Share to: share facebook share twitter share wa share telegram print page

 

いわき2人射殺事件

いわき2人射殺事件(いわき2にんしゃさつじけん)とは、2003年日本福島県いわき市で発生した殺人事件。上告審では量刑をめぐって裁判官の判断が分かれる異例の経過をたどった。

事件発生から起訴まで

2003年にいわき市内の飲食店の経営権を巡って、住吉会暴力団に所属する建設業者と他組員とトラブルになったことが原因で、10月下旬に住吉会系暴力団組員X(逮捕当時25歳)が他組員Y(逮捕当時23歳)ととび職Z(逮捕当時25歳)の計2人に殺害計画を持ちかけ、広野町上浅見川の山林に穴を掘るなど計画的に殺害の準備を進めた上で、11月24日深夜、建設業者A(当時26歳)と建設業者に雇われていた従業員B(当時24歳)を射殺し、建設業者が所持していた鞄に入っていた現金30万円を奪い、2人の遺体を乗用車で運び、広野町上浅見川の山林に遺棄した[1][2][3]。主犯がX、殺害を実行したのがYである。

2003年12月5日から16日にかけて、いわき中央警察署はX、Y、Zを死体遺棄容疑で逮捕した[2][4][5]

2004年1月7日までに福島地検いわき支部は3人を死体遺棄罪で福島地裁いわき支部に起訴した[6][7][8]

2004年1月9日、いわき中央警察署捜査本部は3人を強盗殺人容疑で再逮捕した[3]

2004年1月30日福島地検は3人を強盗殺人銃刀法違反の罪で福島地裁に起訴した[3][9]

裁判

2004年3月26日福島地裁(大沢広裁判長)で初公判が開かれ、X、Y、Zの3人とも被害者2人を殺害したことは認めたが、Xのみ強盗目的を否認し「強盗殺人罪は成立せず殺人罪窃盗罪が成立する」と主張した[10]

2004年12月24日、論告求刑公判が開かれ、検察側はXを首謀者、YとZを実行犯と認定した上で「拳銃で無防備な被害者を狙うなど、冷酷で残虐」としてXとYに死刑を、Zに無期懲役求刑した[11]

2005年4月22日、福島地裁(大沢広裁判長)で判決公判が開かれ「半月以上にわたり殺害の機会をうかがうなど、極めて計画的」などとして3人に無期懲役の判決を言い渡した[12][13]

判決では強盗殺人罪の成立は認めたものの、「犯行の発端はXが交際相手を被害者である建設業者に奪われたことに逆上したことだった」と認定し、「無関係な第三者から金品を奪って殺害する典型的な強盗殺人と類型を異にする」「YはXに指示されて犯行を実行した」「Zの刑事責任はXやYよりは重くないが酌量の余地はない」などと量刑の理由について述べた[12]。Zは控訴しなかったため、無期懲役の判決が一審で確定した。検察側はXとYについて死刑の適用を求め控訴し、XとY側も量刑不当を理由に控訴した。

2005年11月1日仙台高裁(田中亮一裁判長)で控訴審初公判が開かれ、検察側は「罪責は重大で死刑をもって臨むほかはない」として量刑不当を理由に改めて死刑の適用を求めた[14]。一方、弁護側は「殺人でなく強盗殺人であると認定した上に情状を検討せず、過度に重い刑を科した不当な量刑だ」と量刑不当を述べて即日結審した[14]

2005年12月22日、仙台高裁(田中亮一裁判長)で控訴審判決公判が開かれ「強盗殺人が成立すると言う原判決に誤りはない」とした上で「量刑が不当であるとまでは言えない」として一審・福島地裁の無期懲役判決を支持、検察とXとYの控訴を棄却した[15]。この判決に対し、2006年1月5日仙台高検は「極刑以外にはあり得ない」などとして判決を不服として上告した[16]。Xも同日までに上告した[16]

2008年2月20日最高裁第一小法廷(涌井紀夫裁判長)は検察側とX側双方の上告を棄却する決定をし、XとYを無期懲役とする一、二審判決が確定した[17][18]

ただし、Xについては無期懲役判決を維持して上告棄却とする裁判官が3人、死刑を求めて2審判決を破棄差戻しとする裁判官が2人と意見が分かれる異例な結果となった[17][19]

XとYの両被告について無期懲役を維持して上告棄却とする多数意見の涌井紀夫横尾和子泉徳治は「犯行の態様が一般市民を巻き込むようなものではなかった」「(X、Yとも)比較的若年で前科はない」などとして「X、Yとも無期懲役に処した原判決について破棄しなければ著しく正義に反するとまでは言えない」と結論付けた[17][20]

一方で、Yについては無期懲役を維持(検察側の上告を棄却)するがXについて死刑を求めて破棄差戻しとする(検察側の上告を認容する)少数意見として、甲斐中辰夫才口千晴は「被害者が暴力団員だからといって、これを酌量すべきではない。本件は拳銃を使用した凶悪犯罪であることを重視すべきだ」「首謀者であるXの刑事責任は共犯者のYと差があってしかるべき」などとして先例に照らせばXは死刑が妥当とした上で、他に死刑を回避するに足りる酌量すべき事情があるか否かさらに審理を尽くすために仙台高裁に差し戻すべきと結論付けた[17][21] [22]

また、才口は「裁判員制度の実施を目前にして死刑と無期懲役との量刑基準も可能な限り明確にする必要もある」として刑の量定等に対する判例の統一を最高裁が図る必要があると付言した[23]

参考文献

最高裁判所の判決文

脚注

  1. ^ 読売新聞』2003年12月6日 福島 東京朝刊 福島28頁「広野の山林から2人の他殺体 暴力団内部トラブルか 関係者から事情聞く=福島」(読売新聞東京本社
  2. ^ a b 『読売新聞』2003年12月13日 福島 東京朝刊 福島28頁「広野の山林、2遺体遺棄容疑 共犯の25歳男逮捕=福島」(読売新聞東京本社)
  3. ^ a b c 『読売新聞』2004年1月10日 福島 東京朝刊 福島24頁「広野の死体遺棄 組員ら3人再逮捕 2人を射殺、現金奪った疑い=福島」(読売新聞東京本社)
  4. ^ 『読売新聞』2003年12月5日 全国版 東京夕刊 夕社会19頁「知人2人殺害に関与 遺棄容疑の組員逮捕/福島・いわき中央署」(読売新聞東京本社)
  5. ^ 『読売新聞』2003年12月16日 福島 東京朝刊 福島32頁「広野の2射殺体 遺棄容疑で暴力団組員を逮捕=福島」(読売新聞東京本社)
  6. ^ 『読売新聞』2003年12月27日 福島 東京朝刊 福島24頁「広野の2人死体遺棄事件 とび職の男を起訴=福島」(読売新聞東京本社)
  7. ^ 『読売新聞』2004年1月6日 福島 東京朝刊 福島24頁「広野の2他殺体事件 死体遺棄 罪で組員起訴=福島」(読売新聞東京本社)
  8. ^ 『読売新聞』2004年1月8日 福島 東京朝刊 福島26頁「広野の死体遺棄 組員ら3人、再逮捕方針、強盗殺人の容疑で今週中にも=福島」(読売新聞東京本社)
  9. ^ 『読売新聞』2004年1月31日 福島 東京朝刊 福島28頁「いわき2人射殺事件 強盗殺人などで3容疑者を起訴=福島」(読売新聞東京本社)
  10. ^ 『読売新聞』2004年3月27日 福島 東京朝刊 福島30頁「いわき・2人射殺 3被告初公判 1被告が「金目的」否認=福島」(読売新聞東京本社)
  11. ^ 『読売新聞』2004年12月25日 福島 東京朝刊 福島30頁「いわきの2人射殺 2人に死刑、1人に無期懲役を求刑=福島」(読売新聞東京本社)
  12. ^ a b 『読売新聞』2005年4月23日 福島 東京朝刊 福島29頁「いわきの強盗殺人 3被告に無期懲役 地裁判決=福島」(読売新聞東京本社)
  13. ^ 毎日新聞』2005年4月23日 東京朝刊 社会面29頁「福島・広野町の死体遺棄:2人射殺の組員らに無期判決--福島地裁」(毎日新聞東京本社【西嶋正法】)
  14. ^ a b 『読売新聞』2005年11月2日 福島 東京朝刊 福島35頁「いわきの強盗殺人控訴審 検察、弁護側とも1審判決破棄主張=福島」(読売新聞東京本社)
  15. ^ 『読売新聞』2005年12月23日 福島 東京朝刊 福島25頁「いわきの強盗殺人控訴審 地裁判決を支持=福島」(読売新聞東京本社)
  16. ^ a b 『読売新聞』2006年1月6日 福島 東京朝刊 福島27頁「いわきの強盗殺人 仙台高検が上告 「極刑以外あり得ぬ」=福島」(読売新聞東京本社)
  17. ^ a b c d 『読売新聞』2008年2月23日 全国版 東京朝刊 社会39頁「福島の組員2人射殺 最高裁、判断割れる 1、2審の無期判決確定へ」(読売新聞東京本社)
  18. ^ 最高裁判所第一小法廷 2008, p. 1.
  19. ^ 最高裁判所第一小法廷 2008, p. 3,11.
  20. ^ 最高裁判所第一小法廷 2008, p. 2,3.
  21. ^ 最高裁判所第一小法廷 2008, p. 3,4,8.
  22. ^ 『毎日新聞』2008年2月23日 東京朝刊 総合面28頁「福島・広野町の強盗殺人:「無期」に反対意見 2裁判官、差し戻し主張--最高裁」(毎日新聞東京本社【高倉友彰】)
  23. ^ 最高裁判所第一小法廷 2008, p. 10,11.

関連項目

Kembali kehalaman sebelumnya