親北 (しんほく、しんぼく[ 1] 、朝 : 친북 、英 : Pro-North Korean )とは、朝鮮民主主義人民共和国 (北朝鮮)を支持・擁護する立場、もしくは北朝鮮主導の朝鮮半島統一 を支持する立場を指す。別称として日本 では親朝 (しんちょう)、大韓民国 (韓国)では従北 (じゅうぼく、じゅうほく、종북)[ 2] も用いられる。
基準
親北についての統一的な定義は存在しないが、2015年 11月18日 に親北反国家行為者人名辞典 (朝鮮語版 ) (従北人名辞典)の出版が発表された際に、趙甲濟 は元北朝鮮工作員 である金東植の証言から、親北に該当する勢力の基準として下記の5つを絶対に批判しないと主張している[ 3] 。
北朝鮮の最高指導者 (金日成 、金正日 、金正恩 )
共産主義 ・社会主義 国家における世襲 [ 4] [ 5] [ 6]
主体思想
北朝鮮の独裁体制
北朝鮮国内の人権侵害
概要
連合国による南北分断 当初から、朝鮮 では南朝鮮の政府(韓国)に正統性 はなく、北朝鮮の政府に正統性があると考える者が多かった。史実であるか否かはともかくとして、北朝鮮の指導者には抗日パルチザン の英雄達(特に金日成)が就いていること、ソ連軍 は北朝鮮各地域に人民委員会 を組織すると直ちに権力を引き渡したのに対し、米軍 は南朝鮮にアメリカ 主導の李承晩政権 が誕生するまで直接軍政を敷いていた ことがその理由である。在日朝鮮人 の小説家 ・金達寿 も、著書「朝鮮」のグラビア で、軍事境界線 上で北朝鮮側から見た韓国軍 の写真を掲載している。
独立から朝鮮戦争 を経て1991年 に国際連合 へ加盟するまで、分断国家 の韓国は冷戦 という環境下で「朝鮮の正当な国家」としての地位を北朝鮮と争っていた。朝鮮戦争の被害と公権による徹底的な反共 政策の結果、当時の韓国世論は北朝鮮を敵視しており「親北」は社会的に許されるものでなかった。そのため、歴代政権はしばしば反政府運動と「親北行為」を同一視して国家保安法 による冤罪事件 を生み出した。「親北」が許されない社会状況は民主化宣言 後も続いていたが、この間に1991年 に第41回世界卓球選手権 で南北統一チームとして出場するなどと状況は大きく変わった。1998年 に金大中 政権になり2000年代 に入ると、太陽政策 の影響から韓国世論は北朝鮮を「敵」ではなく「同胞 」として見るようになった。ハンギョレ 等在野 系の流れを汲むマスコミ を通じて南北融和を促す主張が提起された。このような流れは韓国現代史の評価見直し作業と並行して進み、特に盧武鉉 政権は真実和解委員会 という政府組織 を新設して政治家(李承晩 ・朴正煕 等)の反共政策、韓国軍 、韓国中央情報部 による「犯罪行為」の調査・発表を行った。
韓国では北朝鮮への融和言動・低姿勢だけでなく、北朝鮮政府の代弁者・傘下のように脱北者や北朝鮮による死傷者に対する無関心や冷酷な言動、北朝鮮批判活動制限・チラシ頒布妨害への批判に用いられている[ 7] [ 8] [ 9] [ 10] [ 2] 。
日本の革新 陣営では、始めは日本共産党 が北朝鮮の執権政党である朝鮮労働党 と交流していたが、共産党が主体思想 や赤化統一論 を批判したため関係が悪化し交流が断絶した。その後、日本社会党 が朝鮮労働党と友好関係を築き、飛鳥田一雄 や田邊誠 など歴代の社会党幹部が訪朝し「朝鮮労働党唯一の友党」を自称した[要出典 ] 。また社会党は他の革新野党である共産党や民社党 から疑念を持たれた日本人拉致問題 に関しても「拉致問題は朝鮮人 差別によるでっち上げ」という立場を取った。これは社会党が社会民主党 になってからも、1997年 に機関誌である『月刊社会民主 』に「少女拉致疑惑事件は新しく創作された事件というほかない」と断じた論文が掲載された。2002年 、社民党は世論の反発を受け朝鮮労働党との友好関係を凍結した。社民党幹事長(当時)の又市征治 は2016年 に北朝鮮が行ったミサイル実験 について談話において「事実上のミサイル」として抗議した[ 11] 。
なお、韓国で朴正煕率いる開発独裁 体制が反共の猛威を振るった1960年代 から1970年代 にかけて、日本の知識人 の間では、親北であることが進歩 的であるとの空気が蔓延していたが、1980年代 には北朝鮮がラングーン事件 や大韓航空機爆破事件 などのテロ 事件を起こしたことをきっかけにその体制の実態が少し知られ始めた。1990年代 に入ると、それまで革新派に批判されていた韓国では民主化が進んだ一方、核兵器開発問題 や人権問題 などが日本のマスメディアでも強調されるようになった。
2002年の日本人拉致事件報道以降でも日本には親北団体メンバーや地方議員など訪朝する政治家が存在している。2017年 10月 末には神奈川県 の大和市 議と横須賀市 議2人が訪朝している。日本政府 関係者によると、2017年時点で毎年日本から北朝鮮友好団体の約150人、現役の地方議員を中心に政治家約50人、マスコミ関係者の30人ほどが訪朝していることが報道されている。観光目的の一般の日本人 の2倍いるとされ、合計で年間300人以上の日本人が訪朝している[ 12] 。
北朝鮮の国際関係
北朝鮮の国際関係図。緑色で塗られた諸国とは国交を有し、赤色で塗られた諸国とは国交が断絶し、灰色で塗られた諸国とは国交を有していない。その後、核開発やミサイル発射によって、いくつか国交断絶されている。
北朝鮮は国際社会に対し攻撃姿勢を貫き、ラングーン事件や大韓航空機爆破事件、近隣諸国民拉致 など国際的テロリズム 事件を多数引き起こし、20世紀 末から核実験やミサイル発射 を断続的に実施しているため、国際社会から憂慮されている[ 15] 。外貨獲得のためには手段を選ばず、通貨偽造 や麻薬 製造などの犯罪行為に手を染め[ 16] 、外国へのサイバーテロ にも注力し[ 17] 、外国銀行への不正アクセスによって資金を盗んでいる[ 18] [ 19] 。国際社会からはならずもの国家 と見做されており、厳しい経済制裁 が行われているにもかかわらず、挑発的行動や犯罪行為は続いており、アメリカからはテロ支援国家 に指定されている[ 20] 。
韓国と国交が無く、北朝鮮と国交がある国
緑色で塗られた諸国は大韓民国と国交 を有し、灰色で塗られた国キューバ 、シリア 、北マケドニア は大韓民国と国交を有しておらず、大韓民国は黄色の朝鮮民主主義人民共和国 ・西サハラ ・ソマリランド ・中華民国 、コソボ は国家として承認していない。
大韓民国外交通商部 によると、2015年時点で韓国と国交がない国はキューバ、シリア、マケドニアの3カ国であるが、うちシリア、キューバは、北朝鮮とは国交を結んでいる親朝国家である。逆に、アルゼンチン、イラク、チリ、ボツワナはかつて北朝鮮と国交があったが断交し、韓国とは国交がある[ 21] 。マケドニアは、1995年に韓国と早期国交樹立の原則を確認したものの、翌年に少数国政政党のマケドニア共産党 (Communist Party of Macedonia )が韓国における「利敵団体」の韓国大学総学生会連合 へ公式的な支持を表明したことで両国関係は冷え込んだために国交回復交渉が中断された[ 22] 。
シリア
シリアは1966年の国交樹立以降から北朝鮮の友好国であるため、韓国との国交締結を渋っている。1973年10月の第4次中東戦争では、北朝鮮がシリアに部隊や武器を提供している[ 22] [ 23] 。
キューバ
キューバ :北朝鮮は1960年 からキューバ と外交関係を持ち、ハバナ に大使館を置いている。キューバは北朝鮮の一貫した友好国であり[ 24] 、冷戦 の間、北朝鮮とキューバはアメリカ帝国 に反対する立場に基づく連帯の絆を築き、1968年 にラウル・カストロ 革命軍事相は彼らの見解が「すべてにおいて完全に同一である」と述べた[ 25] 。
キューバは北朝鮮との連帯を示すために、1988年ソウルオリンピック をボイコット した[ 25] 。
2016年 、フィデル・カストロ 元首相 の死後に北朝鮮は3日間の喪 に服すことを宣言して葬儀に代表団を送り[ 26] 、金正恩 は平壌 のキューバ大使館を訪問して弔意を表した[ 27] 。
2018年 、ミゲル・ディアス=カネル 首相が北朝鮮を訪問し、北朝鮮に対する制裁 への反対を強調した[ 28] 。
北朝鮮メディアはキューバ人を社会主義 という共通の目的を持つ同志として描いており[ 29] 、キューバは北朝鮮との友好関係により、韓国と国交が[ 30] なかったが、2024年2月14日に韓国と国交を樹立した。
脚注
^ http://www.kpedia.jp/w/28173
^ a b “親北パネリスト「張成沢は売国奴」「北は魅力的な独裁国家」-Chosun online 朝鮮日報 ”. archive.is (2018年12月17日). 2019年2月22日 閲覧。
^ “'종북인명사전' 종북 판별 다섯 가지 기준은?” . dailian . (2015年11月18日). オリジナル の2015年11月19日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20151119142806/http://www.dailian.co.kr/news/view/539569/
^ 共産主義において、世襲は絶対悪である。そのため、中華人民共和国 では北朝鮮の金一族世襲独裁体制への批判が強い。
^ “北朝鮮・金ファミリーの世襲正当化に中国のネットで猛烈批判│NEWSポストセブン ”. www.news-postseven.com . 2018年10月30日 閲覧。
^ “【解説】北朝鮮の世襲制、中国は内心で“強い不快感”か - ライブドアニュース” (日本語). ライブドアニュース . https://news.livedoor.com/article/detail/5255386/ 2018年10月30日 閲覧。
^ “「北には低姿勢、脱北者には帝王のように君臨する統一部長官 Chosun Online 朝鮮日報 ”. www.chosunonline.com . 2018年10月30日 閲覧。
^ “【社説】「脱北者出身記者排除は言論の自由の侵害」と指摘 Chosun Online 朝鮮日報 ”. www.chosunonline.com . 2018年10月30日 閲覧。
^ “統一部による本紙脱北記者外し、国際組織が批判「言論の自由侵害」 Chosun Online 朝鮮日報 ”. www.chosunonline.com . 2018年10月30日 閲覧。
^ “(朝鮮日報日本語版) 【社説】脱北者の権利と言論の自由を認めない韓国 朝鮮日報 ”. www.chosunonline.com . 2018年10月30日 閲覧。
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関連項目