム と呼ばれており、アークトゥルスと同じ起源を持つ一群の恒星とする説があった。しかしガイア計画 のデータを用いた2019年の研究では否定的な結果が報告されている[ 15] 。
名称
学名はα Boötis(略称はα Boo)。2016年6月30日に国際天文学連合 の恒星の命名に関するワーキンググループ (Working Group on Star Names, WGSN) は、Arcturus をうしかい座α星の固有名として正式に承認した[ 16] 。Arcturus の由来となったギリシア語 の Αρκτουρος (Arktouros ; アルクトゥーロス)は、「熊を護るもの[ 1] [ 17] 」あるいは「北の守護者[ 17] 」を意味する言葉であるとされる。これは、日周運動 によっておおぐま座 の後を追いかけて行くように見えることに由来する。日本語では、アークトゥルス[ 6] 、アルクトゥルス[ 1] 、アルクトゥールス[ 19] [ 20] 、アークトゥールス、アルクツルス、アークツルスなど様々にカタカナ表記されている。英語 での発音はアークチュアラスに近い[ 1] 。
日本
麦を刈り入れる頃になると日没後にアークトゥルスが頭上に輝くことから[ 1] 、「ムギボシ(麦星)[ 1] 」、「ムギカリボシ(麦刈星)[ 1] 」、「ムギウレボシ(麦熟れ星)」などと呼ばれた[ 1] 。また、五月雨 の季節に見えることから「サミダレボシ(五月雨星)[ 1] 」、11月から12月にかけて早朝に捕鯨に出る漁師が体を温めるために茶粥 を食べる頃に上ってくることから「チャガユボシ(茶粥星)」などとも呼ばれた。また、敵性外国語が禁じられていた戦時中、海軍航空隊からの要請を請けた野尻抱影 がおとめ座 のスピカ の日本名として「真珠星」を提案した際に、山本一清 がアークトゥルスを「珊瑚星」[ 注 6] と命名することを提案したが、真珠星のように世に広まることはなかった。
日本のプラネタリウムや天体観望会などでは、「日本では、アークトゥルスとスピカは「夫婦星」と呼ばれる」と解説されることがある[ 25] が、野尻抱影や北尾浩一による日本各地に伝わる星名の収集・調査の中では、古名としてこの名称を伝えたものは存在せず[ 注 7] 、比較的近年に創作されたものである。
富山県 八尾町 (現・富山市 )には、アークトゥルスを「アンサマボシ(兄)」、スピカを「アネサマボシ(姉)」と呼ぶ伝承があった。
中国
伝統的に「大角」と呼ばれている[ 1] 。これは、アークトゥルスが二十八宿 の初めの角宿 にもともと配置されており、さそり座 あたりを東方青竜 と見たてて、その2本の角の1つとしたものである[ 1] 。
ハワイ
アークトゥルスは、ハワイ語 では「鮮やかな星」または「喜びの星」を意味する「ホークー・レッア (Hōkūle‘a[ 32] ) 」と呼ばれている。南のポリネシア人 はこの星を頼りにポリネシア航法 で北のハワイ諸島 へ達したといわれており、この航法を復活するために「ホクレア号 」が建造されている。
逸話
1858年、ドナティ彗星 の尾がアークトゥルスと重なった。このとき尾を通してアークトゥルスが輝いて見えたため、彗星 の尾が極めて希薄であることがわかった。1933年のシカゴ万博 の開会式で、アークトゥルスの光を集光し、それを動力に変えてイルミネーションを点灯させるというセレモニーが行われたとされる。これは前回のシカゴ万博 から40年を記念して、およそ40年前にアークトゥルスから放たれた光[ 注 8] を使ったものであった。
脚注
注釈
^ a b c パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
^ 視等級 + 5 + 5×log(年周視差(秒))より計算。小数第1位まで表記
^ 太陽を除く。
^ 連星系の合成等級ではケンタウルス座α星A・B のほうが明るく見える。
^ 水素、ヘリウム 以外の元素 の存在量。
^ 海戦のあった「珊瑚海」にちなむ
^ 「みょうとぼし」「みょーとぼし」などの呼び名は、ふたご座 α ・β 、やぎ座 α2 ・β 、さそり座 λ ・υ など、比較的近くに位置する星の組み合わせを指す例がある。
^ 当時、アークトゥルスとの距離は40光年と考えられていた。
出典
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参考文献
関連項目