コードレス電話コードレス電話(コードレスでんわ)は、固定電話回線などに接続された親機と子機との間を無線通信で結ぶ電話機およびそのシステムである。原則として、電話回線に接続された親機を加入者が設置し、その親機が設置された宅内あるいは構内とその近傍でのみ通話可能である。基地局を通信会社が設置する携帯電話・公衆モードのPHSなどの移動体通信とは異なる。 システムの概要コードレス電話システムは家庭や事業所(オフィス)内で無線通信を利用する電話システムであり、その規格は一般には無線通信の免許が不要で済むような家庭や事業所向けの製品に対応したものとなっている[1]。コードレス電話は公衆電気通信網に接続される端末設備であり、電気通信回線設備に直接又は端末系有線伝送路を経由して接続しているものを親機という[1]。親機と家庭や事業所内の各所に配置する子機とは無線の通信回線によって接続される。子機間での通話(子機間通話)は親機を介せば同時通信できる機種や、親機を介さずトランシーバーとして交互通信できるよう設計されている機種もある。 コードレス電話システムは公衆電気通信回線網に接続せず宅内や事業所の同一構内で独立して運用する場合もある[1]。 コードレス電話にはアナログ方式とデジタル方式がある[1]。デジタルコードレス電話の方式としては欧州電気通信標準化機構 (European Telecommunications Standards Institute、ETSI) で標準化されているDECT (Digital Enhanced Cordless Telecommunication) 方式などがある。DECT方式は国際電気通信連合 (ITU) でIMT-2000の一方式として承認されており[1]、DECT方式のコードレス電話機は2008年の全世界での販売実績が年間約6千万台以上となっている[1]。 →詳細は「DECT」を参照
日本におけるコードレス電話歴史日本のコードレス電話システムは1987年(昭和62年)にアナログコードレス電話、1993年(平成5年)にデジタルコードレス電話が制度化され、さらに高速データ通信等への対応のために技術化された新方式のデジタルコードレス電話の導入が進んでいる[1]。
アナログコードレス電話仕組み親機・子機それぞれに総務大臣から異なるID(呼出符号)が指定[21]され、親機に子機を登録することで使用可能となり、不正使用を防いでいる。 登録は当初は販売者でなければできなかったが、子機が別売りされるようになり、加入者ができるようになった。マルチチャネルアクセス無線方式で、他の無線局が使用していないか確かめてから電波を発信するキャリアセンス機能で混信を避ける。 スペクトル反転式秘話装置を内蔵し傍受されにくくなっている機種やコンパンダ(圧縮伸張器)を内蔵し電波が弱いときのノイズが聴感上気にならないようにしている機種がある。 小電力コードレス電話送信周波数は親機380.2125 - 381.3125MHz・子機253.8625 - 254.9625MHzである。 アナログ業務無線と同じ周波数変調であるため、受信機さえ用意すれば、半径50m程度なら簡単に傍受できてしまう。高層住宅等で使用した場合、数km先まで電波が到達することもありうる[22]。スペクトル反転式秘話装置は動作原理が単純であるので、解読装置を受信機に接続すれば秘話解除されてしまう。 一般家庭用のほか、事業所コードレス電話と呼ばれる、企業などの内線電話として多数の親機を設置して構内の各場所での通話を可能にしたシステムもあったが、2000年代に入り構内PHSシステムや無線IP電話(IPセントレックス)に置き換えられるようになった。 親子間通話の機能のみを利用しクレーン合図用とした製品[23]もある。連続送信できる同時通話形の無線電話用特定小電力無線局の出力は1mWなので、より安定した通信が期待できる。 微弱電力コードレス電話微弱無線局の一種で出力は電波法令に定める微弱電力の範囲内、周波数は機種ごとに異なり技術基準適合証明も要さない[24]。 小電力コードレス電話に比べ、通話可能な親機と子機との距離が短く音質が悪い。自由化初期に低価格製品として販売されたが、微弱電波のために通信が不安定で、1990年代の小電力コードレス電話の価格低下に伴い製造されなくなった。 デジタルコードレス電話第二世代デジタルコードレス電話→「PHS」も参照
公衆サービスのPHS(公衆PHS)と、同方式で1.9GHz帯を共用する。自営PHSとも呼ばれる。この方式にも総務大臣からIDが指定される。 PHS端末を親機に登録すれば子機として用いることができる。PHS自営モードを用いた医療機関、工場等の構内PHSシステムとしての使用が主たる用途となっている。 高度化PHSも1.9GHz帯[25]を使用するが、コードレス電話としての製品は確認されていない[26]。なお、電気通信事業としてのPHSは一部を除き2021年2021年1月31日にサービス終了した[注釈 1][27][28]が、自営PHSとしての使用は電気通信事業にあたらないため、事業終了後も利用可能である[注釈 2][注釈 3]。 DECTによるレトロニムとして、(2G相当の)自営PHSを「狭帯域デジタルコードレス電話」と呼ぶ場合もある[29]。 2.4GHz帯デジタルコードレス電話FHSS-WDCT (Frequency Hopping Spread Spectrum - Worldwide Digital Cordless Telephone) に準拠する。PHSと互換性はない。デジタル方式であることと周波数ホッピングであることにより、傍受されにくい(市販の受信機では傍受困難)。 電波法令上は、小電力データ通信システムの無線局として無線LAN (Wi-Fi) などと同等の扱いである。 種々の機器と共用している周波数であり、混信等の妨害は不可避であるのでその旨の表示がされている。ISMバンドを用いる高周波利用設備からは、有害な混信を容認しなければならない[31]とされ、特に電子レンジの動作中には大きな妨害を受ける。 また、免許・登録を受けて運用する無線局から、有害な混信等も容認しなければならず、逆に無線局から使用中止を要求されたら、それに従わねばならない。更に、同等の機器に対しては、先に使用しているものが優先するが、実際には混信等を完全に回避できるものではない。 →「ISMバンド」も参照
デジタルコードレス電話の新方式日本国内において、前述の自営PHS用の帯域(1.9GHz帯)で高速データ通信を可能にする新方式として、前述の「DECT」と、XGP (eXtended Global Platform) の流れをくむ『sPHS方式』の2方式が規格として検討された[32]。2者のうち実用化されたのは(日本型)DECTで、sPHSはされなかった。 sPHS方式に代わり、TD-LTE基盤として公衆用端末とも互換性の高い、sXGP (shared XGP) 方式が2016年から検討されている(「LTE方式のデジタルコードレス電話に係る技術的条件」)[33]。
表示#歴史に述べたとおり、コードレス電話には技術基準適合証明と技術基準適合認定の両者の認証を要する。表示を要する事項とコードレス電話に関する内容は、次のとおりである。 2014年(平成26年)10月1日[35]現在
出荷台数
旧技術基準による機器の使用期限#歴史の項でも触れたが、2005年(平成17年)12月に無線設備規則のスプリアス発射等の強度の許容値に関する技術基準の改正[46]により、旧技術基準に基づき認証された適合表示無線設備の使用期限は「平成34年11月30日」[47]とされた。 旧技術基準の無線設備とは、 である。 本記事で解説されているものの内、該当するのは
である。 この使用期限は、2021年(令和3年)8月にコロナ禍により[50]「当分の間」延期された。[51] この延期により特定小電力無線局は、本記事以外で解説されているものを含め旧技術基準の適合表示無線設備は、新たな使用期限が設定されるまで、令和4年12月1日以降は「他の無線局の運用に妨害を与えない場合に限り」使用可能とされた[52]。 不法コードレス電話規制電波を発射する機器は電波法に基づく総務大臣の無線局の免許を受けるのが原則である。コードレス電話はこの規定の例外の小電力無線局の一種として技術基準適合証明を要する[53]。 「日本国外製は日本製より電波の到達範囲が広い」などを売り文句にしている販売業者があるが、日本国外仕様のコードレス電話の販売や所有に法的規制は無いものの技術基準には適合していないものが多い。技術基準適合証明を受けていない機器を使用することは不法無線局を開設したとして電波法第4条違反となり、第110条に規定する罰則の対象にもなる。 このようなコードレス電話が、不法コードレス電話である。 すなわち、技術基準に適合している証明である技適マークが無ければ日本国内で使用してはならない。この技術基準には「容易に開けることができないこと」[54]とあり、特殊ねじなどが用いられているので、使用者は改造はもちろん保守・修理のためであっても分解してはならない。日本国内向けであっても改造されたものは、技術基準適合証明が無効になるので不法コードレス電話となる。 また、コードレス電話を含め技術基準適合認定の無い端末機器をNTTなど電気通信事業者の回線に接続を請求することは電気通信事業法第52条により拒否されることがある。 技適マーク#規制事項も参照。 沿革1980年(昭和55年)頃から、主に不法市民ラジオと同様に、ユニデンなどの日本国内メーカーが輸出していたものが逆輸入されて、秋葉原などの電気街などで販売されていた。電波法はもとより、電気通信事業法施行以前(1984年度(昭和59年度)まで)は、日本電信電話公社の回線に接続することは、公衆電気通信法にも違反していた。 それでも、黒電話しか選択肢の無かった時代に、受話器コードを気にせず自由に話せるスタイルや、日本国外向け製品であるため、洗練されたデザイン、ダイヤル回線でプッシュボタンが使える、短縮ダイヤルなど多彩な機能で、密かな人気を集めていた。中には、伝達距離が数十kmクラスの飛距離を誇るハイパワータイプも現れ、携帯電話の出現前で、自動車電話が高嶺の花の時代に、違法を承知で使用する者も現れた。 そんな中、京セラが勇み足で、独自の規格を用いて、日本国内向けのコードレス電話を発売した。無認可機器であること、使用している周波数が自衛隊に割り当てられた周波数だったことなどから、国会で取り上げられてしまう。しかしこれが世論を掻き立て、折から日本電信電話公社からNTTに移行した直後の電気通信自由化にともなう「端末の自由化」の波に乗って、一気にコードレス電話が自由化した。自由化後には、不法コードレス電話は減少したものの、根絶したとは言えない。 措置局数
欧米におけるコードレス電話ヨーロッパヨーロッパでは1988年に欧州電気通信標準化機構 (European Telecommunications Standards Institute、ETSI) がDECT (Digital Enhanced Cordless Telecommunication) の標準化作業を開始し、1,880~1,900MHzを標準とする周波数帯が利用されている[1]。
アメリカ合衆国アメリカ合衆国では連邦通信委員会 (Federal Communications Commission、FCC) が規則を改正してUS-DECT (DECT6.0) と呼ばれる方式が2005年に認可された[1]。北米では1,920~1,930MHzを標準とする周波数帯が利用されている[1]。
メーカー2014年現在の日本国内販売メーカー
NTTグループが、各社のOEM製品を販売。 (50音順) 過去には京セラ・ソニー・ケンウッド(現JVCケンウッド)・ ユニデン(現・ユニデンホールディングス、1980年代にジャック・ニクラウスを起用したCMで、コードレスフォンが普及していなかった米国にコードレスフォンブームを起こした[63]。)[64]なども製造・販売していた。 その他2006年(平成18年)、千葉県銚子市の民家で使われていたコードレス電話から243MHzの遭難信号が繰り返し発射され、海上保安庁が複数回出動する事態となった[65]。その後、コードレス電話の電池劣化により稀にこのような現象が発生することが判明し[66]、NTT東日本とNTT西日本は回収・交換措置[67][68]を取っている。 脚注注釈
出典
関連項目
外部リンク |