臨床検査技師臨床検査技師(りんしょうけんさぎし、英: Medical Technologist (MT), Clinical laboratory technologist, Biomedical Laboratory Scientist)は、病院などの医療機関において種々の臨床検査を行う技術者である。日本においては、臨床検査技師等に関する法律(以下、「法」という。)により規定される国家資格である。 古くは医師自らが検査を行っていたものであったが、医療の分業化と検査の高度化が進み、現在の医療に臨床検査技師は不可欠の存在となっている。病理解剖・司法解剖などの解剖業務や病理診断の補助、注射器を使用した採血、血液・尿・便などの検体検査、微生物検査、遺伝子検査、超音波・心電図・筋電図・脳波などの生理検査をおこなう医療技術者。 定義日本において「臨床検査技師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、臨床検査技師の名称を用いて、医師又は歯科医師の指示の下に、厚生労働省令で定める検体検査、及び生理学的検査を行うことを業とする者をいう。 (法第2条) 臨床検査技師は通称として「検査技師」と呼ばれるが、一般人からは『病院の検査技師』と言った場合、レントゲンを扱う診療放射線技師とよく混同される。しかし医療施設内では単に『検査技師』といえば通常、臨床検査技師を指す。 歴史臨床検査は、元々医師によって行われていたが、医学の進歩は医師の仕事を増大させ、医師以外に検査技術者が必要となった。 検査資格制度が無かった戦前から検査業務に携わる者がいたが、戦時中になると検査技術は軍医から衛生兵へ伝授された[1]。 戦後は陸海軍病院から厚生省へ移管され国立病院となってからも、軍の衛生兵経験者が病理試験室(当時)を担っていたが、身分保障制度が無かった。 このため国立病院などの技術者が中心となって資格化運動を展開したが、薬剤師などと業務範囲が重なるなどと反対論があったりして資格化が実現したのは昭和33年4月公布の「衛生検査技師法」成立によってであった[2]。 衛生検査技師は検体検査のみを扱い業務独占が無く、当初は都道府県知事免許であった。 その後も医療の分業化と検査の高度化が進み、また昭和40年代には医療現場では看護婦の負担増大もあり、心電図などの生理学的検査を技師に依頼するケースが増えた為、昭和45年(1970年)にそれらの業務を加えた臨床検査技師が誕生した。 臨床検査技師は厚生大臣免許となり、従来の検体検査に加え、人体を直接扱う生理学的検査と採血行為が新たに業務に加えられた。 平成17年法改正により、臨床検査技師の定義の見直し、及び衛生検査技師の新規免許廃止が決まり、一本化された。 平成26年法改正により、診療の補助行為として新たに検体採取業務が加えられた。 平成29年法改正により、臨床検査技師の定義が見直された。 業務臨床検査技師が行う臨床検査業務は大きく分けて、「検体検査」と「生理学的検査」に分けられる。 検体検査臨床検査技師が業とする検体検査は、法第2条に規定されている省令(臨床検査技師等に関する法律施行規則〈以下、「施行規則」とする。〉第1条)により、「微生物学的検査」、「免疫学的検査」、「血液学的検査」、「病理学的検査」、「生化学的検査」、「尿・糞便等一般検査」、「遺伝子関連・染色体検査」である。
検体検査は現在でも名称独占のみであり、法的には全くの無資格者でも行うことは可能とされている。しかし、ほとんどの病院・衛生検査所では臨床検査技師免許取得者ないし取得見込者を採用対象としており、また無資格者は知識も技能も担保されていないため、職を得ることは困難である。 精度管理責任者医療機関内で法第2条の検体検査を行う場合は、管理組織、検体検査の精度確保の実施に必要な厚生労働省令で定める基準に適合させなければならない(医療法第15条の2)。
生理学的検査生理学的検査は、医療現場では「生理検査」「生理機能検査」「生体機能検査」などと呼称される。 臨床検査技師が業とする生理学的検査は、法第2条に規定されている省令(施行規則第1条の2)により、下表18項目である。
この生理学的検査と採血・検体採取行為については、保健師助産師看護師法の一部制限解除という形で業務独占がある。 上記生理学的検査のうち、MRI(磁気共鳴画像検査)と超音波検査は、診療放射線技師も実施でき、また眼底写真検査は視能訓練士および診療放射線技師も実施することができる。 ただし上記検査の中には、方法によっては医師以外が実施する場合は一部制限条件があるものがある(眼底写真は散瞳薬を使用できない等)。 その他診療の補助行為高い精度と迅速かつ適切な処理が要求される検査においては、検体の不適切な採取方法や処理方法によっては検査結果に重大な影響を及ぼすことがある。よって、これらに精通した臨床検査技師が検査に先立って採血などの検体採取から一貫して行うことが望ましいため、臨床検査技師による採血および検体採取がそれぞれ下記の一定条件下で行うことが認められている。(法第20条の2) 採血
血液の採取量に関して、かつては検査に供する為の採血という性質から厚生省通達でおおむね20ml以内とされていたが[4]、現在では医師が必要であると認めた場合においては20ml以上の採血量も可能とされている[5]。 なお、上記政令で定めた部位以外からの採血や動脈採血、検査目的以外の採血(献血採血、瀉血など)は行うことはできない。 検体採取臨床検査技師には、特定の場合において検体採取が認められている(施行令第8条の2)。
(血液以外の)検体採取は2014年の法改正によるものであり、2015年4月より前に免許を受けた者及び2016年4月より前に臨床検査技師養成所等に入学した者は、厚生労働省指定の研修の修了者でなければ同業務は行えない[6][7]。 2020年4月22日開催された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関わる政府の専門家会議において「PCR等検査の実施体制の強化」等が提言され、政府より日本臨床衛生検査技師会に対して検体採取等に対する人材確保が要請された。また、日本医師会から各都道府県医師会あて連絡(地域外来・検査センターや宿泊療養施設における検体採取を実施する職種について)においても臨床検査技師会との協力の上、検体採取を実施するよう通知された。 その他臨床検査技師の検査業務には、検査測定のみならず患者への検査説明をも含むと解されている。 「患者への検査説明」は長らく医師または医師の指示を受けた看護師が行うことが多いのが慣例であったが、平成19年12月28日の厚生労働省通知[注釈 1]により、「患者への検査説明」が医師、看護師、臨床検査技師の業務であると明示された。 臨床検査は元来医師が行っていたものであり、法的には医師は(歯科医業を除く)全ての医療行為を「医業」として行えるとされているし、看護師は診療の補助の範囲で検査を行うことが可能とされているため、小規模施設やベッドサイド、診察室で出来るような簡易な検査など一部検査については、現在でも医師や看護師が行うことはある。 現在、医師や看護師が臨床検査を実施することは上記の場合を除けば少なくなり、専門的な知識技術を身につけた臨床検査技師が専ら行っている。医療の分業化と臨床検査の高度化が進み、現在の医療に臨床検査技師は不可欠の存在となっている。 解剖の介助臨床検査技師は病理学的検査に関連し、病理医が行う病理解剖の介助(補助)を務めることもある。 病理解剖助手の資格とは別であるものの、1988年に医道審議会死体解剖資格審査部会がまとめた病理解剖指針の中で、解剖の補助者は臨床検査技師が行うべきであり、死体からの血液採取、摘出臓器の標本作成、縫合等の医学的行為については、臨床検査技師等以外を解剖にかかわらせるべきでないとした[8]。 また、監察医が行う解剖(死体検案業務)の補助として、胸腹腔開検の際に、臨床検査技師が臓器の摘出の他、切開、縫合、検体の採取、薬化学、病理組織学的検査などを行う場合がある。 その他法的規制
日本における資格
臨床検査技師国家資格→詳細は「臨床検査技師国家試験」および「臨床検査技師養成所」を参照
日本において臨床検査技師の資格を取得するには、年1回行われる国家試験に合格し厚生労働省に備える臨床検査技師名簿に登録されなければならない。臨床検査技師教育のコースは、本資格の成り立ちに複雑な経緯があったため一本化ができず複数存在し、分かり難くなっている。他の医療職の教育機関の殆どや臨床検査技師養成所のうち専門学校・短大が指定校であるのに対し、大学のほとんどは臨床検査技師学校養成所指定規則に縛られない科目承認校となっている。しかし、科目承認校については、臨地実習の履修単位の少なさや、履修科目の内容にも議論があり、近年検査技師教育の見直しも含めた議論が検討されている[9]。
(1)指定校(大学、短大、専門学校)を卒業し国家試験を受験する。 (2)承認校(大学)で追加科目を履修し卒業し国家試験を受験する。 (3)医科大学または歯科大学を卒業し国家試験を受験する。 (4)外国の検査技師学校を卒業し厚労大臣の認定を受け国家試験を受験する。 近年は4年制大学を志望する学生が増えており、大学院への進学もまた多くなってきている。 認定資格国家資格である臨床検査技師を対象、または臨床検査技師が資格要件となる認定資格を以下に記す。いずれも学会の認定資格であり法的な規定があるわけではないが、実質的に独占業務資格となっているものもある。主立ったものを以下に示す。 臨床(衛生)検査技師を対象とする資格認定制度
臨床検査技師免許が資格要件となる認定制度
臨床検査技師の知識技術が生かされる認定制度
日臨技認定センター資格
臨床検査技師と関連のある資格衛生検査技師衛生検査技師は、臨床検査技師の業務のうち、生理学検査以外の検査、すなわち検体検査を行うことができる。業務独占部分のない名称独占資格である。 かつては医学、歯学、獣医学又は薬学の正規の課程を修めた(卒業した)者であれば、申請により無試験で厚生労働大臣から免許を受けることができた。 しかし、臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第39号)により、平成23年4月からは新規の免許は交付されなくなった。 今までの免許取得者はこれまで同様に業務を行うことができる。 労働衛生コンサルタント臨床検査技師又は衛生検査技師として10年以上その業務に従事した者は、労働衛生コンサルタントの受験資格が付与される。 国際臨床検査技師米国臨床病理学会(ascpi)による認定制度で、米国と同様のカリキュラムと認められれば受験資格を得られる。 日本における現状臨床検査は元来医師が行っていたものであり、法的には医師は(歯科医業を除く)全ての医療行為を「医業」として行えるとされているし、看護師は診療の補助の範囲で検査を行うことが可能とされているため、小規模施設やベッドサイド、診察室で出来るような簡易な検査など一部検査については、現在でも医師や看護師が行うことはある。 しかし、現在医師や看護師が臨床検査を実施することは上記の場合を除けば少なくなり、専門的な知識技術を身につけた臨床検査技師が専ら行っている。医療の分業化と臨床検査の高度化が進み、現在の医療に臨床検査技師は不可欠の存在となっている。 医療機関以外にも衛生検査所(検査センター)・研究所・保健所・検疫所・監察医務院などで勤務している。 さらに、体外受精に関わる胚培養の業務にも多くの施設では臨床検査技師が携わっている。 また、臨床開発・医療機器メーカー・製薬メーカーなど一般企業にも活躍の場が広がっており、多くの臨床検査技師が活躍している。[10] 臨床検査技師は、男女比=3:7程度で女性が多いといわれる。 それは、生理検査とりわけ心電図や超音波検査のように患者の脱衣が必要な検査での女性技師のソフトな対応が適しているのと、看護職と比べて平均して技師には夜勤が少なく、勤務が比較的規則正しく、結婚や出産育児に伴う女性技師の離職率は他の医療職に比べて低いなど家庭への負担という面でも女性が多い理由の一つといえる。 臨床検査技師の求人減少の原因が、かつては自動化の進展による省力化が原因といわれて久しいが、検査料診療報酬は底打ちとなって、むしろ微生物検査や外来迅速検査加算・採血料の増額、臨床検査技師による検体採取業務の新設、患者への検査内容の説明、糖尿病療養指導や院内感染対策チーム、栄養サポートチームへの参加など、業務内容は広がりを見せている。 最近では、2020年にかけて世界的流行した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」に際して、検体採取やPCR検査での臨床検査技師の重要度が再認識された。 臨床検査技師は、国境なき医師団の参加資格としても認められており、日本だけにとどまらず世界で活躍する臨床検査技師も増えつつある。 臨床検査技師は、国家試験に合格して就職したとしても、実際の現場で使えるようになるまでには数年かかるといわれている。近年は就職先の多くが即戦力を求める傾向が強い上に、医師における研修医制度のような育成システムが臨床検査技師にはないため、採用後知識や技能を得て一人前になるまでの数年間はハードなものになることが予想される。 また、他の医療職同様に卒後教育の重要性が指摘されている。団塊の世代の大量退職は、求職者にとっては喜べるものではあるが、病院にとっては団塊世代退職後の優秀な人材確保が大きな課題となっている。
日本の臨床検査技師免許を持つ著名人脚注注釈
出典
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