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16文キック

アンダーテイカーによるビッグ・ブート

16文キック(じゅうろくもんキック)は、プロレス技の一種であり、蹴り技に分類される。

この名称は日本人レスラーで最初に、この技を必殺技としたジャイアント馬場が使用した時にのみ適用され、一般的にはハイキック(ただし、横から蹴る本来のハイキックと区別するため、フロント・ハイキックとも呼ばれる)と言われる。アメリカ合衆国などでは、ビッグ・ブートBig bootビッグ・ブーツとも呼ばれる)という名称で呼ばれる。カウンターで使用された場合は、カウンター・キックとも呼ばれる。

概要

ロープにスローイングした相手や、相手が走って向かってきたところにあわせて、片足を大きく上げ顔面に打ち付ける。馬場の利き足は右足だが、左足を高く上げて蹴る。理由は野球選手(投手)出身である馬場の、右投げの投球フォームがもとになっており、「咄嗟にキックを出したら自然と左足で蹴っていた」と語っている。たまに右足で蹴ることもあったという。

主にカウンターで用いられ、全盛期では、この技でフォールを奪えるほどの威力を誇った。他にも至近距離から出したり、自身が走り込んで繰り出すこともあった。

後年には「ただ突っ立って、反動で戻ってくる相手に足を当てているだけ」というような揶揄も生まれたが、実際のところ、反動で戻ってくる巨漢のレスラーに対して片足で受け止め蹴り返すには強靭な足腰が必要であり、さらに馬場のように真っ直ぐに立った状態で、片足を高く上げて相手を蹴るのは難しく、馬場とタッグを組んでいた時代の坂口征二も、馬場と同様のキックをよく行っていたが、腰が曲がり足も真っ直ぐ伸びていない場合が多かった。もっとも、馬場も最晩年になり体力の衰えが顕著になると、コーナーやロープにもたれかかった状態で仕掛けることが多くなった。

ビル・ロビンソンブルーザー・ブロディは、ロープから戻ってくる時に馬場の足をキャッチして16文キックを防いだことがある。

エピソード

この16文キックは馬場がアメリカで修行していた頃、タッグを組んだスカル・マーフィーからアドバイスを受けて身につけたといわれる。日本での技の呼び名は、馬場の足のサイズに由来する。ジャイアント馬場の靴のサイズは、アメリカのサイズ規格の16(約31.5cm)に相当した。当時の新聞記者が、この数字を昔の日本の靴などの大きさを示す(もん)と間違えて表記したことから、「16文キック」と呼ばれるようになった。なお、一文は約2.4cmである。これから計算すると、16文は約38.4cmになる(実際の馬場の足の大きさは32cm前後であったため、実際は約14文ということになる)。

一見すると簡単な技に見えるが、当たった時の衝撃は大きく、過去にミスター珍が馬場と対戦したさい、16文キックをまともに食ってしまった珍が、ゴムまりの様に吹っ飛ばされ後頭部からキャンバスに叩き付けられ昏倒し、左半身の脳天からつま先まで完全にしびれ、瞳孔が開き舌も喉の奥に巻き取られる程の重体となり、救急搬送されるアクシデントも起きている。その後、珍は療養生活を経て無事復帰したが、この件は完全なアクシデント(事故)であったが、当時馬場はひどく落胆し「もし珍さんが復活出来なかったら僕はプロレスを辞めようと思った」と語った程落ち込み、珍を心配していたと言う。

日本国内のプロレスラーで馬場と並ぶような足の大きな選手は他におらず、都合16文キックは馬場のみが使う技となり(他の選手が使用した場合、後述する同型技の項目で挙げられた技名が用いられる)、日本国内での馬場の代名詞ともなった。例として、馬場が全日本プロレス中継で解説を務めた時に「十六文解説」と称されるなど。

同型技

フロント・ハイキック

国内ではこの名称で使用されることが多く、単に「ハイキック」と呼ばれることも多い。ただし、横方向から蹴りつける一般的なハイキックとはフォーム、効果が異なる。

ビッグ・ブート

ビッグ・ブーツビッグ・ブート・キックビッグ・ブーツ・キックとも呼ばれる。ブラックジャック・マリガンキラー・カール・クラップアレックス・スミルノフケビン・ナッシュテスト高山善廣など、長身の選手が主に使用。

スパイダー・キック

アーニー・ラッドのビッグ・ブートはこう呼ばれた。アントニオ猪木からピンフォールを奪ったこともあるラッドの必殺技。

キングコング・キック

ブロディ・キック超獣キックとも呼ばれる。ブルーザー・ブロディのビッグ・ブートはこう呼ばれた。厳密には馬場やアンドレのキックとは蹴るときの動きが違う。現代ではプロフェッショナルレスリング・ワラビー矢野啓太が使用。

18文キック

アンドレ・ザ・ジャイアントが馬場より足が大きいということで、アンドレのビッグ・ブートがこう呼ばれることがあった。古舘伊知郎は、実況でこの技を『人間エグゾセミサイル』と形容していた。

ジャンボ・キック

ジャンボ鶴田の使用するフロント・ハイキック。旧名15文キック。鶴田も大柄なレスラーではあるものの、元々彼はこの技を売りにしておらず、師匠のジャイアント馬場に関係付けられて非意図的または偶発的に命名された技であると見られる。

顔面ハイキック

川田利明の使用する助走をつけての顔面へのフロント・ハイキック。川田が得意とする各種顔面蹴りの一つで、序盤の小技、繋ぎ技、流れを変える技などとして幅広く使用される。

カウンター・ハイキック

カウンター・キックとも呼ばれる。走ってくる相手に対するカウンターとして使用した場合に、この名で呼ばれることがある。

派生技

低空式ビッグ・ブート

尻餅状態の相手に対し、ロープから走り込んで踏みつけるように顔面を蹴りつける低空式ビッグ・ブート。ほぼ顔面へのフット・スタンプで、技を受けた相手は後頭部からマットに叩きつけられる大ダメージ必至の戦慄技。

ケンカ・キック

ヤクザ・キックとも呼ばれる。蝶野正洋が使うフロントからのキック。助走をつけて自らの膝を曲げたままの状態で片足を前方へ突き出し、相手の顔面を足の裏の踵付近で擦り付けるように撃つのが特徴。見た目が映画などでヤクザが使う蹴りに似ていたのでヤクザキックと命名されたが、テレビや雑誌等で「ヤクザ」という名はコードに引っかかるなど、不適切なため、ヤクザ=喧嘩のイメージから「ケンカ・キック」と改称された。なお、前述以外のメディアでは「ヤクザ・キック」と呼称される場合もある。

派生技として、蝶野はシャイニング・ウィザードと組み合わせたシャイニング・ケンカ・キックを、 望月成晃はジャンピング式で相手が一回転する程の勢いで蹴り飛ばすスーパー・ケンカ・キックを使用。

スライディング・キック

ロープ際に相手をフライングメイヤーでダウンさせた後、ロープに走り込んで側頭部に向かって放つ。土井成樹は尻餅をついた相手を低空で蹴り飛ばすバカタレ・スライディング・キックを使用。

ダイナミック・ハイキック

田上明が使用する、助走をつけて大きくジャンプしてのフロント・ハイキック。コーナー最上段からのダイビング式もある。ダイナミック・キック大開脚キックとも呼ばれる。また、通常型のフロント・ハイキックもこの名称で呼ばれることがある。

ロマン・レインズは、相手の頭部をリング内からエプロンに突き出るように据え置き、自らは場外に降りてリングサイドを助走しジャンプしながらフロント・ハイキックを見舞う。自身はリングのエプロンに尻餅を付いて着地するタイプを使用する[1]

バイシクル・キック

日本語では二段蹴りとも呼ばれる。相手に向かって走りこみ、一度蹴り脚とは逆の脚を振り上げ、その直後に素早くその脚を引く動作と同時に蹴り足で地面を蹴り、ジャンプして相手の顔面にキックを叩き込む技である。使い手としてはビル・アーウィンスティーブ・ブラックマンマシュー・ブルーム戸澤陽などがいる。WWEのシェイマスは、ブローグ・キックBrogue Kick)の名称で使用。

30文キック

馬場とジャンボ鶴田とのタッグでの合体カウンター・ハイキック。もともと鶴田は馬場と組んでのタッグマッチに限り、馬場に合わせてフロント・ハイキックを打つ場合が多かったが、後にシングル戦においても繋ぎ技として使用するようになった(その際は、馬場に1文遠慮して「15文キック」と呼ばれていた)。

なお、馬場は坂口征二とのタッグチーム「東京タワーズ」でも同様の合体技を出しており、こちらは「31文キック」と呼ばれた[2]

32文人間ロケット砲

馬場が使うドロップキックを指す。32文ロケット砲とも呼ばれる。

脚注

  1. ^ 週刊プロレス別冊『週刊プロレスEXTRA Vol.11 WWE完全攻略ガイド』ベースボールマガジン社、2014年、pp6。
  2. ^ 【坂口征二名勝負196】第1部: 日本プロレス時代編#44”. 坂口征二公認ファンクラブ荒鷲. 2022年7月2日閲覧。

関連項目

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