RISC OS ()[ 4] は、ARMアーキテクチャ システム向けに設計されたグラフィカルユーザインタフェース ベースの一連のオペレーティングシステム (OS) である。ARMがRISC アーキテクチャであることから名付けられた。エイコーン・コンピュータ が1987年、Acorn RISC Machine プロセッサを採用した自社製のArchimedes というパーソナルコンピュータ向けに開発したのが最初である。コマンドラインインタフェース とウィンドウシステム を伴ったデスクトップ環境 を備えている。
1988年から1998年まで、ほぼ全てのエイコーン製のARMベースのコンピュータ(Archimedes、RiscPC 、NewsPad、A7000 )にバンドルされていた。オラクル のネットワークコンピュータ やその互換機で RISC OS の派生版 (NCOS ) が使われていた。1998年にエイコーンが解体されると、このOSの開発はフォーク し、RISCOS Ltd 、Pace Micro Technology 、Castle Technology といったいくつかの企業がそれぞれ開発を継続した。1998年以降は、Iyonix [ 5] やA9home といったARMベースのデスクトップコンピュータにバンドルされてきた。2012年現在も開発はフォークしたままであり、RISCOS Ltd と RISC OS Open コミュニティで開発されている。
最近の安定バージョンが動作するプラットフォームとしては、ARMv3/ARMv4のRiscPC [ 6] (あるいはVirtualAcorn やRPCEmuなどのエミュレータ)、ARMv5のIyonix[ 7] 、ARMv7ベースのCortex-A8 プロセッサ[ 8] [ 9] (BeagleBoard やTouch Book などで使われている)がある。2011年、Cortex-A9 ベースのPandaBoard への移植が発表され[ 10] 、Raspberry Pi 向けの開発版も公開されている[ 11] [ 12] [ 13] 。
歴史
1987年、Arthur 1.20 として生まれた。次のバージョンである Arthur 2 から RISC OS 2 と呼ばれるようになり、1989年4月にリリースとなった。RISC OS 3.00 はいくつかの新機能を搭載し、1991年に初期のA5000向けにリリースされた。1996年までに50万システム以上の RISC OS が出荷された[ 14] 。
エイコーンは1999年1月に RISC OS の開発を公式に停止し、社名を Element 14 に変えた。1999年3月、新たに創業した RISCOS Ltd が Element 14(およびその親会社となった Pace Micro Technology )からライセンス供与を受けて RISC OS 3.8 の開発を継続し、1999年7月に RISC OS 4 としてリリース。同社によれば、2005年に生産停止となるまでに RISC OS 4.02 を搭載したROMが6,400個出荷された。
2001年5月、RISCOS Ltd は、ユーザーが最新のOSアップデートにアクセスできるようにする RISC OS Select を開始した。ソフト的にロード可能なROMイメージ (英語版 ) 形式でリリースするもので、ROM上のOSでブートした際にロードできる。2002年5月に Select 1、2002年11月に Select 2、2004年6月に最後の Select 3 がリリースされている。同時にROM版のバージョン4.39をリリース。これは3ボタンマウスを 'Select', 'Menu', 'Adjust' として使えるようにしたバージョンで、RISC OS Adjust とも呼ばれている。
2002年10月、Castle Technology が Iyonix PC をリリースした。 Paceがセットトップボックス 向けに改良したNCOS をベースとした別系統の RISC OS 5 が搭載されている。2006年10月、Castleは RISC OS 5 をシェアードソース 型ライセンスで公開する計画を発表。その管理を行う会社として RISC OS Open Ltd. が創設された。
同じく2006年10月、RISCOS Ltd は RISC OS Six を発表。これまで通り Select 方式で Select 4 として出荷するとした。ベータ版の RISC OS 6, Preview 1 (Select 4i1) が2007年に登場し、Select の購読者全員に対して無料で提供された。2009年4月には Select 5 が出荷されている。
2009年12月、RISCOS Ltd は最新版の Select 6i1 を出荷した。
サポートしているハードウェア
RISC OS の各バージョンとそれらが動作するハードウェアの対応を下表に示す。
Microsoft Windows 上で動作する商用エミュレータVirtualAcorn もリリースされている。
RISC OS はかつてセットトップボックス のOSとしても使われていた。
機能と特徴
OS中核部
マルチユーザー OSであり、協調型マルチタスク である[ 31] 。多くのOSがプリエンプティブ マルチタスク とマルチスレッド へと進化した中、RISC OS は協調型マルチタスクのままである。2003年ごろには、多くのユーザーがプリエンプティブマルチタスクへの移行を要望するようになった[ 32] 。メモリ保護 機構も十分ではない[ 33] 。
このOSの中核部はROM に格納されており、ブート が高速でOSが壊れることがない。RISC OS 4 および 5 は4MBのフラッシュメモリ に格納されており、ROMチップを交換することなくOSを更新可能になっている。複数のモジュール で構成されており、モジュール単位で更新・追加が可能で、ROM内にあるモジュールもROMチップを交換することなく更新可能である。そのような設計であるため、OS開発者はモジュール単位の更新が可能で、サードパーティー がモジュールを更新・追加することも可能である。モジュールへのアクセスはソフトウェア割り込みを使用しており、他のOSのシステムコール に似ている。
多くのバージョンでフィルタやベクタを扱うABI が定義されている。OSの動作に割り込んだりOSの動作を変更したりする方法がいくつも提供されており、OSの挙動を簡単に変更できる。結果としてOSのルック・アンド・フィール をカスタマイズするサードパーティー製プログラムがいくつも開発されてきた。
ファイルシステム
ファイルシステム はボリューム指向であり、ボリューム(ディスク、ネットワーク共有など)単位にファイル階層が存在する。ファイルの種類 は、拡張子 ではなくメタデータ で判別する。パス名は、次のような形式である。
ファイルシステム種別::ボリューム名.$.ディレクトリ階層.ファイル名/拡張子
$
はルートディレクトリを意味し、ディレクトリの区切りにはピリオド (.
) を使用する。拡張子は不要だが、外部から拡張子付きのファイルをロードした際には、ピリオドがスラッシュに置き換えられる(例えば、example.txt
は example/txt
となる)[ 34] 。例えば、
ADFS::HardDisc4.$.
は、HardDisc4 という名称のディスクのルートディレクトリを意味し、ファイルシステムとしてはADFS を使用していることを意味する。RISC OS のファイル種別は、他のシステムでは3桁の16進で ',xxx
' のようにファイル名に添えることで保持できる[ 34] [ 35] 。クロスプラットフォーム のソフトウェアを使う場合、他のシステムでのファイル種別が RISC OS 上では '/[extension]
' という形式でファイル名に添えられる[ 36] 。
特定の種別のファイルをボリュームとして扱えるファイルシステムもあり、ループデバイス (英語版 ) に似ている。OSではこの機能をイメージ・ファイリング・システムと称している。アーカイブ形式 のファイルを透過的に扱うことができ、特殊なプロパティ付きのディレクトリ階層として見える。アーカイブ内のファイルはアーカイブ外へのシンボリックリンクであってもよい。
2GBを越えるファイルはサポートされていない。
ファイルフォーマット
ファイルフォーマット の判別にはメタデータ を使用する。このマッピングを行っているのが MimeMap モジュールである[ 37] 。
カーネル
カーネル 本体はシングルタスク型(協調型マルチタスクはWindowManagerモジュールで提供)であり、割り込み 処理、DMA サービス、メモリ割り当て、画面表示などを担当している[ 31] 。
デスクトップ
GUIインタフェースとして3ボタンマウスに対応しており、コンテキストメニュー 、ウィンドウ表示順序制御、動的ウィンドウフォーカス (ウィンドウは画面上隠れていても入力フォーカスを得ることができる)といった機能を備えている。Dock 風のアイコンバーに、各ボリュームや動作中のアプリケーションやシステムユーティリティなどを表すアイコン が並んでいる。それらアイコンにもコンテキストメニューがあり、ドラッグ・アンド・ドロップ にも対応している。
GUIはファイルをコンセプトの中心としている。Filerがディスクの内容を表示する。Filer内のアイコンをクリックすることでアプリケーションを起動し、アプリケーションからFilerにファイルをドラッグ・アンド・ドロップすることでセーブを行える。アプリケーションを格納するディレクトリをアプリケーションディレクトリと呼び、通常のディレクトリとは区別しディレクトリ名の前に感嘆符 を添えて表示する。そのようなディレクトリをオープンしなくても、ダブルクリックするだけでアプリケーションを起動できる。アプリケーションのファイル群とリソース群がそのようなディレクトリ配下にあるが、通常その構成はユーザーから隠蔽されている。アプリケーションはアプリケーションディレクトリの形でドラッグ・アンド・ドロップすることでインストールおよび削除が可能である。
RISC OS のスタイルガイドが全体的なルック・アンド・フィールの統一を推奨している。これは RISC OS 3 から導入され、アプリケーションの見た目と挙動を規定している。エイコーンがOSにバンドルしていたアプリケーションはスタイルガイドに準拠していなかったが、2001に RISCOS Ltd が Select をリリースした際に更新された[ 38] 。
フォントマネージャ
1989年1月以前から[ 39] アウトラインフォント マネージャがフォントのアンチエイリアス を提供しており、この手の機能を搭載した世界初のOSだった[ 40] [ 41] [ 42] [ 43] 。1994年の RISC OS 3.5 から、それまでビットマップフォント を使っていた部分でもアンチエイリアスされたアウトラインフォントを使えるようになった[ 44] 。
バンドルされたアプリケーション
RISC OS にはプリインストール されたデスクトップアプリケーション 群が付属している(時計、ゲーム、ドローソフト、テキストエディタ、楽譜作成ソフト、ペイントソフトなど)。
後方互換
新たなバージョンのOSやハードウェアへの移植性 は高くない。BBC BASIC で書かれたプログラムは比較的移植が容易だが、デスクトップアプリケーションやゲームには深刻な後方互換 問題がある。
1994年のRiscPC の登場と、後のStrongARM 向けのアップグレードで、コード列と独自のデータ圧縮 方式 (AIF ) で非互換問題が生じた。そのためStrongARM向けアプリケーションにパッチ をあて、AIFヘッダに対して伸長を行う UnsqueezeAIF というソフトウェアを提供した[ 45] 。この非互換問題があったため、The ARM Club による Game On! [ 46] [ 47] と StrongGuard [ 46] [ 48] [ 49] というソフトウェアのリリースが促進された。それらは非互換問題で動作できなかったソフトウェアを新システム上で動作できるようにするものである。A9home 向けのOSでは、AIFヘッダのないソフトウェアは「デスクトップの破壊」を防ぐため[ 50] 、動作できないようにされた[ 51] 。
Iyonix PC (RISC OS 5) と A9home (RISC OS 4 カスタム)では、26ビットのアドレッシングモード を捨てたためにさらなるソフトウェア非互換が生じた。活発に開発されていたアプリケーションの多くは、それ以降書き換えられることになった[ 52] [ 53] [ 54] 。静的コード解析 で26ビット固有のコード列を検出する ARMalyser も登場した[ 55] 。その出力を使ってソースコードがない古いアプリケーションを32ビット版にすることができる[ 56] [ 55] [ 57] 。一部の26ビット版ソフトウェアは、Aemulor というエミュレータを使えば修正することなく動作する[ 54] [ 58] [ 59] 。
BeagleBoard のARMv7やRaspberry Pi のARMv6でも非互換が生じている[要出典 ] 。
脚注
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外部リンク